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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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大一番

 カイムとの再会から本戦開始まで、宿屋にこもることにしたのだが……とりあえず何もなし。セレンと別れた後に感じた視線も結局感じることはなかった。

 まあ変に警戒しても意味ないと思ったので、深く考えないことにして……町の中央にある闘技場へ赴く。本戦前日、とうとう組み合わせが決定し、それが張り出された。


「俺の相手は……」


 自分の名前を発見し、対戦相手を確認。知らない名前だな。


「冒険者か騎士か……と、セレンは別ブロックか」


 本戦はトーナメント方式で、二つのブロックに分かれて戦うことになる。両方のブロック勝者が決勝戦という形で最後に戦い優勝が決まり、六回勝ったら優勝である。

 で、その内容だが……結論から言うとセレンに加え『雷光の勇者』とも『王都の守護神』とも当たらない。全員違うブロックだった。ただカイムだけは順当にいけば準決勝で当たる。


「この場合、決勝まで行かないとセレンなんかと戦えないか……」


 三位決定戦はあるので、例えばセレンと『王都の守護神』のどちらかが、ということなら対戦開始がこちらの試合より早かったら選択できる。ま、観戦しつつ試合でもしっかり技術に関する知識を得ればいい……そんな風に思い、俺は宿へ帰ることにした。






 そうして翌日、とうとう本戦を迎える……俺のことを知る人が多くなっているため、歓声の大きさは予選よりも遙かに大きかった。

 たぶんカイムとかなら、黄色い声援とかに笑顔で手を振れるんだろうけど、俺は無理なので思考を戦闘モードにする。そして本戦最初の相手は騎士だ。


『――始め!』


 試合が始まり、相手が一気に迫ってくる――実況の紹介に寄れば『王都の守護神』直属の騎士らしく、確かに強い。洗練された剣術が俺へと襲い掛かってくる。

 ただ正直、得られることは少ない……というのも剣術としては正道であり、それを洗練した形に収まっている。そうしたことについては俺も習得しているし、魔力の練り上げ方とか参考になる部分もあったけれど、成果も少なく勝利した。


 騎士相手でも、全力はさすがに出さない……普通の剣を使っているけど、これなら余裕そうだな。


 で、試合が終われば観客席から試合の模様を眺める。時折声を掛けられるくらいには有名になってきた。中には俺のことを元々知っている人がいて、どうやって強くなったのかと尋ねてくるケースもあったが、どうにか誤魔化した。異能であると理屈はつけているけど、他ならぬ異能そのものが忌諱されるケースもあるからな……とりあえず問題にはなっていないので、これで大丈夫だろう。


 そして観戦中に一つ変化が。それはギアが隣に座るのである。本戦は町の中央闘技場で行われるのだが、彼は俺のことをめざとく見つけて近寄ってくるのだ。俺の能力から一緒に遺跡潜りをしないか、ということらしいけど……断ったのだが「気が変わるかもしれないから」と一歩も引かない感じであった。結構押しの強い性格らしい。


 まあ俺も彼が知っている料理の美味い店に連れて行ってもらっているので、悪くはないのだが――で、試合を幾度も重ね……いよいよ大会屈指の組み合わせが始まることとなった。


「事実上の決勝戦とまで言われているな」


 今日も隣に座るギアが言及。俺は小さく頷き、周囲を見回す。大会本戦ともなれば観客も多かったが、満員というのはまだなかった。けれど、今日は違う。なぜなら対戦の組み合わせは――『雷光の勇者』と『王都の守護神』であるためだ。よって、観客席は満員御礼だった。


