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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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一つ目の異名

 結局、観戦した試合についてはあまり有益な技術はなく……なんというか、俺が学習した範囲内の技術であった。やっぱり高等技術を見るには本戦が一番だろう。で、観戦するよりも体感する……それが何より重要だ。


 というわけで翌日、俺は第二試合へ出場する。相手は魔物退治に特化した傭兵。その技量は、人間相手でも遺憾なく発揮する……魔力の練り上げ方が、普通とは違った。

 それは自分よりも体格の大きい相手に対抗するために編み出された技術……魔力を最大限効率良く体に収束させ、襲い掛かってくる。それは多数の魔物と斬り結んできたからこそ得られたもの。なおかつ剣筋も攻撃的で、的確に急所を狙いながらこちらの攻撃を最小限の動きでかわす、まさしく鋭い攻勢だった。


 とはいえ俺は相手の魔力を把握して技術を体得。さらに剣術の方も再現することができた。最後はこちらの剣が届いた瞬間、まさかという表情を示し……倒れ伏した。

 次の相手は魔法戦士。魔法と剣術を上手く組み合わせていた。接近すれば武術、遠ければ魔法とバランス良く攻撃を使い分け、なおかつその切り替わりが驚くほどスムーズだった。


 俺はそれを魔力で感じ取って、相手の動きに合わせて最適化する……五分ほど斬り結んだ時、とうとうその技術をものにした。最後は魔法と剣の応酬に正面から打ち勝って、相手を倒すことに成功した。


 さらに次の相手は二刀流。どうしようかと迷った挙げ句に俺は魔法で剣を一本生み出し、真似することにした。魔法剣には必要以上に魔力を入れなければおそらく大丈夫だし……で、そんな動きに相手は最初驚愕していたが……やがてニヤリと笑みを浮かべた後、戦いが始まった。相手は俺を一気に倒そうとするが、こちらは吸収した技術で応戦する。数え切れないほど剣を打ち合った後、向こうの体力が尽きて俺が無事に勝利した。


 ――と、こんな感じで俺は勝ちを得ていったわけだが……こういう戦い方をしている以上、目立たないはずがなく、


『初戦から無傷負けなしの戦士! なおかつその戦法は相手の技法を真似るもの――しかしそれはただ模倣するだけにあらず! 今日まで全てを奪い、勝ち進んできた! 今日もまた、その戦いぶりをとくとご覧あれ――刃を喰らう者――アシル=ヴィード!』


 なんか異名がついた。刃を喰らうって……いやまあ、技術を体得して相手を倒すからなんだろうけど、なんというかずいぶん威圧感のある異名だな。

 ただ異名を得たことにより、俺が闘技場へ出ると歓声が大きく湧くようになった……そもそも俺がいるグループは結構強豪揃いだったらしく、それを片っ端からちぎっては投げていたので、俺の評価もずいぶんと上がったらしい。なんでそんな他人事みたいに語るのかというと、ロクに情報収集もしてないからな……。


 そして対戦相手が出てくる。発する気配はこれまでと比べても小さい。相手は俺を見て緊張している様子だし……この感じだと敗色濃厚だけど一縷の望みをかけて、ってことかな?


『――始め!』


 鐘が鳴らされて試合が始まる。その瞬間、相手は一気に間合いを詰めて剣を放った。

 ただ、今までの対戦相手と比べて動きが遅い……これが限界というわけか。俺はそれを真正面から受け、数度刃を斬り結ぶのだが……技量としては、俺が異空間で学んだ範疇を超えていない、かな?


