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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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第一試合

 予選で当たる相手については、事前情報は皆無で基本的に出たとこ勝負という形になっているのだが……唯一、ガルザだけは知っているけど、今の実力なら問題はない。

 まあ、少しくらい仕返ししてもいいかなあ……などと思いながら受付を済ませる。その後、兵士に案内されて控え室へ。


 一度観客席を覗き見たが、予選ということで人はまばら。そんな中で俺は初戦を迎えることになるのだが――


『さあさあ、始まりました聖王杯! ウィンベル王国主催の記念すべき最初の大会! 多くの闘士勇者が集まりましたこの聖戦で、誰が栄光をつかみ取るのか!』


 戦いを行う円形の闘技場――控え室から繋がっている通路から行けるのだが、実況の声が聞こえてくる。どうやらこれ、第一戦らしい。

 観客も少ないので歓声は少ないけど……町中がお祭り騒ぎだし、観戦客は興奮しているに違いない。以前の俺ならこんな大会に出場したら緊張しっぱなしになっていただろう。


 でも、強さを得たからか余裕がある。噂されることについてはまだメンタルが鍛えられていないので複雑な心境だが、戦う分には問題無さそうだった。

 ここで今一度ルールを思い返す。内容はシンプルで相手が戦闘不能になったら勝ち。あるいは相手が降参しても勝利となる。デスマッチとかもあるらしいけど、今回は国自体が主催なので治療もすぐにやるし比較的穏当らしい。まあ当たり所が悪ければ死ぬし、そのリスクを考慮してみんな大会に出場しているわけで、大なり小なりリスクはある。俺も油断は禁物だ。


 やがて控え室にいる職員が俺を呼び掛ける。いよいよってことか。よって入場するため闘技場入口で待機。そこで歓声が聞こえ始め――戦場へ足を踏み出した。入口は光が溢れ――


『北門より現れし戦士の名はアシル=ヴィード! 名声か、賞金か……胸に携える目的のために、無名の戦士がこの闘技場に足を踏み入れた!』


 入場した瞬間、俺の名を告げる実況が耳に入った。風の魔法か何かで声を大きくしているはずだが……きちんと説明はしてくれるらしい。


『対する戦士の名は疾風の剣士スダン=ガルブード! このベルハラにおいて闘士として剣を手に取り早三年! メキメキと頭角を現わしている戦士の一人!』


 そして反対側から俺へ歩み寄ってくるのは、闘士――俺と比べ体格が一回り大きい剣士だ。黒一色の姿で、無精ひげなどを生やしていることから見た目とかはあんまり気にしていないようだけど……実況が名を出した時、俺と比べて歓声の大きさが違った。それなりに有名人らしい。

 俺と相手は一定の距離まで歩み寄って対峙。剣の間合いからはまだまだ遠いが、達人なら一歩で詰め寄れる距離だ。


「……よろしく」


 なんとなく挨拶を投げてみる。それに相手は、


「死にたくなければ、あまり抵抗しない方がいいぞ」


 そんな言葉を俺へ投げてきた。うんまあ、見た目からして強そうには見えないし、これは彼なりの温情って感じなのかもしれない。

 で、疾風か……異名というのは時にその人物の特性を浮き彫りにしてしまうのだが、この場合は素早い攻撃か、あるいは風を利用した剣術が得意なのか――


『――始め!』


 実況から声がした。次の瞬間、重い鐘の音が闘技場内に響き渡る。

 初陣だ――同時、戦士スダンが剣を抜き放つと俺へ向け一閃した。電光石火の一撃であり、間合いを詰める足さばきも無駄がない――闘士としての腕は一流だ。


 俺はそれを剣で受けようと構える……のだが、ここで異変が生じた。スダンの剣が触れようとした矢先、ブワッと風が周囲に舞った。それにより俺と相手の剣が触れずに終わる。


「お……?」


 直後、スダンの剣が俺の剣をすり抜けるように迫った。受け流すのではなく、風によって剣そのものの動きを変える――なるほど、単純な剣のやり取りではなく、風を絡ませることで相手の意表を突くということか。

 奇襲同然の攻撃だし、上手くすればわかっていても防げない……みたいな攻撃の仕方ができるかもしれない。しかし今回の場合俺は対応。向かってくるスダンの剣を大きく後退することによってかわしてみせる。


