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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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異名と共に

 俺はやがて城の中庭へと辿り着いた。廊下には昼夜城内を照らし続ける明かりがあるが、闇を取り払うような光量ではなく、中庭は月明かりだけが照らしている空間。今日は満月であり、植えられている草木の輪郭くらいはわかるほど明るい。

 そして中庭にいたのは、


「セレン、眠れないのか?」


 共に戦ってきたセレン。服装も普段とは変わらないものであり、近寄ると彼女はこちらへ首を向けた。


「アシル……そっちも?」

「ああ。魔王を倒したということで気持ちが高ぶっているのかもしれない」


 肩をすくめながら話すと、セレンはクスリと笑った後、


「……ごめんね、なんか」

「それは魔王との戦いで戦いに加われなかったという話か?」

「うん」


 首肯しつつ、セレンは苦笑した。


「もしかすると、私は記憶がない方が良かったかもしれない。恐怖する自分がいたことで、圧倒的な魔王を前にして……剣を振ることはできなかった」

「いや、記憶はあって良かったと思う」

「……どうして?」

「たった一人、俺だけが全てを知っている……なんて状況、ストレスが溜まるだろうなと思っていたし。セレンが俺のやっていたことを知ってくれていたから、魔王討伐まで順調に進めた……俺はそう思う。そして」


 魔王との戦いを思い起こす。そして彼女が俺の名を呼んだ時のことを思いだし、


「……俺へと呼び掛けて、助けてくれた」

「あれは助けたって言えるの?」

「あれがなかったらきっと俺は魔王に敗北していたと思う……後ろで恐怖しながらも逃げなかった。だからこそ、俺は戦い抜くことができたんだ」


 セレンは俺を見返しながら沈黙する。そこで俺は気恥ずかしくなって、


「あー、だからセレンも思い詰めなくていいって話をしたいんだけど」

「……そっか」


 微笑を浮かべるセレン。月夜の下で微笑を浮かべる姿は、内心ドキリとさせるほどに美しかった。


「……で、だ」


 俺は話を変えるべく、口を開く。


「魔王は倒した……目標は達成できたわけだが、セレンはこれからどうするんだ? 国へ戻るのか?」

「アシルは違うの?」

「ああ」


 頷く俺にセレンは目を見開いて驚く。


「このまま、旅して回ろうかなと。本来なら俺の力は魔物とか、魔族とか、そういう存在を払いのけるために使われるべきかもしれないけど……」

「いいんじゃないかな」


 セレンは俺の言葉をあっさりと受け入れた。


「アシルは元々冒険者だし、誰かに咎められることもないよ」

「そう、かな……セレンは、どうするんだ?」

「どうしようかな、と迷っていた。国へ帰って騎士として復帰する……私は魔王討伐に加わった存在としてもてはやされるし、悪くないんじゃないかな」

「なんだか人ごとみたいに言うんだな」

「そうだね」


 頷いた彼女……それと共に、彼女の中に決意が固まったようだった。


「……アシル」

「うん?」

「私……」


 小さな声が彼女は言う。それに対し俺は、同意するように小さく頷いたのだった。






 ――そして俺は、エルディアト王国を後にした。国から感謝され、魔族ブルーからも礼を言われ、なおかつ魔王を打倒した存在だとして勇者達から称えられ……城を出た。

 ギルジアが俺につけた異名『万の異名を持つ英雄』というのは、どうやら世間にも広まっているらしく、色々な場所で様々な呼ばれ方をしていると城を出る寸前に言われた。内心それに俺は頭を抱えたくなったが……まあ、魔王を打倒したのだ。そのくらいのことはあってしかるべきか、などと半ば開き直ることにした。


 ただ魔王を倒した功績に対しこの異名はどうなのか……自分に釣り合っているものなのか。それについてはわからなかったが、まあ……今後旅をしながら魔物などを倒していく中で、比肩しうるだけの功績をさらに積もうとは思った。

 城を出る前に、俺は仲間達の今後についても聞いた。その多くがエルディアト王国を訪れる前の生活に戻るとのことだった。ヴィオンやカイムについても国に戻ると。二人は修行をして、俺に追いつくために頑張るとも言っていた。いつか、自らの手で魔王を倒せるくらいの力を――そんな風に思ったらしい。


 ギルジアとシェノンは、早々に国を出た。部屋には俺向けの手紙が残され「いずれ会おう」とだけ書かれていた。俺は二人との再会することを考えつつ、旅に出た。

 そして――俺の隣には、セレンがいる。


「で、アシル。どこに行くの?」

「当面はエルディアト王国内を見て回って……この大陸にある別の国々にも入るかな」

「わかった」

「……セレン、本当にいいのか?」

「うん。アシルと一緒に旅をした方が、楽しそうだし」


 そう言うとセレンは笑う……そういえば、町を一緒に見て回った時、彼女は俺へ言った。それは――


「……セレン」

「ん、何?」

「これからよろしく」


 改めて挨拶をする俺に対し、セレンは小さく頷き、


「よろしく、アシル」


 ――いつか、彼女と共に旅をして一生のパートナーとなる日が来るかもしれない。そんな予感さえ抱きながら、俺は街道を進んでいく。

 魔王との戦いは終わりを告げた。そして俺は異名を背負い、セレンと共に世界を歩み続ける――


完結となります。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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