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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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自身の役割

 さらに敵陣へ……限りなく無謀な賭けであることは間違いない。そもそも軍勢の総大将を倒して、進撃が止まるのかさえわからない。だがそれでも、指揮する者がいなくなれば魔物は町を狙う可能性が低くなる……だからこそ俺達は、馬を駆り魔族へ迫っていく。

 もし相手が逃げることを選択したなら、厄介な状況だった。攻めるよりも退く方が俺達にとってはやりにくい。なぜならこの戦いは短期決戦。目標を遂行できなければ俺達の負けであり、最悪魔王軍の中で力尽きる可能性があるためだ。


 とはいえ、魔族側としては俺達の動きから退却するなんて選択肢は、とりたくないだろう……元来、魔族は人間という存在を見下している。しかもこの戦況は俺達が局地的に勝利しているだけで、実質魔王側は優位な状況……あくまで噂程度の情報でしかないが、もし人間に背を向けて逃げれば同胞からは馬鹿にされ、見下される……そんな屈辱が耐えられないのだとしたら、俺達の突撃に対し逃げるようなことはしないはず。

 果たして、魔族の選択は……俺達の突撃に対し、魔族は前に進んだ。どうやら徹底抗戦の構えのようだ。


 俺達としては都合の良い形であるため、一気に突っ込んでいく……魔物達を一蹴し、俺達は確実に魔族へ迫っていくわけだが、相手はそれでも対抗する意思を示したか、魔物を自身の近くに集結させていく。

 数で俺達の馬を足止めしようという魂胆なのだろう……けれど、魔物は例外なく一撃で消え失せるため壁の役割すら果たせていない。ならばと魔族は手を振り何事か指示を下す。どうやら俺達の左右から魔物を向けるようだ。確かに側面からの攻撃ならば、こちらの動きを縫い止める可能性はある。


 だがそれよりも先に、俺達は駆け抜けていく……セレンを先頭に魔物の軍勢の中を駆け抜けているわけだが、まったく意に介していない。もはやこの勢いで大軍勢を全て倒せるのでは……そんな風にさえ感じられるほどのものだった。

 そして、俺達は驚くべき速度で魔族に肉薄した。とはいえ今までの魔族と比べてその気配は一回り大きい。さすがに一撃で仕留めるのは……と思いつつ、セレンはそれでも駆け抜けていく。


「覚悟!」


 彼女は声と共に刃を差し向ける。その瞬間、俺は自分の役目がどういうものなのかを理解する。


「ちっ……!」


 舌打ちと共に魔族は回避に転じようとする。だがセレンの刃が一歩早い……! というより、彼女は間合いをきちんと理解し、魔族の動きを正確に捉えている。

 だからこそ彼女の刃が当たる……斬撃は魔族の体を縦に駆け抜けたが、


「なめるな、人間ども……!」


 一撃とはいかない様子。だがそこへ、俺が接近する。


「……なっ!?」


 魔族が声を上げたのは、俺の刃が今まさに届こうとしている時だった。刹那、俺の斬撃が相手の脳天へと突き刺さる。わずかな抵抗すらなく……その剣は、魔族を両断することに成功した。

 魔族は滅び、周囲にいる魔物達がうめき声を上げる。さすがに総司令官を滅した以上、魔物についても影響があるようだ。俺達を狙う個体もいるのだが、それよりも動きを止め何かを待っているような個体も現れる。


 もちろん魔族は残っているため、別の魔族が総司令官の代わりになれば、魔物の行軍は再開するはずだが……、


「次は、あの魔族に」


 さらにセレンは告げる。切っ先が指し示す場所に、魔物を統制するためかあちこちに指示を送るような所作をする魔族がいた。


「アイツを倒したら、一度離脱しよう」

「どうするんだ?」

「馬を変えてから今度は別の場所に突撃する」


 その明瞭な返答に笑い出しそうになった……が、彼女の目は真剣そのものだ。

 無茶なことをやっている、というわけではない。彼女としては確実にいけると踏んで行動しているのが、俺にも伝わってくる。


「付き合うぜ」


 ヴィオンが返答。俺も頷き、カイムもまた同意する。

 それにセレンはにこやかに――俺は先ほど考えた役目を思い起こす。


 それは何なのか……セレンの無茶を止めるわけではない。彼女であっても足りない部分はある。魔族を一撃で仕留められなかったことはまさしくそれだ。

 彼女としては倒せなくとも、旋回でもして一気に倒しきるつもりだったのだろう。魔族は耐えたといっても動きは止まっていた。その間にセレンが追撃をかけることは十分可能だったはず。


 しかし、それ自体にリスクはあった。魔物の動きによってはセレンの馬が止められていた可能性がある。確実なのは……後続にいた俺が仕留めることだ。そしてそれは、見事果たした形だ。


「アシル」


 そして彼女は俺へ告げる。


「さっきのフォロー、ありがとう」

「礼がいるようなことはしていないさ……俺が倒して良かったんだよな?」

「もちろん。カバーは頼んでいい?」

「ああ、いいよ」


 同意と共にセレンは俺へ笑みを見せた後、周囲の敵を蹴散らしながら、


「魔族へ向かう!」


 勇壮な声と共に、馬を走らせる。それに俺達は追随し……魔王軍の中で、奮闘し続けた。






 その後、狙いの魔族をセレンが一刀で倒した後、俺達は一度離脱した。敵の進軍を食い止める騎馬隊の面々が歓声を上げる中、俺達は馬を替えることに成功した。


「さて、それじゃあ――」

「待て、騎士セレン」


 と、騎馬隊の隊長が呼びかける。


「そちらの活躍によって敵の動きも大きく鈍っている。少し休憩してくれ。知らずうちに疲労がたまっているかもしれないんだ」

「でも……」

「王都の喉元である以上、あなたが頑張るのは理解できる。しかし、私達のことも信用してくれ」


 ――騎馬隊は、動きの乱れた魔王軍を確実に抑えていた。さらに俺達が交戦する間に城から援軍も到来。敵の進撃はおおよそ止まり、膠着状態に入ろうとしていた。


「……わかりました」


 そこでセレンも同意。深呼吸をして、逸る気持ちを抑え込む。

 俺は平気だが、さすがに勇者二人やセレンは感じていないにしろ疲れているかもしれないので、隊長が止めた形か。さすがに連戦は見えない疲労も出るだろうから、ここは賢明な判断か。


 状況は最初の時点から大きく進展している。とはいえ依然攻め込まれているのは間違いないので、まだ緊張状態は続いているが……ひとまず、休憩で良さそうだった。


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