「ほう」


 と、相手は小さく声を上げた。今のを避けたか……少しは骨がある、とでも言いたいのかな? ふむ、風を利用し軌道を逸らす……参考になりそうだ。

 こういう他者の技術から、得られるものがある……だからこそ俺は大会に参加したのだ。そこから今度はこっちが剣を向ける。だがスダンは俺の刃を風でいなし、反撃に転じた。


 今度は刃にまとっていた風を、拡散させた。途端、俺の体に突風が叩きつけられる。もちろんそれ自体にダメージはないのだが、動きを大きく制限する。


「――終わりだ」


 宣告。実況もこれで決まりかと声を上げる――が、俺は冷静だった。

 放たれたスダンからの剣を、剣を引き戻して受けた。すると相手は驚き目を見張った。動きを拘束していたはず……って感じか。確かに常人ならば風により体が止まりなすがままだっただろう。だが生憎、俺は普通じゃない。


 即座に相手の剣を弾くと、剣を振った。それにより発生したのは風――今度はスダンが突風をまともに浴びる状況となった。


「貴様、俺の技を――!」


 ご名答、と心の中で呟くと同時にスダンの体が宙を浮いた。地面から数センチ程度のものだが、足の自由が効かない以上、抵抗はできない。

 俺は吹き飛ぶスダンに追随し、剣を薙ぐ。すぐさま相手は不自由な状況で受けようとするが――こっちは刀身に風を絡ませ、その軌道を曲げた。


「っ――!?」


 まずい、と相手は思ったことだろう。そこで俺は地面に足を接地し、どうにか態勢を整えようとする相手の体へ一撃見舞った。もちろん、それは加減したもの。ベルハラへ入って鍛錬した成果の剣だ。

 言うなれば相手に外傷を負わすことなく、魔力だけを激減させる一撃。魔力が体を構成する魔物相手ならば、魔力を消し飛ばせば倒せる。しかし肉体を持つ人間相手の場合は全身疲労により倒れるくらいで済む。どうやって人を戦闘不能にしようかと考えて至った結論がこれだ。名は――『不殺一閃』だ。


 剣を受けたスダンは、魔力がそぎ落とされ……なおかつ鉄の塊が体に叩き込まれたためか、一太刀受けた矢先「かはっ」と声を漏らした。大きく体勢を崩し……倒れ伏す。俺の勝利だ。


『勝者――アシル=ヴィード!』


 実況が俺の名を呼ぶ。初戦から順調……なおかつ参考になる戦い方だった。戦果としても十分だった。






 試合は一日一回で、次の試合は翌日……ということで、俺は早々に控え室を去って外へ出た。普通ならば第二試合以降を観戦して次の対戦相手の情報を得るとかするんだろうけど……俺は別の目的があって、よその闘技場へ行こうと思っていた。

 試合が各所で行われているのだから、観戦して色々と技術を得ようというわけだ。中には魔法使いだっているので、そちら方面を勉強するのもいい。俺は近しい闘技場へ赴き、観客席へ。特権なのか大会参加者は闘士であることを示すカードが配られ、それを提示すれば料金なしで観戦できる。


 適当な席に座ると同時、試合が始まったのだが……さすがに予選だと出場する選手のピンキリである。大分実力差があったのか、勝負はあっけなくついてしまった。


「これじゃあ参考にならないな……」


 俺の初戦がそこそこの相手だっただけで、他は大抵こんな感じなのか……? 疑問に思いつつ次の試合を待っていると、


「おー、この辺りにするか」


 のんびりとした男性の声が。チラと視線を向けると、青い旅装を着込んだ茶髪の男性がいた。


「さっきの試合は見れなかったが……まあいいか。どうせ予選については、あんまり期待していないだろうし」


 別に誰かに聞かせているわけではなさそうだが、声が大きい上に近くに座ったので耳に入ってしまう。ただ、普通の観戦者ではない?


 俺はもう一度顔を窺う。男性は俺よりも少し年上くらい……二十代前半といったところか。ちょっとボサボサの髪だがカッコいい。見た目からして、冒険者かな?

 と、その時男性が視線を投げてきた。俺はすぐさま目を闘技場へと向ける。たぶんバレてはいない……はず。


 ま、観光客なんて現在進行形でここを訪れているんだ。事情だってあるだろうから、俺が奇妙に思っても仕方がないか……と思いつつ、次の試合へ意識を移すことにした。


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