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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第一章

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大会の参加資格

 その後、俺は食事をしながらいくつかガルザについて思いを馳せる。力を手にしたが故の暴走……みたいな解釈で良いと思うのだが、仲間達も恐怖しているような現状では、おそらく俺が何かしなくとも破滅的な未来が待っていたかもしれない。

 彼の仲間がそれに巻き込まれるのは忍びない……が、セレがラノンへ話したように、何かしらお咎めはあるだろう。まあ、そればかりは仕方がないか。


 やがて食事を終えると、俺はセレと別れることになった。


「大会に参加したら会えるのか?」

「あ、うん、まあね」


 なんだか歯切れの悪い返事だけど……結局、何かを隠しているような雰囲気は残ったままである。俺としては害がないので別に良かったのだが。


「それじゃあ」

「うん……じゃあね」


 どこか名残惜しそうにセレは俺と離れた……さて、ガルザの一件についてはもう騎士に任せた方がいいだろう。セレはきちんと仕事してくれそうだし、大丈夫だ。

 ということで……闘技大会に思考を向けることに。まずは大会に参加するために宿などを探すより前に、案内板を確認。大会受付は町の中央闘技場らしい。ただ、出場条件がある。


「さすがに誰でも参加、とはいかないよな」


 大会の形式は不明だけど、たぶんトーナメント方式かな? 予選などがあるとセレも言っていたけど、それに出場するために何かありそうだな。

 俺は少し早足で目的地へ向かう……そこはどうやら町で一番大きい闘技場。そこを囲うように町がある、という表現さえ似合うような所だ。


 間近までやってくると、その迫力がわかる。石造りの巨大な建造物。城壁などの迫力すらも凌駕する圧倒的な存在感は、間違いなくこのベルハラという町が刻んできた歴史そのものが関係しているに違いない。

 闘技場入口付近を見ると、受付らしき場所があった。そこへ赴くと、女性が声を掛けてきた。


「ウィンベル王国杯、出場希望者でしょうか?」

「はい」


 相手は藍色の士官服みたいな服装……騎士かな?


「出場するには二つの事柄が必要です。冒険者ギルドに登録していることを証明すること。加え、予選に参加するために試験をパスしていただきます」


 ギルド登録か……それなりに身元が証明できていないとダメ、ってことかな。ただ登録者なんてガルザみたいな人間もいるし、証明するのに適しているかどうかは微妙だけど。

 ギルドに登録していることを提示すると、女性は近くに控えていた兵士を呼んだ。彼の先導に従うよう指示を受け、俺は闘技場の中へ入る。


 硬質な空気が闘技場の通路にはある……たぶん本戦の決勝戦とかはここでやるのだろう。もしそうした舞台に立ったら、歓声を一身に受けることになるわけだが……。

 やがて到着したのは、闘技場の中。そこには宮廷魔術師と思しき者達と、傭兵らしき人物達が。そこで傭兵達は、鉄の塊のようなものへ剣を突き立てていた。


「おらあっ!」


 気合いの入った声と共に、筋骨隆々の戦士が刃を叩き込む。しかし、鉄の塊はビクともしない。

 どうやらこれが試練……みたいだけど、どういうことだ? 俺は兵士に案内され、一人の宮廷魔術師と対峙する。相手は男性で中肉中背。身なりは袖の縁などが装飾された銀色のローブと、鉄製の杖。


「今から魔法により擬似的な物質を構築します。時間を掛けてもいいので、それを三回……攻撃をして傷を与えたら、出場資格を得ることになります。ただし、攻撃により損傷した武具などの保証はできませんのでご了承ください」


 なるほど、攻撃能力を試すわけか……こちらが頷くと、宮廷魔術師は杖を振りかざし俺の真正面に物質を生み出す……それは円柱の形をした、魔法金属だ。

 硬度はどれほどのものかわからないが……いや、少し目を凝らして魔力を探ればおおよその推定はできる。で、先ほど男性は傷を与えたらと言った。つまり、魔法金属を砕くとかではなく、何かしら目に見える形で損傷を与えたら合格ということだろう。


