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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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付け入る隙

 潜伏する魔族への奇襲作戦は――やり方は前回と同じであり――結果から言えば、倒し方なども前回と同じだった。

 大きな違いは、後方に情報を読み取る魔術師がいることだけ……俺達がレドとジャックを打倒した際、魔術師も記憶に関する情報を抜き取ることに成功した。


 レドやジャックが、魔王の現在地を把握しているのかについては完全に賭けだったのだが……結果は、


「正直、俺も驚いているところだ」


 部屋に訪ねてきたギルジアは、開口一番にこう告げた。その姿を改めて観察し、魔王の島で生じた最後の戦いで起こった出来事が蘇り――それを振り払うように、口を開く。


「やっぱり、エルディアト王国の予想とは違う場所に本拠を構えているんだな」

「そうだ。もし情報を読み取っていなければ、罠にはまっていたところだ」


 ギルジアは言う……実際、俺達はまんまと引っかかって大惨事になった。


「現在、そちらへ向かうべく準備を進めている。エルディアト王国としては一から準備し直す形だが……それでもやり遂げると騎士エルマは語っていたよ」

「無茶苦茶大変そうだけど……」

「それでも魔王討伐をやり遂げるつもりだ……こちらは全力で支援する。よって当面、忙しくなる」

「俺に何かできることは?」

「そちらは魔王との決戦……それに集中してくれ」


 配慮……とは違うだろうか。あるいはギルジアは、何も話していないにしろ俺から何か感じ入るものがあったのかもしれない。


「それと、観測した魔王の本拠……そこについては異様な雰囲気になっている」

「異様?」

「魔王以外の魔族や魔物……そういった気配が極端に少ない」

「……既に、取り込んでいるのか」

「ん?」


 小さく呟いたのだが、ギルジアは首を傾げた。


「既に、何だって?」

「いや、こっちの話だ。魔王がロクに護衛もつけずいるというのは、可能性としてはいくつかあるけど……」

「今回エルディアト王国に配下を潜伏させていたように、既に人間の国へ侵攻する準備をしているというのが有力視されている。魔王の居所はわかっている……と、エルディアト王国は確信していたが、それ自体が罠……こちらが情報を手に入れなければ、間違いなく誰も魔王の下へ辿り着くことはできなかった」

「だから護衛は必要ない……ということか」

「ああ、そういう解釈でいい」

「他にも候補はあるのか?」

「……主張としては微妙だが、配下を取り込んで魔力を増強しているのでは、という話も上がった」


 これが実際正解なのだが、まあ配下を取り込むとか、やる理由が本来はないはずなので否定意見が出るのは仕方がない。


「あくまで可能性の話だが……ともかく、こちらは魔王に対し大きく有利な材料を得た」

「後は魔王に察知されないよう準備を進めるだけだな……ただ本拠へ踏み込む場合は転移魔法を使うんだろ? それでいけるのか?」

「魔王の本拠周辺に妨害するような魔法はないらしい。絶対に見つからないと考えているのだから、当然なのかもしれないが……これは明確な油断だ。よって、それに付けいる」

「エルディアト王国は転移できると踏んでいるのか」

「ああ……敵に気取られないよう……いや、エルディアト王国は魔王がいる島へ向かうのだと相手に思わせつつ、奇襲を仕掛ける」


 ……ある程度情報を取られている前提で話を進めているな。もしかすると、レドやジャックの頭の中を読み取った結果、城内に内通者がいると判明したのかもしれない。

 もしそうなら、厄介だが……と考えているところに、ギルジアは笑った。俺の考えていることがわかったらしい。


「城のゴタゴタについては城側に任せておけばいい。こちらは魔王討伐に集中しよう」

「わかった……俺は決戦の時まで鍛錬に勤しむよ」

「ああ、それでいい。頼むぞ」


 ギルジアは部屋を出て行く。一人残された俺は……、


「ひとまず、これで最悪な状況からは脱することができたな」


 ただし、既に魔王は配下を取り込んでいる……この時点でも恐ろしい力を持っているのは間違いない。果たして、勝てるのか。

 いや、勝たなければならない……楽園という名の監獄で得られた情報。それを思いだし、俺は魔王に対する切り札を体に叩き込み、すぐ扱えるようにしておく。


 ただ、そう心配はしていない。頭の中に浮かんでいる記憶を下に剣を振れば……思うように魔力を扱うことができる。

 結界に対し、ひたすら剣を振っていたわけだが……それが結果的に修行となった。俺はいつのまにか身の内の魔力を完璧に制御し、自分の望むとおりに力を発揮できるようになっていた。


「どういう風に力を込めればいいのか……あの修行で、コツをつかんだというわけだ」


 時間を掛けただけあって、非常に有益な技術だ。やっぱり俺は毎日少しずつ繰り返すことで強くなっていくタイプみたいだ――と思ったところで、ノックの音が聞こえてきた。


「はい?」


 返事をして扉を開けると、セレンがいた。


「突然ごめん、アシル」

「別にいいけど、どうしたんだ?」


 返答した俺に対し、セレンはどこか緊張した面持ちで、俺に一つ提案をしてきた。


「その、魔王との戦いに備えて……というのはわかるし、唐突に何を言い出すんだと思うけど……少し、外に出ない?」


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