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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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衝撃の事実

 以降、オムトは淡々と見つけ出した技法を組み立て、開発していく。俺はひたすら剣を振り、セレンやエルマは他に何かないかと書庫で本を読みあさっている。

 楽園に残された最後の四人は、外へ出るためにあがき続ける……正直、成功するかどうかもわからない賭けではあるし、話を聞く限り望みは薄いようにも思える。だが、それでも――


「ふむ……おおよそつかめたか」


 作業を開始してからおよそ三日ほど。それでオムトは魔法を開発した。


「多くの情報があったからこその所業じゃな。アシル殿、明日早速試してみよう」

「それで結界を壊すことができたら……」

「すぐに魔王が襲来するということはなかろう。よって、結界を破壊できた場合は仲間を呼び戻す作業じゃな。ともあれ、まずは試してみなければ」


 ――そういうわけで翌日、俺とオムトはいつものように結界の前に赴き、作業を始める。


 俺はとりあえず剣で結界を斬りつつオムトの策がどうなるかを見守る。魔法が収束し、やがて……島を覆う結界に対し、淡い光が生じた。


「その光り輝く部分に、魔法を照射しているのか?」

「そうじゃ」


 オムトは頷きつつ魔法を掛け続ける。果たして成功するのか……事の推移を見守っていると、


「これは……」

「何かあったか?」


 俺の質問にオムトは答えない。そればかりか、魔法を掛けている結界を見据えて何やら呟き始める。

 俺には聞き取れないレベルの声量であり、魔法を使用しながら検討を始めているようだが……数分後、オムトは魔法を解除した。やはり魔法は通用しなかったか――


「……アシル殿」

「ああ」

「このまま魔法を掛け続ければ、結界そのものは自壊するじゃろう」


 思わぬ言葉だった。目を丸くしていると、オムトは俺の方を見た。


「魔法を使用する間に結界に変化があった。断言できるほどではないにしろ、可能性は極めて高い」

「……結界は一部分が壊れるのか? それとも全体が消えるのか?」

「そこは微妙じゃが、一部分が崩壊し、連鎖的に結界がまるごと消滅する可能性も捨て切れんな」

「魔王の技術ではあるけど、ちゃんと通用した……いや、魔王の技術だからこそ対抗できたということか」


 これはもしかすると、魔王が侮っていた部分……人間にこんな技術はないだろうという考えを持っていたのかもしれない。だがこの島へ突入した人間の中に、技術を利用できる存在がいた。


「なら、これで――」

「しかし、問題が発生した」


 俺が何かを言うより先に、オムトは口を開いた。


「というより、こうして魔王が結界を破壊すること自体、想定の内なのかもしれん」

「……どういうことだ?」

「この島にはもう一つの罠が仕掛けてある。それはこの島内にいれば効果を発揮しない……というより、自覚できないものじゃ」

「罠……?」

「儂らはここに誘い込まれた時点で、詰んだ状況だったということじゃ。勝負は、決まってしまった」


 あくまで冷静に……けれど明確な敗北宣言。俺は顔を険しくしつつ、彼へ問う。


「どういう、ことだ……!?」

「魔王との会話。あれについても嘘がある……意地の悪い敵じゃ。もしかすると、解明して反応を窺うつもりなのか……あるいは、結界の外へ出た際に顔を合わせた際に、驚くのを見るためか……」

「何が、あるんだ?」


 不安になって俺は問い掛ける。そこでオムトは、


「……ひとまず、戻るとしよう。話しはそれからじゃ」


 ――彼の首筋に汗が伝う。何やら、恐ろしいことが起きている。それについては間違いないようだった。






 俺とオムトが早期に戻ってきてセレンやエルマは驚いた様子だった。そしてただならぬ気配を感じたかすぐに話し合いを始めたのだが、


「まず、結界そのものは破壊できる。しかし問題は罠が仕掛けられている」


 オムトが語り出す。それをセレン達は固唾を飲んで見守る。


「その罠はおそらくじゃが、儂らがここへ侵入して……少し経過した後に発動していると考えた方がいい。おそらくは外から援軍が来なくなったタイミングじゃ」

「この城へ踏み込んでしばらく経過した後ですか」

「そうじゃ。外から人が来ている間は、もう一つの罠は発動していない。しかしどこかのタイミングで……何がきっかけなのかはわからぬが、罠が発動した。もっとも、儂らはそれに気付いていない」

「結界に干渉してそれに気付いたのか?」


 俺の質問にオムトは頷く。


「そうじゃ……先に言っておくと、罠というのは儂らに影響をもたらすものではない。具体的に言えば外側の問題じゃ」

「外側……?」

「結界に魔法で干渉した際、儂は外の状況を知ることができた」


 それはかなりの朗報。だからこそオムトは結界を破壊できると判断したのだろう。


「なおかつ、魔法の効果により周辺だけでなく、かなり遠方の情勢なども知ることができた」

「それは魔法によって?」

「うむ、どのような作用が働いたのかわからぬが、結界を破壊するために生まれた魔法の副次的効果ということじゃろう……問題は、外の情勢じゃ」

「魔王が嘘をついていた?」


 エルマの表情が険しくなる。


「既にエルディアト王国は……」

「さすがにエルディアト王国まで視界を通すことはできなかったため、どうなっているのかは不明じゃ。しかし、魔王が嘘をついた……そこは間違いない」

「既に攻撃は始まっていたと」


 悔しい表情を見せるエルマ。俺達はどうにもできなかったとはいえ、彼女にとっては――


「いや、それどころではない」


 けれどオムトは思うもよらぬ発言をした。


「そしてアシル殿、儂の魔法が通用したのは、結界が作用している魔力と類似した能力を持っていたためだ」

「類似……?」


 そう問い返した矢先、俺は身震いした。まさか、いや――


「そうじゃ。アシル殿は次元の悪魔によって異空間に捕らわれた。そこで果てのない修行を行い、力を得て外へ出たが、外側はほとんど時間が経過していなかった……この島に掛けられた罠は逆じゃ。この島の中……その時間の進みが遅くなっている。次元の悪魔と規模が違いすぎるため、遅いといってもアシル殿が体験したほどではないはずじゃが……外側では、相当な年月が経過していると考えて間違いない――」


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