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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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修行と結集

 城へと向かう道中で、セレンは俺へ一つ告げた。


「もしかすると、まだ城内に魔族と内通している人がいるかもしれない」

「魔王は俺達のことを結構知っている節もあった。とすれば、誰から情報を得ていたのかもしれない」

「私はエルマさんと協力して、色々調べてみるよ。あの人は、確実に信用できるから」

「そうだな」


 ――会話はそれで終わり、俺達は城へ戻った。早速セレンは行動を開始して、俺はひとまず部屋へと戻る。

 あとは、作戦が成功するよう祈るだけなのだが……いや、最大の問題は果たして俺の剣が魔王に通用するのか、ということ。


 二千年の修行に加え、魔王の島で得た経験……それを活かして、本当に勝てるのかどうか。


 どれだけ自問自答しても答えは出ない。それは当然であり、実際に戦うまではずっと変わらないだろう。なら、俺ができることは一つだけ。ひたすら剣を振り、修行を繰り返す。それが魔王との差を埋めることを願って。

 俺は部屋から出て訓練場へ赴く。俺のことを知っている人は多く、声を掛けられつつ修行を開始する。といってもやることは一人でもやれる素振りとかばかりなのだが。他者から見れば体が鈍らないようにしているのか、と考えるところかもしれないが……実際は魔力を練り上げ、剣に力を注ぐ。しかもそれが、気取られないように。


 魔王に対し大きく有利な要素があるとすればそれは、間違いなく俺やセレンが魔王の存在……極まった力を知っていることだ。あれを基準にして修行を繰り返す。無論のこと、あれと面と向かって戦えば俺も瞬殺される。だが、あれに追いつくべく剣を振り続ければ……時を巻き戻した現在、まだ力を取り込んでいない魔王相手ならば、通用するかもしれない。


 いや、通用するはずだ……と、心の中で念じるように呟いた。


「お、やってるな」


 ふと、ギルジアの声がした。視線を転じると笑みを浮かべながら近づく彼の姿が。


「作戦だが、そう遠くない内に始まるぞ」

「……密かに、やっているんだよな?」


 小声で問い掛けるとギルジアは頷いた。


「ああ、敵から情報を読み取ったのは大きいな」

「もし今回の作戦が失敗した場合は、情報が漏れていることになるけど」

「さすがにそこは大丈夫だろう。表向きは、魔王の島へ攻撃する手はずになっている。そこから本当の居場所へ転移するのは、少数……騎士エルマを含め、絶対に大丈夫だと断言できるだけの面々で応じる」

「少数……大丈夫なのか?」

「――レドやジャックから読み取った情報だと、魔王は相当強い。だからこそ、余計な戦力は逆に邪魔になる可能性がある」


 ……人間を利用して力を取り込む、という能力についても、ある程度推察がついているのだろうか。とにかく、兵力を注いでも意味がないと国側は考えた様子だ。


「俺は君を含め、魔王へ挑むのは少数だ」

「わかった……この戦いで決着がつけられるよう、頑張ろう」

「ああ」


 ギルジアは笑う……けれど俺はそれに応じることはできなかった。






 国の準備はそこから急ピッチに行われた。ギルジアの言うとおり表向きは島へ向かうために……実際に島近くの拠点に物資も入れ始めた。ここまでは前回の戦いと同様の動きだと考えて良いだろう。

 それに対し、本当の居場所についての準備も進める……どうやら転移を行う場所についても別に設けるらしく、エルディアト王国は相当情報漏洩に気を遣っているのがわかった。


 そうした中、俺の部屋にギルジアとシェノンが訪れた。随伴する人物としてはセレンや騎士エルマ。さらに仲間であるヴィオンとカイムだが――


「事情は聞いてここに連れてこられたんだが」


 ヴィオンが口を開く。ふむ、俺やセレンの仲間である二人については、魔王の居所を離しても問題ないと判断したか。


「現段階ではここにいる面々にしか話せませんが」


 と、騎士エルマは前置きをする。


「結論から言いますと、ここにいる面々だけで魔王に挑む形になるかと」

「おいおい、大丈夫なのか?」


 さすがに戦力が少なすぎるだろうとヴィオンが問い掛ける。それにエルマは、


「作戦に際し、可能な限り武具の強化など、個人個人の能力を大きくアップさせる手法をとります」

「少数精鋭というわけか」

「これは魔王の思惑……それに関する処置です。レドやジャックという魔王の配下から得た情報から、魔王は他者の魔力を奪うことで能力を強化できるようです。それを踏まえると、多数の騎士などを投入しても、逆に魔王を強化する恐れがあります」


 ――おそらくこれは魔族ブルーなどとも協議した結果だろう。兵力よりも、一騎当千の面々を集結させ、魔力を奪われないように戦うことが重要だと判断した。


「武具などによる強化ならば、魔王も力を奪える可能性は低い……と考え、エルディアト王国が準備した武具をいくつも利用し、皆様を強化します」

「それはありがたいですけど……」


 カイムは同調しつつも不安げな表情。けれどエルマは自信を込めつつ「よろしくお願いします」と告げ、


「この戦いに勝利するため、皆様の力を貸してください」


 頭を下げた。こちらはそれに言うことはなく……全員同調する形で、騎士エルマの言葉を受け入れたのだった。


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