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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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騎士団長の頼み

 数日後、魔王を討伐するということを正式に表明し、ウィンベル王国内では人々が沸き立った。とうとう因縁の存在に終止符を……誰もが希望を抱き、ついにという期待感が多くの人々の胸に宿り始めた。

 時折城内から外へ出ると、魔王討伐を果たせる――そういう人々の声が聞こえてくる。それを聞きながら俺は出陣の日まで過ごすことに。


 そして、いよいよ都を立つ前日……騎士ジウルードに呼ばれ、俺に指示を行った。


「君の役割は、セレンと共に動いてくれ」

「騎士セレンと、ですか?」

「ああ。この都で過ごしてもらって……親交も深まっているようだし、それがベストだろうという判断だ」


 何度も彼女と剣の訓練をしているし、俺とセレンのことは多くの人が周知している……そこからジウルードは組ませた方が良いと判断した様子だ。


「もっとも、敵の出方に応じてセレンの動きは変わる。よって、君も遊撃的な立ち回りを要求されてしまうのだが」

「俺は構いませんよ」


 むしろそうやって動く方が性に合っていそうだし……するとジウルードは納得したように頷き、


「では、そのように頼む……馬は乗れるのだったな? では、出陣の際はセレンの横にいてもらおう」


 そうして段取りが決まっていくのだが……セレンの方も今日、色々と仕事があるらしく、俺は目にしていない。


「確認ですけど、セレンの方には……」

「無論伝えてある。彼女としても気心の知れた人間と組めて嬉しいらしい」


 同僚とかじゃなくて? などと思ったのだが……その疑問の答えは他ならぬジウルードからもたらされた。


「色々な事情があり、彼女は騎士団にあまり馴染めていないからな」

「馴染めて……いない?」

「別に彼女が一人、というわけではない。彼女はそう、言うなれば非常に希有な存在であったため、他の人が距離を置いていた」


 言葉に俺は、無言を貫き話を聞く。


「恐るべき速度で強くなった彼女に対し、他の騎士は畏敬の念と同時に畏怖を抱くようになった。それはまるで、私が陣頭に立ち都を守るように戦っていた時の視線と似ていた」

「強すぎるために、距離を置いたと?」

「そのようなものと考えてくれていい。実際のところ、彼女は孤独だった……もちろん、友人だっている。作戦の際、同僚と話す機会はいくらでもあるし、雑談にも興じる。だが本質的な部分……セレンの根っこにあるものには、誰も触れなかった」

「……彼女の事情などは、知っているんですか?」

「君は彼女の過去を聞いたのか? まあ、その辺りは隠す様子などないから、君にも話すのは当然か」


 ふう、とジウルードは息をつく。その表情は、セレンのことをどこか慮るようなものだった。


「復讐……彼女が騎士になった理由にはそれが根底にある。それは既に果たしているし、だからこそ近衛騎士団に所属することを受け入れた……ただ、彼女の奥深く。それは誰も立ち入っていない。おそらく君が、初めてだろう」

「俺が……?」

「これは私の推測だが、彼女は自分と対等な存在でなければ、話をしないと無意識のうちに決めているのかもしれない。そういう事情であれば、確かに誰にも話すことはないだろう」

「……彼女と肩を並べる存在が、騎士団にはいないと?」

「いるとすれば、私くらいだろうか」


 それほどまでに――『王都の守護神』に匹敵する実力か。闘技大会でその実力は嫌というほどに理解していたつもりだが、俺の予想以上に、その評価は高いようだ。


「無論当人にこうしたことを言っても、同意は得られないだろう……彼女としては、騎士団としてみんなと共に戦っていると認識している。だがその認識そのものに、ズレがある。此度の戦いでその点について致命的な問題が生じる危険性は低いと思うのだが……」

「とりあえず、問題はないと?」

「敵に突かれても痛いというほどではないからな。とはいえ、だ。彼女が無茶な行動をしても止めるような人間が、出てこない可能性がある」

「だからこそ、俺ですか」

「その通りだ」


 俺とセレンを組ませる経緯については、なんとなく認識した。とはいえ、


「あの、俺に彼女を制御できるかどうかは……」

「そこはわかっているよ。彼女の動き方次第では、私の所へ連絡してきても構わない」


 ジウルードのお墨付きか……それならまあ、なんとかなるかな?


「魔王との戦いは、それこそ死闘の連続だろう。彼女の動きによって問題が生じれば、それだけで窮地に立たされる可能性がある。よって、君に彼女を頼みたい」


 ……セレンの実力を考えれば、今回魔王との戦いで重要な存在であることは確かだろう。だからこそ俺を用いて上手く制御したいと考えている。

 短い付き合いではあるけれど、確かに自由にやらせていたら猪突猛進で突き進む可能性は十分考えられる。まあ俺にそれが抑えられるかというのは不明だけど……やれるだけはやってみよう。


 少なくとも彼女と交流し、肩入れしたい気持ちもある。実力は確かだし、この国の騎士として、重要な位置を占める人間になるのは間違いない。そういう人を守るのも、仕事の一つと言えるだろう。

 あと、何より彼女の行動には裏表がない……とにかく魔物や魔族という存在を、平和を脅かすべく倒すという目的は一貫している。やり方は無茶苦茶でもそこは間違えていない以上、その考えは俺としては支持できるものだし、何より気持ちが良いしこの戦いでやられたのならば、寝覚めも悪い。


「……どこまでやれるかわかりませんが、引き受けます」

「ありがとう」


 ジウルードは礼を述べ、最後の打ち合わせは終了する。俺は部屋を出ようと動き始めた……その時だった。

 突如、カランカランという鐘の音が聞こえてきた。俺としては初耳のことであるため、何事か周囲を見回したのだが、


「……何?」


 ジウルードについては驚愕し声を発していた。どうしたのかと問いかけようとした矢先、部屋の入り口、扉の奥から性急な足音が聞こえてきた。


「騎士ジウルード!」


 それは一片的な兵士であり、部屋に飛び込むようにして入ってきた。


「き、緊急事態です!」

「どうした、何があった?」

「あの、その……物見からの報告です」


 兵士は一礼すると同時、俺達へ内容を話す。


「その、あまりにも突然の動きであり、こちらも驚いています……魔王軍が……魔族が魔物達を率い、この王都へと迫りつつあります――」


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