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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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世界を終わらせる力

 楽園という名の檻の中で、騎士も勇者も怠惰だったが……魔王が降臨したことで、全員が正気に戻っていた。誰もが剣を構え、敵を見据える状況下で……俺は、他ならぬ魔王を観察する。

 その姿は、紛うことなき人間のような――魔族だって人と同じ姿をしている以上、魔王だって同じのはず……なのだが、心のどこかで異形なのではないかと考えていたため、少し戸惑う自分がいた。


 その姿は漆黒の鎧を着た騎士。年齢は三十代くらいだろうか? 正直言って、見た目からは魔王という雰囲気は……いや、見た目など関係ない、か。

 俺はその姿を目に焼き付ける。オムトの魔法によって過去へ戻るとしたら、あの姿を見つけ出して倒さなければならない……その方法などについては、既にオムトと協議して結論を出している。よって過去に戻ったらやることは、魔王がどこにいるのかを確認すること……そしてあの姿を見つけ出し、倒すこと。


「騎士や勇者が交戦しようとしている」


 俺はオムトに状況を伝えると、彼は渋い顔をした。


「距離があるここからでもわかる……その圧倒的な力は、人間にどうにかできる領域を超えておる」

「世界を蹂躙して得た力、ということだよな……」

「まさしく世界を支配する……あるいは、世界を終わらせる力じゃな」

「ああなった魔王を倒すことは……不可能、だな」

「だからこそ、過去へ戻り全てを手に入れる前の魔王と戦わなければならぬ」

「……今の状況、どう見る?」


 俺はオムトへ問い掛けた。目前では今まさに人間と魔王の戦いが始まろうとしている。


「勝てるとは思えない。でも、健闘できるのか?」

「わからぬが……少なくとも、魔王が放つ攻撃……雷撃に耐えなければ、勝負すらさせてくれぬじゃろう」


 会話の間にギルジア達が、駆けた。一斉に魔王へ殺到する。


 それは全方位からの攻撃だった。ギルジアが、仲間のカイムやヴィオンが……他にも見覚えのある騎士やカーナの姿もあった。あの場にいるのは、まさしくこの島へ踏み込み集められた最高の戦力……俺やセレン、エルマはいないにしても、人類が持ちうるだけの戦力を結集させている。


 一人一人放っている力は、この距離からでも感じ取ることができるほどに大きく、体を震わせるほどだ。間違いなく、この攻防が最初で最後になる……もし一片たりとも通用しなかったら、人類の終わり。そして彼らの攻撃が効いたのならば――


「見事な連携。打ち合わせたわけでもなかろうに、この私を倒すためだけに完璧な動きを見せている」


 それに対し魔王は呟いた……魔法を通して聞こえた、あの声だ。


「おそらく自堕落の極みに達していたはずだ。だがそれでも、討伐すべき目標が現れたら、目は生き返るというわけだ」

「魔王、覚悟!」


 騎士の一人が叫んだ。その人物が握る剣は光り輝き、まさしく生涯において最高の一撃を放とうとしているのがわかった。


「――アシル殿」


 そうした中、オムトは俺へ言った。


「感じ取る力でわかるじゃろう……戦いの結末については見なくとも――」

「いや、見なければいけない……それが、過去へ戻った時に繋がる」


 返答の直後だった。魔王が握る剣を――振った。それにより生じたのは、漆黒の稲妻。それは魔王の周囲に発生し、斬撃を叩き込もうとしていた騎士や勇者達を――飲み込んだ。

 一瞬の出来事だった。誰一人剣で弾くこともできないまま、稲妻は戦場を駆け抜けた。轟音が響き、さらに上空の雲は厚く、日の光を遮る。夜になるのではないかと思うほどに周囲は暗くなり始め……そうした中、戦場は――


「……今の私が放つ気配に臆することなく、攻撃したのは見事。踵を返し逃げていてもおかしくはないほどの力を有しているはずだが、それでもなお立ち向かってきた。称賛に値する」


 魔王が、語り出す。


「それはひとえに、私を討たなければならないという強い責任感から来るものだろう。ああ、その考えはまさしく素晴らしい。人類を守るため、世界を救うため……そんな大義名分に酔いしれているだけでは絶対に成しえない。確固たる信念があるからこその、攻撃だった」


 結果は……立っている人が、ほとんどいなかった。稲妻を受けて原型すら留めることなく……大半の人間が、消え去っていた。


「だからこそ、苦痛は最小限に葬り去ろう。この島に来たこと、それ自体を評価しよう……だからこそ、せめてもの慈悲だ。最後の最後、一瞬の内に終わらせてやろう」

「貴様……!」


 生き残った一人、ギルジアが言う。背後にはシェノンがいて、二人はどうにか耐えきった。

 ただしそれは、相当な魔力と引き換えに……おそらくシェノンは最初に魔王が撃った稲妻を見て解析したのだろう。そして耐えられるだけの結界を編み出した……が、それでも防げるのは一度か二度。おそらく次は、防げても再起不能になる可能性が高い。


 他の人間は……ヴィオンとカイムはもまた、どうにか生き残っていた。五体満足であるが、防ぐのに精一杯だったのか、肩で息をして剣をかろうじて握っているという状況。他にはカーナもいたが……こちらも同じようだった。

 他にも騎士が数名生き残っていた……が、立っているのは十人にも満たない。最初の攻撃だけで、それだけ人数を減らされてしまった。


 しかし、後続から騎士がやってくる……が、どうなるかは明白だった。魔王がどう動くかわからないが、間違いなくこの城へやってくることだろう。それを止めるだけの力は、あの場にいる誰にもないし、俺でも無理だ。


「……次で、終わらせよう」


 魔王が呟く。それにギルジア達は応じるべく残る力を振り絞って走り――同時、セレンが東側に到達し、どうにか魔石を埋め終えた。


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