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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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たった一度

 俺の斬撃が轟音を上げて、黒い水晶へと叩き込まれたのだが……壊れなかった。衝撃があったためか水晶が置かれた机は軋む音を上げたが、黒には変化がない。


「……硬い、という次元の話じゃないな」


 俺は先ほどブルーが語っていたことを頭の中で反芻しつつ、言及した。


「見えない力によって、守られている……これを突破しないと、魔王の打倒は無理というわけか」

「いけそうか?」

「今のは魔力をそれほど込めずに剣を振った結果だ。でも、今から放つのは……」


 俺は完成した技法を剣にまとわせる。そして黒い水晶へ向けて振り下ろす――刃が触れた瞬間、俺に伝わってきた感触は……何もなかった。

 刹那、俺の剣があっさりと黒い水晶が半分にした。それによって、水晶にあった魔力が霧散してただの水晶球へと戻る。


「見事だ」


 魔族ブルーが述べる。俺はそれに対し首を向け、


「これが魔王の力……その一端ってことでいいんだよな?」

「そうだな。けれどそちらの力であれば、十分対抗が可能ということだ」


 うん、これは自信に繋がる……ただ、たった一度成功しただけだ。


「似たような物を作り出すことは可能か?」

「相応に労力は必要だが、不可能ではない……検証のためにまだ必要みたいだな」

「ああ。破壊できたから魔王対策は完璧、と言うつもりはないし、まだまだ調べたい」

「いいだろう。魔王を打倒できるのであれば協力する……決戦の日までそう日があるわけではない。それまで、満足できるよう助力しよう」


 魔族ブルーの言葉に俺は「ありがとう」と礼を述べ……その後、真っ二つになった水晶球を、俺は眺めたのだった。






 ――そこからは、あっという間に作業は進んだ。連日魔族ブルーが作成した水晶球を利用して鍛練を重ね、仲間達もまた忙しく場内を動き回っていた。結果として、時を巻き戻す前とほとんど変わりない形で過ごすこととなり……いよいよ、決戦の日がやってきた。


 魔王が本当にいる場所へ向かう人員は小数かつ、目立たないように……ということで、俺達は人々に見咎められないように王都の外へと出た。


「ここからは私が案内します」


 と、騎士エルマは告げると騎士や俺達を先導する形で移動を行う。どうやら転移を行う場所すら異なるらしく、俺達は人に見られないよう馬車に乗り、街道を進んでいく。

 馬車内にいるのは俺とセレンに加えてギルジアとシェノン……だが、全員が一様に無言だった。俺とセレンは一度時を巻き戻したことにより、次で決着を付けなければ――という思いから言葉も少なく緊張している部分があるのだが、ギルジア達はそれに影響を受けたのだろうか。


「……決戦に入る前に、確認したいことがあるんだが」


 と、ギルジアがふいに俺達へ告げる。


「決闘を行った後、二人の様子が少し変わったような気がするんだが……」


 さすが、察しが良いというかなんというか。ただ、詳細を喋るわけにはいかないので、


「……魔王との戦いが差し迫っていたことと、何より俺達は罠に掛かりそうだった……緊張するのは当然じゃないか?」

「そうなんだがなあ……まあ、いいか。今回の決戦に際しあまり関係のない話ではあるからな」


 と、ギルジアはここで俺へ笑う。


「こっちはサポートに徹する。魔王相手は任せたぞ」

「他ならぬ英雄にそう言われるとは……」

「騎士エルマもわかっている。この戦いで最前線に立てるのは一人しかいないと。他の面々はそれを支える人員だ。魔王との戦いにおいて最大限援護できる要員が集っているわけだ」

「……俺一人で戦うわけじゃないけど、真正面から戦い続けるのは俺だけ、ってことだよな」

「そうだな。もちろん、全力で援護する」


 ギルジアの表情に決意が宿る。どういう形で戦うのであれ、この戦いを終わらせる……その心意気だけは伝わってくる。


「後は、捕捉した場所に魔王がいるのかどうか、だな」

「大丈夫……と言いたいところだけど……実際、どうなんだ? もしエルディアト王国に内通者がいるとすれば、今回の作戦についても情報が漏れている可能性はゼロじゃないよな」

「だからこそ騎士エルマを含め、国側は最大限秘匿した。人員が必要であるため、完全に秘密にすることは難しかったわけだが……やれるだけのことはやったはずだ」

「……内通者はまだ城に残っているんだろうな」

「だとしても魔王を滅ぼせば関係がなくなるさ」


 そう語る間にも馬車は進んでいく……行き先などは特に確認していなかったのだが、進路などからどこへ向かっているのか、おおよそ見当がついた。


「時間は掛かりそうだな」

「ああ。もし魔王の島……本来向かうべきだった拠点で異変が生じたなら、連絡が来るようになっている。異常を発見した場合は、一度退くか攻撃するか判断に迫られるが……」

「俺達は止まらないんじゃないか?」


 問い掛けにギルジアは笑う……あとは、作戦成功を祈るばかりであった。


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