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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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途方もない方法

 正直、いつ何時魔王が襲来するかわからない状況……ではあるが、俺達は開き直ってやれることを進めていくしかないと判断し、城にある書斎をひっくり返し調べ始めた。オムトは必死でそれらを精査し、俺達もまた文面を読み進めることに没頭していく。

 シェノンがいたら効率も上がると思うのだが、現在彼女の所在がわかっていない以上、仕方がない……一日、また一日と経つごとに焦燥感が身の内から湧き上がってくるのだが、それを押し殺すように俺はひたすら資料と向き合った。


 そうして城の中にこもり続け、調べることおよそ一ヶ月……オムトはそうした短時間で、考えていた技術について、目処が立ったと述べた。


「予想よりも早い……これは魔王が所持していた技術が相当に恐ろしいものだという証左でもある」

「それで、具体的には何をするんだ?」


 食堂で、食事をとった後……後は眠るだけという段階となって、俺とセレン、エルマにオムトは話し合いを始めた。魔法の明かりをつけたテーブルを囲む形であり、オムトは俺達のことを一瞥した後に語り出す。


「端的に言えば、次元の悪魔の技術……時空間系に属する魔法を応用して――時間を巻き戻す」


 それは、あまりに途方もない内容だった。


「そんなことが可能なのか?」

「理論的には可能じゃ。ただ、莫大な魔力を必要とする上に、使用できるのはおそらく一度きりかつ、対象も一人が限界じゃな」

「その場合、戻るのはアシルしかいないよね」


 セレンが述べる。俺……まあ、戦力的なことを考えてもそれしかないか。


「オムト、具体的にはどういう方法を?」

「アシル殿の体を過去へ飛ばすというものではない。意識をこの世界で経過した時間そのものを逆走させて、魔王と戦う前の段階にまで戻す」

「なるほど……ただ、その場合は俺の体とかはこの島へ踏み込む前に戻るってことだよな?」

「そうじゃな。仮にこれができたとしても、二つほど問題が生じる。一つ目は肉体そのものについては元に戻る……つまり、何かしら魔王を倒せる技法を体得しても、今の体でしか使えない場合は巻き戻りが終わった後、使えない」

「記憶に刻め、ってことか」

「対策としてはそうじゃな。体に憶えさせるのではなく、理論として習得する……難易度は高いが、アシル殿の力であれば十分可能じゃろう」

「つまり、これからは魔王を倒せる技法を憶えるために集中すればいいのか」

「そういうことじゃな。この城にあった資料には魔王自身の能力に関する物もあった。それに基づき、対抗策を立てる……現在魔王がいくら強くなっていようとも、過去に戻れば対処できるかもしれん」


 手法そのものは本当に実現可能なのかと疑ってしまうが、もしそれができれば魔王を倒せる最大の突破口であるのは間違いなさそうだ。


「うん、一つ目の問題については対策可能だとわかった……二つ目は?」

「アシル殿のみを対象とする異常、他の者達は当然記憶の引き継ぎはなしじゃ。よって、単独で動かなければならない」

「……例えば島へ踏み込む前に戻ったとしても、俺が提言しても止まる可能性は低いよな」

「そもそもそんな魔法が存在するのか、と思うところじゃからな。それに、アシル殿以外に証言者がいない以上、信用してもらうのは厳しいかもしれん」

「ああ、確かに……でもそれはつまり、単独で勝てるような技術を得ればいいって話だろ?」

「さらに難易度が上がるぞ?」

「現状を鑑みれば、そのくらいの苦労は仕方がないさ」

「うむ……ならばそれでいこう。ただ、もう一つ懸念点がある。この魔法、一度しか使えないじゃろう」

「失敗したら後がないと?」

「そうじゃ……端的に言えば、おそらく魔法を使えば発動者の儂が無事では済まないじゃろう」


 それは……セレンやエルマが何事か言いかけた時、オムトはそれを手で制した。


「誰かに頼まれたからやるものではない。この場所こそ、儂自身が命を懸ける場所……そう判断したまでのこと。それに魔法を使用してしまえば、儂の死はなかったことになる」

「……巻き戻すってことは、島へ踏み込んで以降の出来事はなかったことになるんだよな?」

「そういう解釈で良い。時空関係の魔法は非常に複雑で、どれだけ説明しても理解しがたいものじゃが……そこは絶対に問題ないと言い切れる」

「なら、それを信用する……明日から早速、そのための準備を始めようか」

「うむ」


 オムトは頷き、セレン達もまた首肯する……おそらくこれが、魔王の島で行われる最後の作戦になるだろう。これで、俺達の行く末が決まる……不安を抱きつつもやりきるしかないだろうと俺は断じ、明日に備えて眠ることにした。






 翌日から俺は修行を開始する。セレンやエルマは書物を読みあさって逐一俺に情報をもたらす。そして俺はそれに基づいて剣を振る。

 体は元に戻るため、とにかく理論的にやり方を習得しなければならない……これはかなり大変なのだが、魔王を倒すために必要なことだ。やりきるしかない。


 一方でオムトについては時を巻き戻す魔法をいつでも使えるよう準備を進める。理論的な構築はある程度済ませたらしいので、十日ほどで準備は完了するらしい。

 そもそもこの魔法が成功するかもわからないし、オムトが犠牲になって終わる……という結末だってあり得る。けれど、オムトは作業の手を止めなかった。


 それは人類の希望を生み出すために、自らが命を費やすことに他ならなかった。俺はそれに対し思うところはあったけれど……声を押し殺した。セレンやエルマもまた感情を押し殺し、俺と共に魔王を倒す技術を得るべく、ひたすら作業を進め続けた――


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