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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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思わぬ来訪者

 話し合いはそこから一時間ほど続き、作戦概要をおおよそ聞いてから俺は王城内にある部屋へと案内された。勇者ヴィオンやカイムに加え、俺は特別待遇ということで部屋を用意したとのことだ。

 俺としては、なんだか居心地が……と思ったのだが、ここで町中に行って宿を取りますとは言えないし、好意に甘えることにした。


「さて……」


 荷物を置き、ベッドに腰掛けて俺は今後のことを考える。数日中に魔王討伐のことが公になるだろう。それから数日で、俺達は出発することになる。

 魔王の本拠地には、精鋭中の精鋭で……とは言っているが、軍勢の規模は相当なものになるに違いない。


 俺の役目としては、魔王を討つための策を用いる際の護衛……ウィンベル王国としては、練り上げた魔法を用いて魔王を倒すつもりのようだ。その準備をするため、時間稼ぎや作業をする人員を守りたいということらしい。

 ならば俺はそれに従いつつ、もしもそれで打倒できなかったら……そういう可能性を考慮し、戦っていくことにしよう。ただ正直、俺に魔王を倒せるのかはわからない。次元の悪魔……その異空間で強くなったというのは魔王にとっても異様なことのはずだが、果たして――


「ま、悩んでいても仕方がないか」


 俺は結論を出しつつ、出陣の日までどうするか考える。この部屋の中に居続けるのではさすがに体も鈍る……いやまあ、部屋の中でも鍛錬ができそうなんだけど。

 俺はぐるりと室内を見回す。はっきり言って、ずいぶんと広い……客室の中でも上等な部屋なのだとなんとなく想像はつく。


 ベッドも何人寝るんだと思うばかりにでかいのだが、それよりも部屋が一人用にしては異様な広さで、俺しかいないために寂しさすら感じられる。この空間を利用して剣は振れそうなので、好都合なのかはた迷惑なのかわからない。


「そういえば、セレンは騎士ジウルードからスカウトしてこいとか言われてたんだったよな」


 それを考えると、今後ひっきりなしに客人が訪れて、士官しないかと言われる羽目になるのか……? さすがにそれだと神経すり減らしそうだし、逃げるか? いや、さすがにそんな迷惑は……などとあーだこーだと考える間に、ノックの音が聞こえた。

 早速来たのかと身構えたのだが、扉の奥から予想外の声が飛んできた。


「おーい、開けてー」


 セレンの声だ。俺はちょっとばかり警戒しつつも扉に近寄り開けた。現れたのはセレン……なのだが、格好が鎧でもなく、士官服でもなく、


「……その格好、どうしたんだ?」

「まあまあ、いいじゃない」


 その姿は、俺と旅をしたあの旅装だった。


「部屋の中に入れてもらっても?」


 特に拒否する理由がなかったので中へと通す。直後、彼女は軽くのびをした。


「んー、やっぱり体が硬くなってるなあ」

「……もしかして、今まで仕事を?」

「そうそう。デスクワークが多いんだよ、近衛騎士団は。王族護衛が主だから、仕方がないけどね」


 微笑を見せた後、セレンは俺へ体を向け、


「それに、魔王との決戦前に……やっておかなきゃいけないことはたくさんあるから」

「……近衛騎士団所属でも、今回魔王と帯同するのはその腕が買われて、だよな?」

「そうだね」


 頷くセレン……この王都へ入る道中に、彼女の噂をいくつも聞いた。その中でとりわけ多かった評価は、彼女は間違いなくジウルードと肩を並べる存在である、ということ。

 そうであれば、実力は騎士団でもトップクラス……それだけの力を持っているからこそ、魔王との戦いに赴く。


 魔王を打ち破るのは魔法だが、彼女は騎士としてウィンベル王国における切り札という存在なのだろう。


「……それで、俺の部屋に来たのは何か理由が?」

「ジウルードさんは、必要以上に説明しない人だから、私が補足しておこうと思って」

「必要以上に……?」

「太陽騎士団に所属していた時の上司だけど、なんというか、説明が事務的な感じで余計なことは言わなかったからね。そのせいで、苦労したこともあるし」


 経験者は語る、というやつか。


「まず一つ、ここにアシルがいることは騎士団なら知っているけど、アシルを含め場内にいる勇者とは関わらないようにとお達しが出てる」

「ああなるほど、つまり干渉してくる人間がいないと言いたいのか」

「そういうこと。加えて、出入りなんかも自由にしていい……でもまあ、さすがに動き回っていいよと言っても限度はあるし、アシルはなんだか臆して部屋から出なさそうだし」


 正解である。こんな広い部屋を与えられて、どうしようか悩んでいたくらいだからな。


「出陣の日までここにいるのは間違いないけど、それだけだと気分が滅入るでしょ?」

「それは間違いないな」

「だから、町まで繰り出さないかと誘ってみるのだけど」


 ……もしかして、旅装姿なのはそういう意味合いということか?


「それは、俺を心配してのことか?」

「半分は私がやりたいから」

「おい」

「いいじゃない。それに、個人的にアシルに興味があるし」


 その強さはどうやって、みたいな感じだろうか……まあ、申し出がありがたいと思ったのは事実。彼女としては心身共にリフレッシュしたいし、なおかつ話し相手が欲しいといったところかな。


「……先に言っておくけど、俺にエスコートは無理だからな」

「わかってるよ。この王都ならお店も知ってるし、早速行こう」


 時刻は昼前くらい。食事を外で済ますのも良さそうだな。


「わかった……ちなみにだが、その服装は?」

「さすがに鎧だと目立つでしょ?」

「普段着ている衣服とかじゃないのか?」

「それだと士官服になるけど、アシルと並んで歩いていたらそれだと変でしょ」

「それもそうか……」

「私であることはわからないようにするから、騒動にはならないよ。いいでしょ?」

「……わかったよ」


 俺は同意し、二人して部屋の外へ出る。なんだか奇妙な形だが……ダンジョンで遭遇してから、彼女との関係はずいぶん面白い方向へ進んでいる。

 まあ名うての騎士ということで、俺としてもこの関係は良いものだけど……やがて外へ出る。そこでセレンは城の正門ではなく、脇道へ入るよう促した。


「迂回して町に入るルートがあるんだよ。もし町へ行きたかったら、そっちに足を向けるといいよ」

「アドバイスどうも」


 ここで彼女から色々と話を聞いて、滞在期間の間を充実に過ごせるようにしておこう……などと今後の方針を決め、町へと歩くことにした。






 相変わらずの人口密度の中で、俺とセレンは一軒の店へと入る。行きつけの料理屋らしく、注文を済ませた後、彼女はニコニコとしながら俺へ話しかけてきた。


「たぶん気に入ってくれるかと」

「期待しているよ……そういえば一つ聞いていいか?」

「戦いの話?」


 こちらはコクリと頷くと、


「セレンの役目は?」

「私は、護衛役だね。作戦遂行役の近くにいて、やられないように立ち回る。アシルを含め勇者の人達は……都度状況に合わせて動いてもらうことになるかな」

「そうか……果たせるといいな」


 頷く彼女。ここで俺は彼女のプロフィールを思い出す。


「なあ、セレン。異名と共に色々な噂があるけど、真相のほどはどうなんだ?」

「噂……ああ、色々とあるね」

「言いたくないならそれでもいいけど」

「ううん、大丈夫。で、何が聞きたいの?」

「なら、そうだな……幼い頃から剣を握ったわけだが、どういう経緯で?」


 問いかけにセレンは多少沈黙し……そして、


「端的に言えば――復讐の、ためだよ」


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