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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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戦いの終わり

 意識が戻った時、俺の真正面に魔王が立ち尽くしていた。見れば剣を取り落とし、俺のことを見据えているような状態。あまりに無防備な状況であったため反射的に前に出ようとしたが……体が思うように動かなかった。さすがに、限界が来たらしい。


 しかしそれは魔王も同じ事……やがて、魔王は動くことがないまま話し出す。


「……そちらの、記憶がわずかながら流れ込んできた」


 どうやら俺と同じような状況となったらしい。


「わかったことは、どうやら次元に取り込む悪魔の存在……それを利用し、強くなった存在だったか」

「言ってみれば、お前は自分自身の手で俺を生み出してしまった」


 その言葉に魔王は、苦笑する。


「なるほどな。まさかそんなことをする輩がいるとは想定することすらできなかった……だがまあ、自らの所業により生まれた敵だ。この手で滅しなければならなかった……が」


 パキン、と一つ音がした。攻撃を加えていないのに、魔王の鎧が砕け始めている。


「そちらは、何を覗き見た?」

「お前が支配するか、全てを一つにするか決めた時だ」

「ああ、あれか……そうだ、全てを一つにするべく、同胞すら糧としてあらゆるものを取り込んだ。だが、足りなかった……あと少し、力があれば勝てたはずだ」

「そうだな」


 俺はあっさりと同意する。魔王の語っていることは事実だ。あのほんの少しでも魔王が力を得ていたら、俺の剣は届かなかったかもしれない。


「……この戦いを終えて、どうする? 魔族を駆逐するために、さらに剣を振るうか?」

「どうだろうな。だがまあ、魔族の中にも人間と共に暮らす存在だっている……国々が判断することだろうけど、ありとあらゆる魔族を排斥しようとは思わないんじゃないか? そもそも、そんなことをする資金はどこにもなさそうだしな」


 ――魔王は笑った。俺の言葉を心底面白いと感じるように、


「そうか、金か。まあそれならそれでいい……喜べ人間、魔王は滅した。人類の……勝利だ」


 魔王の体が、消えていく……全てが塵に変じた時、俺は大きく息を吐いた。


「勝った、か……」


 作戦が成功し、まさしく完全勝利……背後を振り返る。そこにセレンが立っていた。


「……本当に、倒しちゃうなんてね」

「俺も正直、信じられない気持ちだよ」


 応じながら俺は剣を鞘に収める。

 周囲の気配を探ろうとするが、体が思うように動かないのと同様に、魔力による探知もできなくなっている。


「さすがに体を酷使しすぎたな……セレン、周囲に敵はいないか? 気配もまともに捉えられないんだ」

「大丈夫、敵はもういないよ……魔王が消えたことで、城内や外にいた魔物なんかも消えたみたい」


 ――その言葉を証明するかのように、廊下から足音が聞こえてきた。視線を転じるとギルジアを始め仲間や騎士達が広間へ向かって走っていた。

 そこで俺はゆっくりと歩き始める。同時、先頭を走っていたギルジアが広間へ入ってきて――この場は、歓声に包まれたのだった。






 ――魔王との戦いはエルディアト王国の勝利に終わった。時を巻き戻したことによって一度は魔王が勝利していたわけだが、それを覆して俺達は勝った。

 魔王の敗因は、自分自身が研究していたことを人間に使われたこと……次元の悪魔もそうだし、時を巻き戻す魔法だってそうだ。魔王は全てを一つにするべく、様々な研究を行い、手にした技術によって様々なものを生みだし、開発した。その中で人間に応用されるものが存在し……それが最終的に牙を剥き、魔王は滅んだのだ。


 とはいえ時を巻き戻した後の勝負もギリギリだったのは間違いなく……戦いはどう転ぶかわからなかった。もし同じ条件で戦ったら、今度は魔王が勝っていたかもしれない……そう思うほど、強大な存在だった。

 ともあれ、俺達は勝利した……ただまあ、エルディアト王国へ戻って人々の歓声に包まれるようなことはなかった。本来なら魔王を打倒したとして盛大に祝福されるわけだが……なんというか、俺は拒否した。


「人々から声を掛けられるのも悪くないぞ?」


 そんな風にギルジアは言うのだが、俺は首を左右に振ってお断りした。結果的に俺達は旅の帰りのように王城へと戻り……部屋へと帰ってきた。


 そしてその日はさすがに疲労して眠ってしまった……ただ思うところがあるのだろう。深夜に目が覚めてしまった。

 最初は目をつむっていたのだが、眠れなかったので起き上がった。そしてなんとなくいつもの服に着替えて廊下に出た。


 時刻は深夜帯なので、城内はひどく静まりかえっている。廊下を歩む足音がずいぶんと響くのだが……ここで、


「ん?」


 気配を感じた。それは俺にとって馴染みのあるもので……そちらへ足を向け、廊下を進み続けた。


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