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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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狂気の領域

 名を呼ばれた直後、俺はセレンが何かをする……と思ったのだが、実際は違っていた。というより、想像を絶する戦いであるためセレンでさえも介入する余地がない……そういうことなのかもしれない。

 だが、彼女は声で俺へ呼び掛けた……その効果を、俺は明確に理解できた。背後に、仲間がいる――それだけで、俺の剣は奮い立った。


「はあああっ!」


 俺は刀身に魔力を注いだ。先ほど、畳みかけるには全力が必要だと考えたわけだが……それを今まさに、実行した。


「ほう!?」


 驚愕の声が魔王から発せられる――俺が持つ力。それがさらに膨れ上がった。それは間違いなく、他ならぬ相手にとっても予想外であった力に違いない。

 魔王は応じるように魔力を剣に込めた。そこへ、俺の刃が迫り――双方の剣が激突した瞬間、魔王が握っていた剣がきしんだ。


 それと共に魔王は即座に後退を選択し……その決断は正しい。俺の全力はそう遠くない内に限界を迎えるだろう……よって、無理をせず受けに回り時間稼ぎをすればいい。

 この戦術に対し、本来の俺ならば打てる手はなかった。攻撃を当てるのに一苦労なのに、その魔王が防御一辺倒になってしまったら、それは間違いなく難攻不落の要塞だ。


 だから、普通ならば俺は魔力を閉じて仕切り直し……けれど今の俺は違った。全力で放出した魔力を維持しながら、魔王へ迫る。相手からすればこの動きは紛れもなく賭けであり、これを防ぎきれば勝機が見える……そう思っているに違いない。


 魔王は応じる構えを見せる。俺は真っ直ぐ剣を放ち、再び剣の応酬が始まる……その時、俺の脳裏に二千年の修行を行った以降のことが頭に浮かんだ。

 一人異空間に取り込まれて……そこからがむしゃらに修行をして、俺は今魔王と戦えるだけの実力を得るに至った。それと共に背後にいる存在をしかと感じ取る。それはセレンだけではない。この島で戦っている仲間や騎士達……それを思い出し、俺はさらに魔力を高める。


 剣の勢いがさらに増していく。魔王は守勢に回り、こちらの剣戟を全て弾く。まさしく鉄壁の防御。一分の隙さえなく、このまま押し込んでも魔王には通用しない……そんな未来しか待っていないように思える。

 いや、実際そうなのだろう。このまま戦い続けても俺の方が先に力尽きて、魔王が勝利を収める……だが、俺は違う――変えてみせると心の中で呟いた。


 圧倒的な存在を前にして、俺は勝つためにここまで来た……背負っているもの。それを感じ取りながら、さらに魔力を高める。二千年の修行……そして異空間を出た後、得てきた様々な技術。その全てを集約し、目前にいる相手へ注ぎ込む!


 それに対し魔王は……猛攻を前にして冷静だった。こちらが苛烈になればなるほど、その気配が冷たくなっていく。俺の力を前にして、魔王は策の可能性でも考えついたのだろう。その視線は俺だけではなく、俺の背後にいるセレンや、広間の外にまで向けられているのがわかった。

 それは俺にとって隙……とは呼べないまでも、少しずつ押し込んでいくきっかけにはなる。視線の動きを呼んで俺は魔王へ剣を差し込む。それもまた全て弾かれてしまうが、俺は構わないと思った。さらに魔力を高め、剣を放つ。防がれたらさらに魔力を加える……その繰り返しだ。


 それはもはや、無謀という領域さえ超えていた。勝てる保証はどこにもない……だが俺は魔王へ剣を注ぐ。これは狂気に近い光景だった。捨て身で挑み、勝てると考え魔王へ剣を振り続ける……しかもたった一人で。狂気以外の何物でもなく……だからこそ、魔王の剣がわずかに揺らいだ。

 本当に、俺だけで勝つつもりなのか……そんな疑いの眼差しを、俺はしかと感じ取った。それと共に、剣の動きを鈍らせたことで――俺は次の剣が届くと直感した。


「おおおおっ!」


 叫び、放たれた刃を魔王は受けたが……とうとう、こちらが剣を弾いた。その勢いで斬撃が魔王の体を通過する……が、掠めた程度だ。決定打どころか傷を負わせることすらできていない。

 だが、いけると俺は踏んでさらに魔力を噴出した……ここに至り、魔王の気配に変化があった。どこまで突き進んでくる俺という存在に対し、多少なりとも畏怖を抱いたらしい。先ほどと比べ明らかに動き方が違った。俺に対し距離を置こうとする動き……だから俺は、さらに足を前に出す。


 目と鼻の先に魔王がいる……今、俺の形相はどうなっているのだろうか? たった一人の人間である俺に対し、魔王は何を考えているのだろうか?

 そんなことを考えた時、俺はさらに魔力を剣へと集めた……自分自身、それが限界であるのかさえわからない。まだ先があるのか、それともとうに限界を超えているのか……けれど、俺は止めなかった。今この時、全てを出す……二千年の修行によって生み出された全てを、注ぐ。


 さらに剣を放つ。そこで魔王は――相手の視線を察知しながら、俺はさらに足を前に出した。



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