「うおおおおおっ!」


 と、隣にいる戦士が雄叫びを伴い魔法金属へ攻撃する。獲物は戦斧。豪快な縦振りが金属へと叩き込まれ――ガギン! と一際大きく音を上げた。

 結果は……刃はまったく通っていない。それどころか戦斧が刃こぼれした。


「ぐ、おぉぉ……」

「不合格となります」


 これで三撃目だったらしい。ふむ、単純な力押しでは通用しない……魔力、ひいては武術の練度を推し量っているわけだ。

 つまり、出場する面々は全て魔法や武術を扱う存在……これは間違いなく俺にとって参考になることが多いな。今からワクワクしてくる。


 と、いけない。まずは予選出場を確実にしないと……ただ、硬度から考えると傷を付けることは難しくなさそうだ。次元すら両断できるのだから当然と言えば当然だけど。

 俺は剣を抜いて、少しばかり魔力を込める。刃に魔力が伝い、それが一定になった瞬間、掲げて振り下ろした。


 動作としてはそれだけ。隣にいた戦士のように気合いの入った声などもない。道ばたの雑草を斬るような感じで、刃を魔法金属へ向けた。

 その結果……ヒュン、と刃が駆け抜けた。それと同時に自分が予想するよりもずいぶん魔法金属が柔らかかったことに気付いた。


 なぜそう思ったか……簡単である。次の瞬間、魔法金属が見事に真っ二つになったからだ。


「は……」


 さしもの宮廷魔術師さえ、目を見開いた。あ、やっぱりこんな芸当をする人間っていないのか。とはいえ、それほど魔力を込めていないんだけど……セレと一緒に旅をしていた時にも思ったけど、やっぱり普段の剣で戦うのは危ないな。下手すると相手の剣と鍔迫り合いとかできず、俺の刃が相手の武器を含めまるごと両断するとかありそうだ。


 うん、今から武器を買いに行こう……例えばセレだって、悪魔に用いた武器を人間相手に使うようなことはしないだろう。それと同じで、別に剣を用意する。魔法剣でもよさそうだが……あれはあれで加減を間違えると大変なことになるかもしれないしなあ。


「合格で、いいですか?」


 俺の問い掛けに宮廷魔術師は両断された魔法金属と俺とを交互に見比べて……コクコクと頷き、懐から何かを取り出し俺へ渡した。


「受付でこれを提示してください」


 それはカードのようなもの。俺は頷き、踵を返し歩き出すと……別所から「何だアイツは?」とか「すげえのがいたぞ」とか声が聞こえてくる。なんだか居心地が悪くなり、俺はそそくさと闘技場を後にする。

 場合によっては噂になるかも……そんな立場になったことがないので、なんだか落ち着かないけど。


「強くなるってことは目立っていくってことだし、慣れていないかとダメなんだろうけどな……」


 二千年の修行を経ても精神面は一切変わっていないからな。ここに来て、あまりに特殊な環境で修行したが故の問題点も出てきた。いや、そんな大層なことではないかもしれないけど。

 外に出てカードを提示すると、予選の案内を手渡された。これでひとまず大会に登録し出場することができたわけだが……次やるべきは、情報収集かな。


「あとは宿を探さないと……」


 大規模な大会だし、宿も一杯かもしれないが……いや、宿のグレードを上げたら空いている所も見つかるかな? お金はあるわけだし、とりあえずよさそうな場所を見つけたら手当たり次第入ってみるか。

 そういうわけで、宿を見つけ情報も集めるべく大通りへと向かう……時折セレやガルザのことを思い返しつつ、俺は歩き続けたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 闘技大会、学園入学イベントはつまらなくなるフラグ。ドラゴンボールでさえ後半はつまらなかった。
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