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その正体

 俺の刃がガルザの体を駆け抜け、相手は完全に立ち尽くす。何をされたのかわからないといった様子だった。

 一方、こちらは……鉄の剣に異変が。相手の体を通った側の刃が一気にボロボロになった。限界まで魔力を注いだ結果である。斬撃が当たる瞬間に、力をさらに高めたからな……むしろこれは予定通りと言える。


 そしてガルザは……俺へ一歩足を出した。とはいえそれは攻撃するような所作ではない。


「……ア」


 声、というよりも音がガルザの口から漏れた。次いで理性をなくしたその顔に、一瞬だが光が宿る……直後、グラリと体を傾けガルザは倒れ伏した。


「これで、終わりだな」


 呟くと同時、ここでようやく騎士達が駆けつけ、倒れているガルザに近寄った。


「これは――」

「ああ、彼が対処したんだ」


 と、横にいるギアが騎士へ告げた。


「このままだと町に被害が出そうだったし、相手も目標を見つけ襲い掛かってきたし、正当防衛だな」


 ――こうやって語るのは、町中で剣を抜くのが基本的に御法度だからだ。まあ俺だって彼の主張通り正当防衛だと言うつもりではいたので、今回は特に問題にはならないだろう。


「協力感謝します」


 騎士は頭を下げ、ガルザの移送を始める。さすがに二度目はないだろうし、後は任せてよさそうだな。

 そして、俺は撤収していく騎士を眺め……、


「――アシル!」


 セレが名を呼びながら近づいてきた。


「ごめんなさい、大丈夫だった?」

「ああ、別になんともないけど……観客とかは無事だったか?」

「うん、ちょっと混乱はあったけど、闘技場では日常茶飯事とか言って、笑い飛ばす人がいたくらい」


 さすが闘技の町である。


「その対処で駆けつけるのが遅れちゃった……手助け、してくれたんだよね?」

「向こうが襲い掛かってきたからな。たぶん力を抑えきれなかったんだろうけど」

「うん、次からは注意する」


 やや深刻な表情でセレは語る……今回の一件、彼女なりに責任を感じている様子。

 ただ俺としてもガルザについて何かしら助言はできるかもしれなかった。騎士団だから何があっても大丈夫……と思っていたのが良くなかったかな。悪魔や魔族を由来にする武具については、騎士でさえも対処できないケースがある……今後仕事をしていく上で、憶えておくべきかな。


 で、ここで一つ疑問が。俺とセレが会話をしている横で、ギアが「へえ」と呟きながら何事か考えている様子だった。


「あ、剣……」


 とはいえ彼に疑問をぶつけるより前にセレが俺の持つ剣に言及した。まあボロボロになっているからな。


「本戦に向けて買い替えるよ……今以上に強度があるやつに」


 セレはじっと剣を見る。というよりダンジョンで用いていた剣は使わないのかということかな? ただそれを言うとセレも腰に差している剣は魔力が発露する剣ではないし……結局、その辺りをつつかれると思ったか、彼女は言及しなかった。

 で、俺は「後はよろしく」と告げて立ち去ろうとした……のだが、ここでギアが発言した。


「この大会で突如現れた新星って雰囲気だったが、彼女と知り合いということは元々どっかの流派で鍛えられていたのか? それとも同門か?」

「……ん?」


 俺は首を傾げた。セレと俺との関係性について尋ねているようだけど……と、ギアの言葉に対しセレはなんだか微妙な顔をした。気になる反応なんだけど。


「いや、旅の途中で知り合って」


 このくらいはいいだろう……とか思って言及したら、


「旅? 近衛騎士団の彼女が王都を離れるのか?」

「……は?」


 近衛騎士団? それって王族とかの護衛をする直属の部隊だけど、


「彼女は太陽騎士団じゃあ……?」

「太陽? 元太陽騎士団だが……騎士セレンが近衛騎士団に配属されたのは数年前だろ?」


 どういうこと? そしてついでにもう一つ……今明らかに、名前も違っていたぞ。

 当の彼女へ目を向けてみると露骨に視線を逸らした。う、うーん……これは……。


「あのギアさん、一つ質問があるんですけど」

「いいぞ。というか普通の口調でいいよ」

「……わかった。あの、彼女は?」


 当のギアは訝しげな視線を俺に投げる。どういうこと、という疑問が口を突いて出そうな雰囲気だったのだが、答えてはくれた。


「彼女も何も……近衛騎士団にして王族を護衛する騎士、『千の剣戟』の異名を持つセレン=エーベルラントさんだけど?」


 ――情報が耳に入った瞬間、俺は見事にフリーズした。そして横からセレ――もといセレンのどこか申し訳なさそうな気配が、俺にも伝わってきたのだった。






「あの、その、本当にゴメン。なんというか、言い出すタイミングも失ってしまったというか……」


 彼女はそんな風に俺へと謝る……場所は酒場。食事でもしないかというギアの誘いに呆然としたまま俺は頷き、ついでにセレンも事情説明のためについてきた形だ。


「私ね、正直異名とか肩書きとか、そういうのを煩わしいなー、とか思ってて、一人で活動するときは素性も明かさず行動することにしてるの。それで、アシルと接したわけだけど……その、とても心地よくて……本当に、ごめんなさい!」


 頭を下げられる。ここに至り俺もフリーズは解け、頭をかきながらどう応じるべきか悩み始めた。

 ただなんというか、怒る理由にはなれないし、なんというか気付く機会だってあった……いや、彼女が近衛騎士団に所属しているなんて事実は察することが難しいにしても、もしかしたら異名を持っているかな、という可能性は考慮できたはずである。


「……まあ、とりあえずいいよ。少なくともセレ……セレンは悪意があって偽っていたわけじゃないからな」

「ありがとう」


 セレンは一転、笑いながら答えた。で、俺は横にいるギアへ簡潔に経緯を話した。無論、セレンは「このことは黙っていて」と釘を刺しているが。


「なんだか変わった経緯だな……いや、この場合セレンさんのやっていることがおかしいだけか?」

「なかなか辛辣な発言だな……」


 こちらの言及に対しギアは肩をすくめ、一方でセレンは自覚があるのか苦笑している。


「まあいいさ。経緯はわかった……黙っておくのも問題ない。ただ、そうだな……ガルザという人間の顛末は知りたいから、公にできる範囲であれば教えてくれよ」

「わかった」


 頷くセレン……そこで俺は、感じていた疑問をぶつけることにした。


「これを機会に一つ聞きたいことが」

「うん、いいよ。私で答えられるものであれば」

「今回国が主催で大会を開いたのには理由があるのか?」

「あー、うーん……そこについては私もよく知らなくて」


 嘘っぽいけどなあ……彼女、誤魔化すのはあまり上手くないな。


「確かにみんながどうして、と口を揃える部分だな」


 と、ギアも賛同。


「この大会そのものに疑問を持っているのか?」

「少しね……例えばベルハラという町に関与しようなんて意図だってあり得るわけだが、それだったらわざわざ『王都の守護神』まで出場する必要性はないよな。騎士達の力を誇示するためという風にも解釈できるけど……そんなことをせずとも功績を上げているわけで、アピールする必要もない。だから異名持ちが参加するには意図があるはずだ……この大会、何か別の真意があるのか?」


 正直、答えが返ってくるとは思っていないが……と、反応があった。


「ほう、鋭いな君」

「え?」

「いや、俺もよくは知らないんだけど」


 なんだよそれ。まあ大会運営側といっても彼は基本部外者だし、事情を知っている可能性は低そうだけど。

 そしてセレンは相変わらず微妙な表情、と、ここでギアが口を開いた。


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