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修行開始

 異空間内で修行――普通なら、時間だけがあっても鍛錬なんてできはしない。なぜなら強くなるためには相応の知識が必要になるからだ。でも俺は少し違う。荷物の中には資料が。そして頭の中には詰め込むだけ詰め込んだ知識がある。

 まずは知識で得られた情報を基に、魔力を鍛えていく……とはいえ異空間内の悪魔は絶対的な存在だ。そいつに勝つ、あるいは逃げるだけの力を身につけるにはどれだけの時間が必要となるのか……途方もない作業ではあるが、やるしかない。


「ふっ……!」


 まずは魔力を高め剣を素振りする。時間が停止している謎空間であるためか、汗もかかなければ疲労感もない。この空間内では肉体的な変化が基本的には皆無のようだ。

 ただ一点、剣を振ってしばらくすると魔力が減っているのに気付いた。やっぱり魔力は変動する……魔力については変化しないと次元の悪魔自身も魔法などを使えないからな。これは当然と言える。


 さて、ここから俺はどうすればいいのか……荷物の中に強くなるための書物などは存在している。本来ダンジョン探索に必要ないし、かさばるだけなのでむしろ邪魔まであるのだが、俺は癖で持ち込んでいた。荷物からそれを取り出して読み始める。


 魔力を鍛えるわけだが、それは茨の道……魔力というのはどういうものかというと、例えるなら水の入ったコップだ。人はコップ=魔力の器を所持していて、時間が経てばコップの中に魔力=水が溜まっていく。魔法などを使う場合、その水を消費する。そして一度にどれだけ水を消費したかによって、技や魔法の威力が決まる。

 強くなるために重要なのは、コップの部分……器を大きくしなければ、強力な魔法や技は使えない。ただこの器が元々大きい存在がいる……魔族やエルフといった人とは異なる他種族だ。


 魔族なんかは人よりも器がそもそも大きく、強大な存在であるため人間は武器などを用いることで対抗してきた。もちろん人間だって器を鍛えることはできる……が、器の大きさなどは人間の年齢などにも関わってくる。


 十代と三十代で肉体を同じように鍛えても大きな違いが出るように、器も若ければ鍛えやすくなる……しかし人間が鍛えようとしても、いずれ限界がきてしまう。それは器が成長するよりも早く老化が始まってしまうためだ。そうなったら魔力の器は大きくするのが難しい。

 どれだけ長命であっても、人間は老いに勝つことはできない……不老不死であれば別の話だが、そんなものを達成できるはずもない。


 ただ、この異空間であれば……老化もなく魔力だけが変動するのであれば、もしかして強くなれるのかもしれない――俺は才能ナシと烙印を押された人間。人の倍以上の時間が掛かるはずだが、この空間ならその差はゼロになる。

 悪魔が俺の行動を見逃してくれるのか謎だけど……ひたすら剣を振り続ける。成果が出るのはどれほど掛かるかわからないが、やれるだけやってみよう……異空間に飲み込まれた時と比べ、心も軽い。よって俺はひたすら剣を振り続けた。






 その後、さすがに時間くらいはわからないとまずい、ということで魔法を使った。洞窟など太陽などがない場所で使われる時間を刻む魔法であり、どの程度の時間ダンジョンに入ったのかを理解して体力維持などに役立てる。

 で、その魔法を使ってわかったことは、現在の俺は剣を振り続けると大体五、六時間くらいで魔力が尽きるようだ。そこから横になって眠る……で、魔力が全回復したら起き上がる。魔力を回復させるのに大体同じ時間くらい必要なので、それを二回繰り返したら、およそ一日が経過することになる。


 よって、俺はひたすらそれを繰り返す……自分自身の魔力の器が大きくなることを願って。もしここでどうにもならなかったら、俺はおとなしく悪魔に殺されるしかない。だが、大丈夫だという不思議な確信はあった。


「ふっ……!」


 声を上げながら剣を振り続ける。今はまだ剣術も魔法も新たに習得していない。しかし、それはまだ俺の魔力が少ないからだ。

 変化が出始めれば、光明が見える……例え才能がなくとも、永遠にも等しい時間さえあれば、成長できるのではないか……そんな推測と共に魔力を高める。


 普通なら、こうしてただ剣を振り続けるだけなんて効率が悪すぎる。器を大きくするだけに時間を浪費するのは、老化という時間制限のある人間にとっては無駄の極みだ。けれど、今この場所でなら価値がある……時間制限のない環境で、魔力だけをどこまでも高めることが――変化が訪れるのを期待し、鍛錬を繰り返した。






 はっきりと変化が生じ始めたと気付いたのは、剣を振り始めて一ヶ月ほど経過した時だ。


 精神状態すら何も変わらないようで、ただ剣を振り眠るを繰り返すだけのこの環境でも冷静さを保っている。これは悪魔が異空間を構築した際のルールによるものだろう。すなわち、捕らわれた人間がおかしくならないようにしている。いつまでも恐怖を抱きつつけてもらえるようにという、悪趣味なものだ。

 ただ、俺みたいな人間にとってこのルールは悪手だと言えるかもしれない……まあこの空間から脱出できる目処が立っていない以上、まだ悪魔の術中であるのは間違いない。


 ともあれ、俺は魔力の器を大きくすることができた。最初、五時間六時間程度で魔力がなくなっていたものが、七時間八時間と変化したのだ。この空間内であれば、器を大きくできる……後は、いかに魔力を制御して同じ剣の威力を維持できるか……その辺りのことは後々で良いだろう。とにかく今は、ひたすら器を大きくするだけ。


 剣を振る以外にも、俺は魔法を使い続けてさらに魔力面を鍛えることにする。火や雷を生み出すことで、魔力は鍛えられる。剣を振り続け、魔力が尽きて眠ったら今度は魔法……それを延々と繰り返す。

 そうした中で、剣と魔法について考察を行う。この世界において、魔力を用いて戦う術は大きく分けて二つ。魔力を練り上げ、それを火や風に変化させて解き放つ『魔法』と、武具などと魔力を組み合わせて技として放つ『武術』である。この両者は魔力の扱い方が大きく異なり、人間が両方とも極めるのは困難……それこそ、天性の才能を持った人間にしか成し得ない。


 だから基本的にどちらかに重点を置いて、もう片方は弱点を補うなどの支援的な意味合いで使うのだが……この空間で頑張れば、両方極めることも可能ではないか。


「いや、俺に欲を出すほどの力はないか……どうするかは、器が大きくなってからだな」


 とにかく今は器を鍛えるだけ。ひたすら剣を振り、魔法を練り上げる。それを幾度も繰り返し……時間がひたすら過ぎていく。

 それを延々と繰り返す……この調子で悪魔を打倒、あるいは悪魔の手から逃れる強く差を得られるのはいつになるのか。一ヶ月で魔力の器が少し大きくなった程度だからなあ。


「ふむ、当面の目標は決めるべきか」


 まずは、そうだな……丸一日剣を振り、魔法を使っても平気なくらい魔力の器を大きくしよう。

 それができるのかどうかわからないけど……疑問は多々あったが、俺はこの異空間から逃れるべく修行を続けた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 賢者の剣もそうですが、作者様の書く主人公最強モノは、他の同系統のモノと比べて妙な展開が無くて自然だから気楽に読めます。続きが楽しみです。
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