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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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降臨

 オムトが語ってから十日後、準備はおおよそ完成し、拠点としている城の前に魔法陣を編み上げいつでも過去へ戻るための魔法が使えるように……したのだが、ここで一つ問題が浮上した。


「魔力が足りない?」


 今後どうするのか、という話し合いを魔法陣の近くで行っていると、オムトは俺へそう告げた。


「うむ、魔法陣の構築と理論は終わり、発動できる段階には達したのじゃが……魔法陣に注ぐ魔力が足らぬ。城の真下に存在する魔力溜まりを利用しようと思って調整したのじゃが、それだけでは無理じゃった」

「他からも引っ張ってこないとまずいってことか」

「うむ……というわけで、最後の仕上げじゃ」


 オムトは俺とエルマとセレン、三人に何やら魔石のような物を手渡した。


「位置についてはおおよそで良いため、この城を起点として東西南北……そこに、この魔石を埋めてきてくれ」


 こぶし大の石は青く、見ているとなんだか吸い込まれそうだ。


「この魔石を介し、島内全域から魔力を引っ張ればおそらく魔法は発動できる」

「わかった。一人一ヶ所ずつだな」

「うむ、埋め終わったら戻ってきて、早速魔法を実行しよう」


 それで、オムトは……けれど誰も何も言わなかった。オムトは既に覚悟を済ませていたし、だからこそ俺達はその考えを尊重するに至ってた。

 俺は北へ進路を向け、最短距離で突っ走ってあっという間に辿り着く。島内に散らばった戦士や騎士達は……どこからか話し声は聞こえるが、探そうとは思わなかった。


「よし、これでいいな」


 俺は魔石を埋めて一息つく。後は引き返せばいい……成功するかどうかはわからないが、後はやりきるだけ――


 そんな風に思っていた時だった。突如パチリ、と火花が飛ぶような音がした。


「ん……?」


 周囲を見回す。魔物や悪魔の類いは全て倒してしまったし、幻聴か何かだろうか……と思った瞬間、それは起きた。


「空が……?」


 方角的には島の北西……そこに、巨大な雲が生まれていた。しかもそれは漆黒でありながら、雨を降らせるものとは違うような気がした。

 嫌な、予感がした。それを裏付けるかのように、黒い雲から感じ取れる気配は、魔族や魔物から発せられる暗いものであると察し、俺はすぐさま走り出そうとした。


 何かが起こる……そう考えた矢先、黒い雲が突如――島へと飛来した。轟音を上げ、地面を揺らすほどの衝撃……反射的に立ち止まり、俺は雲があった方角を見据える。

 変化が明確にあった。おぼろげな気配が明瞭なものとなり……俺は、この島に来て感じていた魔力を、明確に察知する。それは、


「魔王……!?」


 とうとう、この日が――そう呟いた矢先、今度は漆黒の雷が、島の北西部周辺に降り注いだ。それがまたも地面を揺らすほどの衝撃を生み……先制攻撃を行ったのだと、俺は即座に理解した。

 それと共に、風に乗って魔力が俺に伝わってきた。恐ろしく、膨大な力……その瞬間、俺はこの魔力を持つ存在に勝てないと悟った。それはまさしく、この島の外側でありとあらゆるものを手にしてきた証だった。もはやそれは、魔王などという一個人ですらない。まさしく、世界そのもの……人間を喰らい力を得続けた果てに見えた、文字通り世界そのものと同義の力。


 俺はその瞬間、全力で駆け出した。魔王がとうとう襲来した以上、一刻の余裕もない。あらん限りの力を込めて走り、俺はあっという間に中央にある城まで戻ってきた。


「まだ仲間は戻ってきていないか……!」


 さすがに俺が早すぎた、ということだろう。問題は西側――こちらは騎士エルマが向かっているはずで、まだ魔法の直撃などは受けていないだろうけど、魔王が城へ向かってくるのであれば、遭遇するかもしれない。


「ここに魔王が来たら全てが破壊されるな……それまでに魔王を使わなければ、俺達の負けか」


 そもそもオムトの魔法が機能するかもわからないけど……と、考える間に背後から気配。それはオムトだった。


「オムト、そっちは――」

「どうにか魔法を駆使して戻ってきた……が、まだ東西の魔石が埋め終わっておらぬな」

「埋まっているのかわかるのか?」

「魔法陣を介して……二人が戻ってくるのを待つ余裕はなさそうじゃ。魔石が埋め終わったのを確認した後、すぐに魔法を使用する」


 ここで、再び漆黒の雷が島へ降り注いだ。それはおそらく、周囲にいた騎士や戦士に向けられたものなのだろう。


「……遠視の魔法を用いれば魔王を確認することができる。やってみるか?」


 オムトが尋ねてくる。こちらは小さく頷き、


「ああ、魔王の確認と、何をやっているかの観察は必要だ」

「いいじゃろう。強化魔法で付与するため、アシル殿は観察を頼む。儂は、即座に魔法を発動できるよう準備を行う」


 ――オムトは大急ぎで最後の準備を始める。その間に俺は、島の状況を確認する。


 まずエルマとセレンについては、まだ東西の端まで到達していないため、全速力で向かっている。エルマはどうにか目標地点まで到達したが、歩みが遅かったかセレンの方は一歩遅れている。

 とはいえセレンは東側担当なので、魔王から遠く比較的安全なはず……エルマが西に到達。大急ぎで魔石を埋め込み、オムトもそれを認識したか「あと一つ」と呟いた。


 そこで俺は視点を変える。島の北西……魔王が現在何をしているのか、確認する必要があった。

 見えたのは……まず、雷によって砕かれた地面。加えて先ほどまであったはずの森が、完璧に消失していた。あの周辺にいた騎士や戦士は何が起こったのかわからないまま死んだのだろう……そして、


「お前が、魔王か」


 ギルジアと、シェノンの二人が魔王と対峙していた。さらに言えば、異変を察知し騎士や勇者達も駆けつけており……まさしく、総力戦という様相を呈していた。


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