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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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再会と――

「あー、そうだな。俺も仕事をやっている身からすると、色々と変だなと思う部分はある」

「変?」


 聞き返すと、ギアは俺やセレンに視線を向けつつ、


「王国主催の大会ってことで事件が起こったらシャレにもならないってことで慎重に慎重を重ねている……と、考えることもできる。だが、警戒度合いが強いんだよな。まるで今から何かが起こる事を予見しているように」

「……何かが」

「あ、別に事件が発生するとかじゃないぞ。俺が言いたいのは、この大会を通して国側は何かを探っている……そんな感じだ」


 抽象的な物言いではあるのだが、ギア自身違和感を覚えていることだけはわかった。


「危ない話じゃないんだよな?」


 セレンに首を向けると彼女は黙ったまま首肯。そこでギアは、


「心配はいらないだろ。これだけ観客が多いんだ。住民に危険があれば国側だって早急に対応するだろうし、そもそもここには本戦に出場する精鋭の騎士がわんさかいる。例えば魔物が登場しても瞬殺だろ」


 確かにそうか……下手するとこの場所は現在、国の中で一番安全な所かもしれない。


「真実は大会が進めば明らかになるだろ。本戦、頑張れよ」


 ギアの言葉に対し俺は小さく頷く……ちなみに本戦についてだが、現状だと大会前に立てた方針通りに、技術などを得ることを優先する……どこまで勝ち上がるかは、本戦の状況を見て考えればいい。

 勢いそのままに優勝してもいいかもしれないけど……ただ、騎士の目があるような状況だし、あんまり派手に動くと目をつけられるよなあ。これは悪い意味ではなく、君も騎士団に入らないか、という感じで誘ってくる形を想定している。なんというか、これはこれで面倒だな。


 まあどうするかは今後考えれば……そんなことを思っていた時、店のドアが開く音がした。

 背後に扉があるので入ってくる人物を見ることはできなかったのだが……と、ギアが「おっ」と小さく声を上げた。知り合いか?


「優勝候補がやって来たな。よっ、体調は万全か?」


 大会参加者か。誰だろうと思い首を向け、相手と目が合い、


「……カイム」

「アシル……」


 互いに名を呼び合う。目の前にいたのは――俺をパーティーから追い出した勇者。『光剣の勇者』の異名を持つ彼であった。

 名はカイム=リューダー。大会でも優勝が狙えるとの評価であり、彼の登場により店内にいる冒険者らしき人物がカイムだカイムだと騒ぎ始めた。


 その中で、俺とカイムとの間には特異的な空気が流れた。居心地が悪いという表現ではないし、かといって再会を喜ぶようなものでもない。様々な感情が……複雑なものを抱えた空気感だ。

 それはカイムの背後にいる人物――俺を追い出した張本人である戦士と、俺と入れ替わりで加入した支援役の男性がいることも拍車を掛けた。他に二人女性がパーティーにいるはずだが、どうやら今日は同行していないらしい。


「……知り合いか?」


 ギアが尋ねてくる。まあそうなるよな。答えようとして……ここでカイムが、


「以前俺のパーティーに所属していたんですよ、ギアさん」

「ああ、そうなのか……って、敬語はいらないって以前言ったろ?」

「口調は癖なので気にしないでください」

「……久しぶり、でもないか」


 割って入るように俺が発言するとカイムは、


「そうだね」


 微笑と共に答えた。元気にやっている……そんな風に感じたのかもしれない。


「レド、ジャック、行こう」


 カイムは二人の仲間に告げると、俺達から少し離れた席へ向かった。その途中、俺へ視線を向ける人間……俺を追い出した張本人である戦士、レドの姿が。目も合ったが、結局口を開くことはなく、カイムについていった。


「……カイムはいいにしても、他の二人は微妙な雰囲気だったな」


 と、ギアが俺へ告げる。


「パーティーを抜けたって、何かあったのか?」

「まあ、ちょっとね……その、俺はカイムのパーティーを抜けた後、色々あって今の力を得たから」

「へえ……なるほど」


 ギアは店の奥へ向かったカイム達が気になるのか、しきりに視線を向けていたのだが……やがて、


「喧嘩とかはするなよ?」

「しないって……そういえば、ギアさんはどうしてカイムと知り合ったんだ?」

「ん? いや、単純な話だぞ。大会が始まってから有名どころに色々と話し掛けたからな」


 怪しまれなかったのだろうが……と思うのだが、俺が知らないだけで実は結構有名な人なのかもしれない。

 ま、いいや。思わぬ再会となったが、もしカイムと戦うことになったら……などと考えていた時、セレンが妙な顔をしているのに気付く。


「……どうした?」


 なんだか深刻そうな顔に見える。すると彼女は、


「ねえアシル。勇者カイムと一緒にいた人だけど」

「一緒に? ああ、レドの方は知ってるよ。もう一人……ジャックという人は、俺と入れ替わりでカイムのパーティーに入ったからよく知らないけど」

「レドって人の姓は?」

「……レド=アルガナだけど」


 どうしたんだ? セレンは名を聞いてカイム達が去った方へ目を向ける。

 何かあるみたいだけど……彼女が話す様子はない。よって、俺としては何も言えず……とりあえず食事を進めようと思い、スープに口を付けたのだった。






 その後、俺達はあっさりと別れた。


「じゃあ、頑張って。期待しているぜ」


 そんな言葉を残しギアは立ち去った。去り際、横に射たパトリという人が小さく会釈をして、二人は雑踏へ紛れた。


「それじゃあ、私も」

「ああ……と、そうだ。一つ尋ねたいことが」

「何?」

「今回大会に出場するわけだが、あの魔力が発露する剣は使うのか?」

「あれはさすがに危険すぎるから」


 だよな。ということは、さすがに全力の彼女と戦うことはないか。


「それを言うなら、アシルだって同じでしょ? ダンジョンで使っていた剣はどうしたの?」

「あれは魔物専用だから。ここへ来るまでに使っていたけど、あれは魔力を込めていなかったからだし」


 と、説明するとセレンは俺のことをじーっと見つめてきた。怪しいと感じているだろうか?


 彼女とはそれなりに親交もあるし、向こうも一定の信頼を置いている……ガルザの一件で手を貸したことも関係しているだろう。それだったら、誤魔化さずちゃんと話すべきだろうか?

 もしかすると信じてくるだろうか……などと考えた時、彼女はあっさりと引き下がった。


「ん、わかった……もし本戦で当たったら、よろしくね」

「ああ」


 手を振り、彼女もまた去って行った……さて、俺は剣を買いに行くとしよう。そう思い、大通りを歩き始めた。

 それから程なくして、武器屋を見つけ手頃な長剣を一本購入した。注げる魔力量なんかも判断できたし、これで本戦も大丈夫だ。


 さて、後の時間はどうするか……本戦開始は三日後。それまでは暇だ。対戦表も本戦前日なので、誰と当たるかも不明であり対策も立てられない……いやまあ、対策なんて最初からする気もないんだけど。

 とりあえず休みということで宿屋でゆっくりするか……そんな風に結論付けて歩き出す――


「……ん?」


 ふと、俺は周囲を見回した。何か視線を感じた……予選で派手に暴れたし俺のことを知る人間が大通りにいてもおかしくないのだが……そういう視線とは違う雰囲気。

 より具体的に言えば、こちらを観察している――けれど俺を射抜くような気配はすぐさま消えた。


「何だ……?」


 面倒事か? それとも、ガルザの仲間か誰かか?

 一応、周囲を警戒した方がいいかな……? そんな風に思いつつ、俺は宿屋へ戻ることにした。


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