 ならば手早く済ませよう――さらに幾度とか剣を交わした後、俺は少し力を付けて一閃した。途端に相手は数歩後退する。そして隙ができたところへ――『不殺一閃』を決めた。


『これは――瞬殺だ!』


 実況の声が聞こえると同時、対戦相手は倒れ伏した。勝負ありということで俺の名が勝者として呼ばれる。

 これで予選は残り一戦となった。その相手は……ガルザだ。しかも向こうも全勝。つまり、次の最終戦でどちらが本戦に行くのか決まるわけだ。


 彼の戦いぶりも観戦した。結論から言えば、パワーを前面に出して戦うタイプだ。持っている武具は間違いなく黒い魔力をまとわしたものであるはずだが、そんなことはおくびにも出していない。観客席と闘技場内の間には魔力結界が張られているので、魔力の観測まではできていないけど……対戦相手が変だと言っているわけでもないみたいなので、隠し通せているのだろう。

 俺なら確実に倒せる……けど、現在セレが調査をしているわけで、このまま本戦に行ったら問題にならないのだろうか……そもそもああした武具を使っている状況は、国が主催ということでよろしくないはず。それとも、わかった上で泳がせているのだろうか?


 疑問を抱きながら、俺は歓声を背に控え室へと戻った。さて、時間もできたし今日もどこか別の場所で観戦でもするか。

 そう思いながら控え室を出た時、思わぬ人物に遭遇した。


「やっほー」

「……セレ?」


 俺の目の前に彼女が。しかも装備は以前とは異なりウィンベル王国の騎士がまとう、白銀の鎧へと変わっていた。


「似合うな、その鎧」

「ありがと。まずは順調に勝ち進んでいるみたいで良かった」

「どうも……で、用件は? たぶんガルザ絡みだと思うけど」

「うん、相談があって」


 相談? 言葉を待っていると、セレは説明を始めた。


「アシルは不思議に思ったかもしれないけど、ガルザって人は大会に出場しているでしょ?」

「それは証拠集めのために泳がせていると思っていたけど、違うのか?」

「概ね正解。あの後、ラノンって人から他にもガルザを懸念していた人の話を聞いて証拠固めをしていたの。で、捕まえるてはずも整えたんだけど……問題が一つあって」

「どうした?」

「結構用心深いらしく、騎士が動いていると露見されたら逃げられる可能性がある……幸い今は大会に集中しているようだし、今のところ全勝だから次の試合にも出るとは思う」


 ああ、なるほど……俺は理解して口を開いた。


「つまり、彼を拘束する手筈を整える時間稼ぎをしたい……試合を長引かせるってことか?」

「うん、そういうこと」

「倒してしまっても?」


 問い掛けにセレは即座に頷いた。予想していた問い掛けらしい。


「そっちの方が楽だし、それでもいいよ……これは騎士団として正式な依頼になる。アシルの身元は保証できてるし、なおかつ実力も相違ない……何せ『刃を喰らう者』なんて異名も得たことだし」


 なんだか恥ずかしいんだけど、その異名……口には出さないが。


「引き受けてくれたら別途報酬は支払うから。あ、でもお金はいらないかな? もし騎士団に要求することがあったら、聞くけど」

「……質問いいか? 口ぶりからすると、大会での実績を見込んで依頼するという形だよな?」

「そうだね」

「ダンジョンでの戦いについては話していないのか?」


 疑問に対し、セレは苦笑し、


「だってそれ喋ったら私が無断で活動していたことがバレるし……」


 ああ、それもそうか……それがなくとも俺の実力はガルザを抑えられると考え、仕事を頼んできているわけだ。そう考えると、俺の戦いぶりは評価されていることになるな。

 とりあえず、騎士団とかとコネができるって意味合いでも今回の仕事は引き受けて損はない。そんなコネをどう使うのか、という疑問はあるけれど……ともあれ、俺としては決して利がないわけじゃない。


「……わかった。やらせてもらうよ」

「本当、ありがとう!」


 嬉しそうにセレは言う……時折見せる彼女の表情がいちいち可愛い。と、いけないいけない。変に意識しないように……と。

 で、そこから俺はどういう風にするか説明を受け、彼女と別れた……次の試合はなんだか奇妙な戦いにあるけど、俺としてもガルザについては考えがある。


 時間を稼げというのなら、存分に暴れさせてもらおうじゃないか――


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