「正直、ここまでの試合で双方が全力を出した雰囲気はない」


 今か今かと誰もが待ち望んでいる中、隣にいるギアが俺へと話し始める。


「本戦出場の面子は当然ながらレベルも高い。予選をくぐり抜けた戦士達も強いが、その中でも段違いの存在がいる……今日戦う二人もそうだ」


 うん、俺もそれは実感している。試合が終わり幾度も観戦したが、両者はまだまだ余裕があるように見えた。

 しかし、今日ばかりはそうもいかないだろう……ただ、この勝負の下馬評としては圧倒的に『雷光の勇者』の勝ちである。その理由だが、


「ただやっぱり騎士は普通の剣だからな。全力出せる勇者に対し分は悪いだろ」


 装備についてはセレンも本来の剣を使用しないと語っていたように、普通の剣である。防具については騎士達が普段使っている物みたいだが、武器は別。もちろん大会に合わせた剣ではあるのだが、それでも通常の武装と比べれば見劣りする。その変化がこの試合で大きく響くだろうと予想はできた。


『それでは、準決勝第一試合を開始致します!』


 実況の声が聞こえてくる。いよいよだ。


『北門から出てくるのは勇者! ここまで全ての対戦相手を一蹴し、間違いなく大会の優勝候補! しかし今回の相手は最大の脅威! 今度こそ全力を見せてくれるのか――雷光の勇者――ヴィオン=ブレンダー!』


 名乗りと共に勇者が姿を現した。茶色い髪を持つ……常に不敵な笑みを浮かべる姿はカリスマ性が確かにある。

 腰に差す剣は……銘などはわからないが、彼の異名である雷光の力を遺憾なく発揮するために作られた物。防具は簡素な鎧であり、重装備でないのは彼自身速力を主体とする攻撃であるためだ。


『対するは王都……いや、王国を代表する騎士! 手にした功績は数知れず! この大会ではその真価を発揮することはないが、多数の魔物を一瞬で滅するその力は、最強の騎士と呼ぶにふさわしい! 雷光にどう応じるのか――王都の守護神――ジウルード=エブレッセ!』


 歓声が響き渡る。現れたのは白銀の鎧を着た黒髪の騎士。整った顔立ちと鎧の上からでもわかる彫刻のような見事な体格。王国最強と言われるだけの存在感がそこにはあった。

 観客は興奮し、視線を釘付けにしている。そんな中で俺は自分なりにどういった戦いになるか予想してみる。雷光の勇者であるヴィオンが有利なのは間違いない。だが騎士ジウルードも黙ってはいないだろう。本来の武器とは異なるっていうハンデがあるとはいえ、その実力は本物だ。


 互いが一定の距離で立ち止まる。何やらヴィオンが話し掛けているようだが……すぐに終わった。双方が剣を構える。

 途端、観客達が静まりかえった。今大会で有数の好カード。果たして勝者はどちらになるのか。


『――始め!』


 鐘が打ち鳴らされた瞬間、ヴィオンが先んじて動いた。いや、先手はどうあがいても彼だっただろう。

 雷光の勇者――さすがに雷光と同じ速度とはいかないが、全身に雷属性由来の強化魔法を付与することで、驚異的な速力を得ることに成功したのだ。


 鐘が鳴り終わる前にヴィオンはジウルードの背後をとっていた。今までの戦いでも同じ戦法であり、対戦相手はわかっていても後手に回った。だが今回の相手は――


 刹那、ジウルードは背中へ差し向けられた剣戟を防ぎきった。動きが読めているのか、彼はヴィオンが背後を取ると同時に剣を振りかぶっていた。双方の刃がぶつかって金属音が鳴り響く。遅れて闘技場中から歓声が響き、ヴィオン達は立ち位置を入れ替えて対峙した。


「さすがに防ぐよな」


 ギアが口の端に笑みを浮かべながら呟く……その間にも剣が激突する。雷光の異名に恥じぬ凄まじい速度でヴィオンは騎士を攻撃するが、ジウルードはその全てを叩き落とした。

 傍から見ればヴィオンの一方的展開にも見えるが、ジウルード側にも余裕がある。本来の武器ではないが、その身に叩き込まれた能力によって、見事対処できている。武器の差で勇者が勝つと目されていたわけだが、その考えはどうやらハズレみたいだ。


「――はっ! そうこなくちゃな!」


 直後、ヴィオンが俺達にも聞こえるほどの声を上げ、さらに魔力を引き上げた。


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