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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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恐怖

 俺とセレンは外へ出て、彼女の案内に従って進む。時間軸的に言えば彼女が気分転換と称して街へと繰り出したのはもっと後だ。よって、レドやジャックを打倒したことによって変化した――と、考えればいいのだが、俺はセレンの雰囲気を見て察してしまった。

 やがて俺達は、ある場所へ辿り着く……大通りから離れた公園。俺とセレンが会話をした、あの場所だ。


 だから俺は、確信を持って彼女へ問い掛けた。


「もしかして俺が離脱した後、セレンも戻ってきたのか?」


 それはあの島にいなければわからない内容。普通ならば首を傾げて終わりのはずが……彼女は神妙な面持ちで、頷いた。


「うん……」

「そっか……オムトは無事だったのか?」

「ううん、アシルを過去へ戻して……それで、まともに動くこともできなかった。私は島の中央へ戻ってきてオムトを介抱しようと思って……けれどあの人は、私に対しても最後の力を振り絞って魔法を使った」

「……それは、俺一人ではまずいと?」

「最後にあの人は言っていた……全てを知る人間は多いに越したことはないと」

「そうか……驚きではあるけど、セレンが戻ってきて良かった。なんというか、上手く進んでいるように思えるけど……不安もあるし、相談できる人がいるのは心強い」

「私がいて助けになるのかな? とも思ったけど」

「そんなことはない。ありがたいよ」


 その言葉でセレンは微笑んだ。


「そっか……なら、戻ってきた甲斐はあったかな」

「今まで話さなかったのは……?」

「それは純粋にタイミングがなかったから。ごめん、なんだか全部任せるような形になっちゃって」

「構わないさ……セレンには決戦の時に頑張ってもらうから」


 ――その言葉で、セレンは身じろぎした。普通ならば、気にすることのない反応だが……俺はなんとなく、理解できた。


「魔王を目の当たりにして……恐怖を感じたか?」


 ――セレンは目を丸くした。心外だ、というわけではない。それはまさしく、図星であり指摘されたため驚いたのだろう。


「あれだけ強大な敵だ。俺は魔王と戦う勇者や騎士達を見ていたけど……あそこまで戦えたのは、ある意味開き直りの部分もあったはずだ」


 ……魔王魔力は膨大だった。正直、ギルジアですら普通であったら逃げているレベルのはずだ。


「あの場はきっと、怠惰になっていたのが覚醒して、奮い立ったことで戦えた……特別な状況だったんだ。セレンが気に病む必要はないさ」

「そう、かな」

「ああ……騎士エルマだって、同じ事を考えたかもしれない」


 俺は天を仰ぐ。どうにか未来を変えて、魔王へ挑める状況にはなりつつあるが、


「……セレン、オムトが開発した魔法について何か情報はあるか?」

「一応、理論的なものは……でも、あの術式はあの島でしか成しえないものだと思う」

「だろうな。場合によってはそれを誰かに伝えて、もう一度時を……と考えたんだけど、厳しいか」

「可能かもしれないけど……たぶん、アシルがいなければ意味はないと思う」

「俺が? どういうことだ?」

「あの魔王を倒せるのは……アシルだけだと思うから」


 彼女と俺は視線を交わす。その時、風が流れる。

 そういえば、前にこうして話をした時も何か……以前の光景が脳裏に蘇りながら、俺は話をする。


「……俺は、最後まで戦うつもりではある。でも、セレンにそれを強制するつもりはないよ。恐怖が勝るというのなら、後方支援でも構わない」

「……アシル」

「セレンの考えていることはわかるさ。騎士として、魔王と戦うためにエルディアト王国へとやってきた。でも、自分は恐怖している……騎士だからこそ、思うところはあるだろう。でも、だからといって無理矢理戦場に出ても無駄死にするだけだ」

「……わかってる。でもそれは、私が足手まといになったことを意味する……こんなことなら、私は戻る必要はなかったんじゃないかと思うくらいで」

「オムトがセレンも戻したことに理由があるとすれば、それはきっとセレンにしかできないことがあるためだと思う」


 俺の言葉にセレンは目を瞬かせた。


「私にしか……?」

「俺一人だけではできない……そして、俺と共に戦ってきた、信頼できる仲間だから……オムトがそこまで予想していたのかはわからない。でも、一人ではなく二人……戻したのは、あの人なりの根拠があってのことだと思うんだ」

「……わかった。なら、私は私にできることを」

「ああ、頼む……俺は既に決闘を終えていて、城の中でも一目置かれた立場にある。あんまりコソコソしていると怪しまれるし……今後はセレンに何か頼むかもしれない」

「ん、わかった」

「二人で……必ず、魔王に勝利しよう」


 俺の言葉にセレンは小さく頷く。それでようやく彼女の顔は穏やかなものとなり――俺達は揃って公園を後にしたのだった。


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