目指す場所
城の前にいる魔物達は、人間の姿を見て容赦なく襲い掛かってくる……が、俺達はそれを一蹴しながら城へと突き進む。
ただ、ここで一つ変化が。城の入口が開け放たれると、さらなる魔物が出現した。
「数だけは多いな……!」
「アシル!」
そこでセレンが叫んだ。こちらが首を向けると彼女は、
「ここは私達が」
……それは、セレンやギルジアといった面々で対処するという意味合いだった。
「まだアシルは力を隠していた方がいい」
「切り札はまだ見せない、というわけか」
「俺も同意だ」
と、ギルジアが俺より前に出ると発言した。
「多数の魔物……こちらを寄せ付けないという意味合い以外に、威力偵察の意味もあるんだろ」
「こちらの戦力分析をするってことか……」
「その通り。よって、ここは俺達がなんとかする。城の入口までは、運んでみせるぞ」
言うと、ギルジアは魔力を発した。シェノンの助力を受けつつ、彼は剣を振り魔物を吹き飛ばした。
斬撃の余波ですら、魔物に傷を付けるだけの威力があった。その彼が先頭に立ってさらに突き進む。一振り一振りによって敵が確実に消えていく。するとそれに呼応するように、
「そっちだけに美味しいところはやれないな!」
と、声を上げながら前に出たのはヴィオンだった。続けざまにカイムもまた前に出ると、それぞれの剣が炸裂し、魔物を駆逐していく。
その勢いによってギルジアもまた呼応。相乗効果をもたらし、魔物の数が目に見えて減っていく……その間に俺は前進する。自分の周囲にいる敵は最低限の力によって応戦。セレンが補助する形で戦い、城へ近づいていく。
そうこうする内に、さらなる魔物が出現し俺達へ襲い掛かってくるが……ギルジア達が文字通り奮戦した。迫る敵をなぎ倒しながら、さらに前へと進んでいく。その勢いは確実に魔物が出現するよりも上であり、
「もうすぐだ!」
俺は声を張り上げる。直後、ギルジア達の撃破ペースが一層増した。追随するヴィオン達も同様であり……そして俺達は、とうとう城の前へと辿り着いた。
とはいえ魔物は相変わらず出現し続けている。なおかつ、倒しきれなかった魔物達も道に残っている。
「さて、それじゃあ俺達はここで退路の確保だな」
と、ヴィオンが俺へ告げた。
「カイム、そっちも手伝え」
「はい」
「……というわけで、残っている魔物はなんとかする」
「大丈夫なのか?」
俺が問い掛けるとヴィオンもカイムも、小さく笑みを浮かべた。
「心配しなくていいさ……魔王と戦うよりもずっと楽だ。後は任せたぞ!」
ヴィオンが言った直後、俺は城の中へ入る。残る面々は俺とセレン、そしてギルジアとシェノンの四人。
エントランスは魔法の明かりによって視界の確保はできている。そして、真正面にある扉……その奥から、明らかに異質な気配があった。
「魔王がいるのはあの扉の奥だな」
「馬鹿正直に開いてくれるとは思えないけど」
扉は閉め切られている。と、ここでエントランスに魔物が集まってくる。
「ここで立ち往生していたらまずいな」
「……俺が扉を破壊して」
「いや、まだ駄目だ」
と、ギルジアが言った直後、魔物達が一斉に襲い掛かってきた。
「その力はまだ見せないでくれ……ここは俺一人で十分だ!」
剣が一際輝き、ギルジアの体躯に魔力がまとわりついた――次の瞬間、彼の剣戟によって一度に大量の魔物が、一刀の下に切り伏せられた。
彼が握りしめる剣が一瞬だけ光によって延長され、文字通り光の刃で魔物を両断した……しかしなおもやってくる魔物。だが、迫るより前にギルジアは動いた。
「そらっ……!」
声と共に彼は剣を掲げ振り下ろす……その直後、光が一瞬で伸びて扉に光の刃が直撃した。魔法などが掛かっていればギルジアの剣でも……といったところだが、扉はあっけなく刃によって破壊される。ド派手な音を立てて斬られた部分が床へと倒れた。
「やっぱりな……防備の準備はできていない」
「……どういうことだ?」
ギルジアは何か確信を持って……扉が破壊できると悟って攻撃したみたいだが、
「何、単純な話だ。この場所は絶対に見つからない……魔王はそういう自信を持っていたはずだ。なおかつ、ここへ移動してきたのもそれほど前じゃないだろう。城は形だけはちゃんとしているが、魔法などによって防備まで完璧にする余裕がなかった、というわけだ」
「ああ、そういうことか……」
「というわけで、俺はここまでだな。後は君次第だ」
ギルジアが言う。扉が破壊された奥の通路は、魔物がいない。少し先にまたも扉があって、その先から魔力が漂ってくる。あの奥が、間違いなく本命だ。
「俺みたいに無茶をせず、必要最小限の力で扉を破壊して魔王へ挑め。最後の最後まで情報は秘匿しろ」
その言葉に俺は頷き……セレンへ目を向ける。
「セレン、どうする? 俺と共に行くか?」
「……私は」
恐怖はあるはず……だが、彼女は力強い瞳を見せた。
「アシルと共に、進むよ」
「わかった……進もう」
「うん」
俺とセレンは走り出す。その間にも魔物が押し寄せ……ギルジアがそれを一蹴する。
そして破壊された扉を踏み越えて魔王のいる場所へ……決戦の時は、すぐそこだった。




