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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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魔王と剣

 俺の全力に対し、魔王の変化はわずかなもの。だが、その少しの変化によって、俺は勝機を見いだした。

 全力の剣戟。それに対し魔王は防御に転じたが、反撃しようとしていた動きに加えて油断していたために刀身に込められた魔力はそれほど多くない……魔王が全力を出すより先に、俺は相手の剣を弾き飛ばして――斬撃を、とうとう魔王の身に叩き込んだ。


 それは大きな衝撃となったか、魔王の体が後方へ数メートルほど吹き飛んだ。手応えは十分であり、これで通用していなければ……俺は魔王を見据える。こちらの刃が通った軌跡が、魔王が斬る鎧に刻みつけられている。間違いなく、鎧の奥にもダメージが入っているはずであり――


「――ははははははっ!」


 魔王の笑い声が、響き渡った。


「なるほど、そういうことか! ここまでひた隠し、まずは一撃……こちらが探りを入れている間に、決めようという魂胆だったか!」


 魔王はそこで笑いを収める……と同時に、圧倒的な殺気を放つ。


「なるほど、この攻防については貴様の作戦勝ちだな」

「……さすがに、一撃とはいかないか」

「だが十分過ぎる一撃だ……それは貴様も理解しているな?」


 俺は無言だったが……攻撃の結果、相当な魔力を魔王が放出しているのは見て取った。俺の剣によるダメージを抑えるため、多大な魔力を消費したようだ。


「なるほどな、その力……どうやって得たか興味が湧いた。是非ともその記憶を覗きたいものだ」

「残念だが、それは無理だ……お前は俺に倒されるんだからな」

「かもしれんな」


 思わぬ発言だった。俺が眉をひそめると、魔王は告げる。


「現状はしかと認めなければ進歩はない……喜べ、人間。貴様の剣はこの魔王に届く。幾度かわからないが、剣を入れ続けることができれば、勝利できるだろう」


 ――思わずこちらを誘い込むブラフにさえ聞こえてしまう内容だった。しかし、それが真実なのだと俺は魔王が発する気配で悟る。消耗した魔力、そして内に眠る魔力の大きさ……それを勘案すると、剣を叩き込み続ければ、倒せる可能性がある。

 けれど、これは俺が魔王を倒せる可能性が生まれたに過ぎない。もう魔王は油断などすることなく、俺を見定め倒すために剣を振るうだろう。そんな状況下で果たして俺が剣を当てられるのか――


「現状は理解できたようだな」


 と、魔王は俺へ向け淡々と語る。


「あくまで可能性の話に過ぎないレベルだ……人の身で魔王に挑むこと自体暴挙。まして、たった一人で……だが貴様は、それだけの力がある。どれほど強力な力を有する魔族であっても、あっさりと消し去るくらいの力量は持っているだろう。だが」


 魔王が、動き出す。


「この私が相手ならば、話は違うぞ――」


 再び剣が激突する。凄まじい衝撃が腕に伝い、俺は歯を食いしばりながら耐える。

 目前にいる魔王は、魔族の力を取り込みありとあらゆる存在を凌駕していた。現時点でこれだ。時を巻き戻す前、魔王の島へと襲来した魔王はあらに人間の力を取り込んでいる。現状でこれなのだ。ああなってしまっては勝てる道理はない。


 しかし、今ならば……とはいえ、次の剣を当てることができるのか、不安になる。せめぎ合いは互角だが、魔王の方にはまだまだ余裕が見え隠れする。

 とはいえ、こちらの剣が通用するのは間違いない以上、俺の動きを見極め確実に仕留められるタイミングを見計らっている……この状況下でどのように、魔王に剣を当てるのか。


「くっ……!」


 俺は声を発しながら魔王と切り結ぶ。次第に剣の動きが速くなり始め、俺と魔王との間に生じる攻防は、目で追いきれるものではなくなっていく。

 金属音が広間に響き、俺は魔王が放つ剣を叩き落とし続ける。とはいえ、この状況がいつまで続くかわからない。そもそも魔王には魔法という手立てだってある。剣だけでなく魔法まで使われれば、確実に劣勢に立たされる。


 とはいえ、まだ魔法は使ってこない……これはたぶん、俺の後方にいるセレンを警戒しているためだ。セレンは気配を押し殺し剣を構えている状態だが、もし魔王が魔法使った場合、彼女は動く――そうした懸念をしている。俺のように何かしら切り札を持っていて……そういう風に警戒している。

 俺はさらに力を引き上げて、魔法を使われても押し込めるほどに強化すれば畳みかけることができるかもしれない……が、それで決着をつけられる可能性は低いだろう。魔王への攻撃は一度や二度では終わらない。長期戦は確定している以上、ここで全力を出し魔力を使い切ったらどうなるのか。


 決断に迫られる。なおかつ時間的な猶予はほとんどない。目にも留まらぬ速度で切り結ぶこの状況下で、俺は――その時、


「アシル!」


 セレンの声が広間に響いた。


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