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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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絶望と奮起

 オムトの話を聞いて、俺達は最初沈黙した。驚愕の事実――というよりは、話が飲み込めない、と言った方が正確だった。


「それは……つまり……」


 やがて最初に口を開いたのは、騎士エルマ。


「私達は数ヶ月この場所に閉じ込められていますが……」

「外ではもっと多くの時間が経過している。儂らは魔王と話をしたわけじゃが、相手からすれば相当な時間が経過している……エルディアト王国に手を出していないという話も、本当かどうかはわからぬ」

「……俺達に事実を気付かせ、慌てふためくのを見たいのかもしれないな」


 そう俺が発言すると、他の三人は視線をこちらへ集めた。


「結界で閉じ込めるだけなら、時の進みを変える必要性なんてどこにもない。なおかつ、書庫には様々な技術に関する資料が残されていたのを考えると、俺達がこうした事実に気付いて反応を観察したいなんて思惑だってあるかもしれない」

「……とことん悪趣味ね」


 セレンが言うと、俺は同意するように頷き苦笑する。


「魔王は人を取り込むことで強くなると語っていた。俺達を骨抜きにして残しているのもその辺りに関係してのことだとは思うが……様々な策を用いて、こちらの心を折りに来ているのかもしれない」

「それによって戦う気をなくして……」

「容易に取り込めるようにする……戦意を失っているにしろ、俺達は人類において最強の者達だ。そうやってエルディアト王国に集められた以上……魔王からすれば、極上のメインディッシュなのかもしれない」


 この空間はある意味楽園なのかもしれないが、間違いなく檻でもある……今は魔王が俺達の生殺与奪を握っている。もし今魔王が降臨すれば、勝てる見込みはないだろう。

 ならば、どうすればいいか……俺は少し考えた後、口を開く。


「……オムト、確認だが結界そのものは破壊できるんだよな?」

「うむ、可能性は高い」

「時の流れが遅いなら、一刻の余裕だってないかもしれない。魔王は現在も世界各地へ侵攻しているはず。それがいつ終わるのかわからない……時間の進み具合から、明日にもそれが来るかもしれない」

「儂らも急ピッチで対策を講じなければというわけじゃな……しかし、何をすればいい?」

「……書庫にある資料で、魔王に関する資料はないか?」

「魔王?」

「ここまで悪趣味なことをやっているんだ。自分に関する資料をわざと提示して、希望をもたらすなんてやりそうじゃないか?」

「……確かに、魔王自身の能力についてはまとめられていたけど」


 セレンが口を開いた。


「でも、さすがに資料に書かれている能力イコール魔王の力とは考えにくいし、そもそも魔王は強くなっている」

「そうだな。でも、能力を推察できるとっかかりはできる」

「何をするの?」

「座して待っていても、魔王はいつかここに来る……なら、魔王の能力を予測し、対抗手段を構築しておくべきだと思う」

「それはもっともじゃが――」

「俺が」


 と、自身の胸に手を当てながら、告げる。


「俺が魔王へ挑む。二千年修行した能力……それを使い、戦う」

「じゃがそれは――」

「こんな状況下だ。島にいる騎士達は好き放題にやっている。なら俺も……好きなようにやらせてもらう。でも、たった一人で挑むより、この場にいる面々に手を貸してもらった方が、勝率は上がると思う」


 それでも、もはや勝ち目はないだろうと思う……だが、それでも誰かがやらなければならない。


「とにかく今まで以上に魔王のことを調べて……技術を構築する。できるか?」

「……どういう道を進むにしろ、茨の道は間違いなさそうじゃ」


 俺の言葉に、オムトはゆっくりと息を吐きながら告げた。


「結界を破壊したとしても手立てがないのは間違いない。ならば、魔王を倒す手段……それを構築する方が建設的かもしれん」


 オムトはそう言ったが、エルマやセレンは無言だった。ただこれは仕方がない。結界が破壊できる以上、外に出てエルディアト王国の情勢などを知るべきであるはずだ。けれど、


「外に出た場合、間違いなく何か仕掛けがあると思う」


 そう俺はエルマへ告げた。


「魔物が監視しているのか、あるいはさらなる結界か……」

「かも、しれませんね」

「そちらの気持ちは痛いほどわかる。でも、現実的に考えて魔王を打倒するための手段を確立させる方が――」

「一つ、儂に考えがある」


 ここで、オムトが俺の言葉を遮った。


「エルディアト王国に関することも、解決できるかもしれん」

「解決……?」

「現状、国がどうなっているのかわからん。しかし、外へ出てもそれを確認するのも至難じゃろう。その辺りを含め、解決する手段を模索したい……それと平行して英雄アシルの言うように魔王対策を行う……どうじゃ?」

「……どれも可能なんですか?」

「不可能ではないと思う。ただしそれは、今以上に書庫にある資料を精査しなければ」

「わかりました。私はお手伝いします」

 エルマの言葉に加えてセレンもまた頷く。ひとまず話はまとまった。

「オムト、その考えというのは今説明できるか?」

「まだ検証しなければならんことが山ほどあるため、今は控えさせてくれ。実際にできるかどうかもわからんからな」

「わかった……魔王の対策の方は――」

「それも資料を確認する。大忙しになるが……」

「なら俺も手伝うよ」

「わかった。こちらが情報をまとめ次第、作業に取りかかろう」


 ――魔王は果たしてこうやって対策を立てること自体、予定の範疇なのだろうか?


 まだ手のひらの上で踊らされているだけかもしれない。けれど、だからといって前に進まず絶望するのは違う。まずは、やるだけやってみる……そしていずれここへ来る魔王に対し、一矢報いてやる。


「もし城に騎士達が戻ってきたなら、説得もしたいところじゃが」

「呼び戻している余裕はない。見つけたら説得してみる……で、いいんじゃないか?」


 ――そう提案しつつ気付く。セレンやエルマの目が、これまでのものと変わっていた。それは間違いなく、この島へ踏み込む前、決戦に挑むものと同じ光だった。

 彼女達は、この島の魔力の影響を乗り越えた……絶望的な状況を前に奮起した。そう断定して間違いないようだった。

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