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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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圧倒的攻勢

 魔族を撃破した瞬間、魔物達が吠え始め俺達へと狙いを定めた。そのように命令されていたか、あるいは指揮官がいなくなったことにより統制が利かなくなったか……普通ならこれは危機的状況と言えるかもしれないが、俺達にとっては好都合だった。


「はっ!」


 近寄ってきた敵を俺は片っ端から殲滅していく。敵が都ではなく俺達を目標にする……元々押し寄せる敵を倒すために俺達は出陣したため、この動きは非常にありがたい。

 それはセレンも同じように感じているらしく、魔族を倒した矢先、即座に周囲から迫ってくる魔物の掃討を始めた。合わせるようにヴィオンやカイムもまた剣を振る……相談などしていないが、今後の方針があっさりと決まった瞬間だった。


 ただ、体力的に目前にいる魔物達を全て殲滅するのは……と思いつつ、馬上から一閃。余すところなく敵は吹き飛び、滅びていく。

 それを幾度となく繰り返し……やがて魔物が警戒したか遠巻きに俺達を観察し始めた時、セレンは口を開いた。


「さすがに全部突っ込んでくるわけじゃないか」

「突っ込んできたら、倒すつもりだったのか……?」


 思わず尋ねたのだが、彼女は何でもないことのように、


「うん」

「体力はもつのか?」

「大丈夫」


 ……なんというか、底が知れないというか。おそらく目前にまで迫られているという点についても、彼女が戦おうとしている理由なのだろう。ただ、大軍勢を目の前にして啖呵を切るというのは尋常じゃない。


「どうする? このまま留まって戦い続けるのか?」


 ヴィオンが雷光を放ちながら問いかける。彼の攻撃は遠巻きにし始めた魔物にさえ直撃し、敵側はさらに後退する。


「敵だって馬鹿じゃないだろ。俺達を無視して王都へ向かう可能性が高そうだ」

「そうだね……なら、方針を変えずに魔族を倒そう」

「指揮官を、ってことか……」


 俺は呟きながら視線を周囲へ向けた。魔族らしき気配は軍勢の至る所に存在する。俺達が倒した魔族は最前線の指揮官で、他にも指揮官級の魔族が多数いる。


「それらを倒せば、勝利ってことか?」

「魔物を殲滅しない限りは王都に平和は来ないと思うけれど、少なくとも理路整然とした敵軍を抑えるにはそれしかないと思う」

「なら、早速やろうじゃないか」


 ヴィオンは仕切り直しとばかりに、馬上で剣を軽く素振りした。


「大変だとは思うが……ただ質問が。飛び込んだ際は限りなく少数精鋭だった。それで進むのか?」

「余計に部隊を抱えたらそれだけで身動きがとれなくなる可能性もあるから」


 ……この面子なら、敵軍の中でも上手く立ち回れるとは思うが、リスクがあるのは事実。けれど無理をしなければ敵を倒すことはできない。

 なら、その役目を俺達が……俺は頷き賛同すると、カイムもまた同意する。


「よし、なら……このまま進む。次の狙いは、あの魔族!」


 セレンが切っ先を向けた矢先、馬を走らせ魔物へ突撃を開始した。それに俺達は追随。直後、俺の魔力が剣を通して放たれ――セレンの進路にいる魔物を粉砕した!






 魔族は俺達を止めるべくあの手この手で仕掛けてくる。突撃する俺達の進路を単純に阻むのではなく、横から攻め立てる。だが俺達の剣はそれを平然と一蹴する。ただ魔物をよこすだけでは意味がない。


 ならばと魔族は魔法を操る魔物を利用し遠距離攻撃を試みた。雷撃や氷柱など、頭上から飛来してくるのだが……その全てを結界により防ぎきった。そもそも魔物レベルの魔法であれば、直撃しても俺達にダメージはないだろう。俺もセレンも、ヴィオンやカイム達も実力者であることは間違いなく、魔族クラスの攻撃でなければ通用しない。

 だからこそ、次の魔族に対しては驚くほどあっさりと眼前まで迫った。向こうは向こうで対策を練ったみたいだが、それを全て無にするようなセレンの剣戟が、魔族を粉砕した。断末魔さえ上げることなく、魔族の体が消え失せる。


 直後、一体目を倒した時と同様に周囲にいた魔物の動きに変化が。命令系統が一時喪失したため、魔物が思い思いの行動をするようになる……どうやらそういう仕組みらしい。

 魔族の周辺にいた魔物達が一斉に俺達へ向け……とはいえ、軍勢に対しそれはあくまで一部分。魔族を倒し動きを縫い止めている様子だが、これがいつまで続くかはわからない。


「敵はどうすべきか迷っている感じだな」


 俺の言葉にセレンは小さく頷く。


「そうだね。私達を始末するか、それとも無視して王都に進撃するか……私達の動きによって敵の動きは止まっている。それに」


 と、セレンは騎馬隊のいる方角へ首をやった。俺も何が言いたいのか理解できる。


 現状、俺達は敵陣奥深くまで突っ込んでいるわけだが、王都へ向かう手勢もいる。けれど今は騎馬隊がそれに対応している。俺達の動きによって軍勢がかき乱され、進軍速度が鈍っているのも影響しているようだ。魔族側がとれる選択としてはこっちを先に仕留めるか王都へ向かうかだが、決めあぐねているようだ。

 もしこの戦場の状況を変えるのであれば、俺なら騎馬隊を狙うのだが……敵側は迷っている。ならば、


「この隙に別の魔族へ……が、俺達にとって最適解か?」

「そうなるね」


 セレンが賛同。勇者二人もそれに頷き、


「次の目標は、あっちだね」


 セレンは的確に魔族を捉え、逐一指示をしていく……敵からすればたまったものではないだろう。馬を走らせ、俺達が迫る。この段に至り、敵の攻撃も苛烈になるが、こちらはそんなこと知るかと言わんばかりに突撃していく。

 この調子なら、指揮官クラスの魔族を討伐できるのもそう遠くない……と、ここで魔族側も動いた。俺達を放置するのがまずいと悟ったか、次第に軍全体が俺達へ殺気を向ける。


「敵の動き方は決まったみたいだが……どうする?」

「真正面から斬り込んで勝てるかどうかは怪しいな」


 と、ヴィオンが冷静に分析した。


「俺達の力なら、この戦場において魔物相手なら楽勝だが、体力がもつかどうかは不明だ」

「そうだな」


 俺は敵軍の総数を見ながら告げる。万の軍勢……とまではいかないにしろ、その数はかなりのものだ。一撃で魔物を粉砕できているとはいえ、このまま全部片付くとは思えない。


「セレン、そっちは――」


 彼女に問いかけようとした矢先、その視線がずいぶん遠くへ向けられていることに気づく。そして、


「……見つけた」


 セレンが告げ、剣で指し示す。そこに、魔族がいたのだが、


「明らかに他の魔族と気配が違う。あれがおそらく、総大将」

「……アイツを倒して、敵がどうするか判断するのか?」

「やってみる価値はあると思う。それに、ここまで敵陣に攻め込んでいる……チャンスは今回しかない」


 ――なるほどと、俺は思う。セレンはどうやら総司令官を倒すために動いていたと。


「失敗したら全滅だけど」

「でもアシル、できると思ってるでしょ?」

「……まあな」

「そうだな」


 ヴィオンは同意し、カイムなども臨戦態勢。そこでセレンは決断する。


「なら目標――魔王軍の総大将! このまま、突撃する――」


 号令と共に、俺達はさらに魔力を高め魔族へ向け進撃を開始した。


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