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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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真の目的

 そして――決勝戦の勇者対決は、勇者ヴィオンの勝利で大会は幕を閉じた。カイムは善戦したが、ヴィオンのトリッキーな動きに対応できず、あと一歩といったところだった。とはいえ戦いは非常に爽やかな形で終わり、禍根も残さなかった。

 表彰式では入賞者である俺を含め行われ、全日程が終了。闘技の町で降って湧いたお祭りはこれにて終了――なのだが、


「そう膨れないでくれよ……」


 俺は苦笑しながら目の前にいる相手――セレンへ向け告げた。当の彼女は俺の言葉通り頬を膨らませている。


「大会ということでダンジョンとは色々と条件が違っていたのは確かだけど、あの戦いは間違いなく俺にとって全力だったって」

「……いや、絶対にそんなことはない」


 と、彼女は答える。不満そうにしているのは、俺が手を抜いていたのでは、と考えているためだった。

 俺の実力を認めているからこそ、もっと戦えただろうと言いたいわけだ……そういう風に考えてくれるのは嬉しいのだが、こういう風に不満を持たれるとは予想外で、困惑するしかない。


 実際、彼女の技量はとんでもなかったし、俺の魔力に耐えられる剣を使っていたとしても、負けていたのでは……そう思わせるくらいには衝撃だった。二千年という歳月は確かに俺を強くした。けれど、まだまだ……世界は広いのだと実感した。

 ちなみに、なぜ俺と彼女が再び顔を合わせているのか……それはガルザのことを教えてもらえると言われたからだ。事の顛末としては魔術師などが服役する場所に収容されるとのこと。その一連の説明を終えた後、彼女は不満そうにし始めたのだ。


「というより、普通の剣を使うこと自体がおかしくない?」

「そんなことはないって……」

「――すいぶんと、興味を持たれているな」


 ふいに声がした。視線を転じれば、騎士ジウルードの姿が。


「彼女にここまで言われるとは……そもそも知り合いなのか?」

「あ、はい。仕事で……」


 適当に濁した言い方をする。それにジウルードは笑みを浮かべ、


「そうか……団内でもあまり友人がいないからな、良かったら親しくしてやって欲しい」

「ジウルードさん?」


 ちょっと怒った雰囲気でセレンは告げる。すると彼は声を上げて笑い始め、


「ならセレン、少しは団員と交流を持ってくれ」

「……善処します」

「ああ、頼むぞ。さて、戦士アシル。君に少し頼みがある」

「頼み?」

「ああ。今後……大会が終わったわけだが、明日以降の予定はあるか? 仕事などをするのか?」


 予定? 首を傾げながらも俺は答えることにする。


「特にはありませんけど……」

「なら、仕事の話がある。その実力を見込んで……頼みたい」


 他ならぬ騎士団長からの依頼か……どんなものか興味はあるな。


「ええ、いいですよ」

「なら、ついてきてくれ」


 そしてジウルードは俺を先導を始めた。後ろでセレンもついてくる。

 闘技場内を歩き進め、やがて扉の前に到達。ジウルードが開けると、そこには意外な人物がいた。


「お、そちらの剣士さんも来たのか」


 足を組みソファに座る男性……勇者ヴィオンだ。しかもその隣には、カイムもいる。さらに言えば二人の背後にはギアが立っていた。

 なんだこれ、と思う間にジウルードは俺へ座るよう手で促す。カイムの隣であり、俺は困惑しながらも着席した。


 状況に頭の中は疑問符で一杯だ。勇者二人に俺……大会の上位者ばかりが集められている状況。何が始まるんだ?

 こちらが沈黙していると、ジウルードは俺達と向かい合う形でソファへ座り、一礼をした。


「ここに来てくれたこと、感謝する。実を言うと三人以外にも声を掛けて闘技場内で話をさせてもらっているのだが、三人は他と比べ特別、ということでこうした形となった」

「何があるんですか?」


 問い掛けたのはカイム。そこでジウルードは少し間を置き、


「君達に、協力してもらいたいことがある……近日中に、ウィンベル王国から正式に触れを出す。その内容は――魔王討伐だ」


 言葉に俺を含め呼ばれた面々は目を見開き驚く……魔王討伐……!?


「今回の戦い、様々な思惑はあったが……その中の一つが、君達のような有望な人物を探し出すこと。それに加え、人が集まるところには当然陰謀も存在する……危険ではあったが、魔族やその手先を探し出すことも、計画の内に入っていた」


 俺はガルザのことや、カイムの仲間であったレドのことを思い出す。そういえばこの場所は厳戒態勢……ガルザの一件ではトラブルも発生したわけだが、少なくとも大会期間中は何があっても大丈夫な形で騎士団が動いていた、ということだろう。


「勇者カイムの仲間については残念だったと思うが……ああいった人物が幾人も存在していた。その上で、こうして仕事の話ができると判断した者達……君達にここへ集まってもらった。ちなみにだが」


 と、ジウルードは視線を移す。どうやら俺達の背後にいるギアを見た。


「そこにいる彼は、魔物討伐の実績から今回の仕事に協力してもらった」

「本業が遺跡潜りなのは間違いないけどな。ま、他ならぬ国の依頼だったら、受けるしかないだろ」


 笑い始めるギア。元々信頼を得ていて、スカウト業をしていたというわけだ。


「では本題に移ろう……先ほども言ったが近日中に国は魔王討伐を行うという正式な通達を行う。もし仕事を受けてくれるのであれば、この場で返事をしてもらいたい。無論、断るのも問題はないが、その場合は国が正式に通達を出すまでここでの話は他言無用で――」

「俺はやるぜ」


 と、勇者ヴィオンは先んじて口を開いた。


「魔王……そいつを倒すために勇者になったんだ。ここで退いていたら何をしてんだって話になる」

「……危険な戦いだ。覚悟はあるか?」

「もちろんだ」

「僕も、受けます」


 続いて話したのはカイム。


「レドとの因縁もありますが……何より、勇者として実績を認められたのならば、それに準じ戦います」

「ありがとう、二人とも……では戦士アシル。君は?」

「俺は勇者ではありませんが……」

「その実力から、勇者二人とも遜色ない」


 彼はそう断言した後、


「君の能力については、セレンから聞いた限り問題ないと判断した。もちろん、異能である以上は懸念される、という君の考えも正しいが、私達は問題ないと判断した。よって、是非とも協力して欲しい」

「……わかりました」


 俺は同意する。それと同時に武者震いのようなものを感じた。

 魔族などと戦うのではなく、一足飛びに魔王と戦う……もちろん俺が戦うのかどうかもわからないが、魔族とは交戦するだろう。俺の実力が遺憾なく発揮されるか……危険はある。しかし、自分の力がどれほどのものなのか、それを推し量るに足る戦いであることは明瞭にわかる。


 加え、俺の目標とする人々の役に……まさしく勇者として活動する。その大きな目的にも合致する。さらにジウルードが説明する中、俺は身震いを押さえながら話を聞き続けることとなった。


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