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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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支配者

 食事そのものは淡々と済ませ、俺とセレン、エルマにオムトという最後に残った面々は、メッセージが残されていた部屋へ入る。時刻は夜。魔法の明かりによって部屋の中は照らされ、その中でオムトは何やら作業を始める。


「よし、これで……」


 準備はすぐに完了した。次いで彼は俺へ視線を移す。


「繋がった先にいる相手との話は、お主に任せていいか?」

「代表者が俺ってことか?」

「うむ、この中で適任じゃろう」


 俺はセレンやエルマに視線を向けると、二人は黙って頷いた。オムトの言葉に従うらしい。

 それでこちらは踏ん切りがついて一歩前に進み出る。そこですぐさまオムトは魔法を発動させ――キィンと乾いた音がした。


「繋がったのか?」


 問い掛けにオムトはすんなりと頷く。さて、外部とはいえ相手は――


『……ほう?』


 声がした。それはこの城に残されたメッセージと同じものだ。

 それによって、相手が誰なのか俺は見当を付け、問い掛ける。


「お前は、魔王だな?」

『……よもや、これだけの時間が経過してなお、こうして干渉してくるとは』


 本物かどうかはわからない。だが少なくとも、俺達を閉じ込めた存在であるのは間違いなさそうだ。


『なおかつ、会話までしようとするとは……抵抗できる者が残っているのは予想外だな。とはいえ、他に手段がないため一縷の望みを掛けて、というわけか?』

「お前に繋がるとは百も承知だったが、な」


 返答をすると魔王は笑う。ただ、


『面白い、興が乗った。少しばかり話をしてやろう。一番聞きたいのはエルディアト王国がどうなったか、だろう?』

「その必要はない」

『ほう?』

「そもそも貴様が真実を喋る保証がどこにもない」

『確かに、如何様にも話すことはできるが……まあ聞いていけ。少なくとも現時点では攻撃は仕掛けていない。思った以上にその監獄を作り出すために力を消費したからな』

「……わざわざこんな場所を作成したのは、俺達を警戒してか?」

『違うな……いや、あっさりとエルディアト王国に潜ませていた手勢を打ち破った手腕は評価している。だからこそ、丁重にもてなそうと考えた……そして、最後の最後まで残しておこうかと思っただけだ』

「何……?」

『その島からはどんな手法でも脱出はできない。故に、話してやろう。魔王グラーギウスの目的を』


 ……真実かどうかもわからない。だが、こんな状況であるからこそ、逆に真実味があるような気がしてくる。


『魔王という存在は、この世界にいくつも存在している。だがそれを、私は統一し魔族の悲願を成し遂げようとした』

「魔族が世界の頂点に立つ……支配者になることか」

『その通りだ。しかし、私は一歩先を見る。支配者になることで成し遂げたと言えるのか? その支配を永久のものにして初めて、達成したと考えるべきではないか?』

「それをやるために、お前は人間の国々を征服しようとしているのか?」

『そうだな。まずは人間を……とはいえ、生半可な力では成しえないことだと私も認識している。ただ、国を一つ平らげることができれば、私は支配者に足る力を得られる』

「何……?」

『私の能力がどういうものか説明していなかったな。私は人間の魔力を身の内に取り込むことで、成長できる特性を持っている』


 ――驚愕の事実だった。


『故に、人間を集めその全てを取り込む……一つか二つ国を犠牲にできれば、絶対的な力は得られるだろうな』

「……つまり、俺達を相手するよりも先に無抵抗な人間に狙いを定めたということか」

『そういう見方もできるな。圧倒的な力を得れば、いかに貴様達がその島で結束し、強くなったとしても……それを上回るだけの力を得れば、意味はないだろう?』


 時間が経てば経つほどに……絶望はさらに膨れ上がるというわけか。


『貴様達をそこへ閉じ込めたのは、一種の敬意でもある。ここまで魔王という存在に対抗してきた……そこにいるのは間違いなく、私へ挑む精鋭達だ。人間達を取り込んだ総仕上げとして、貴様達を……そうして計略は完成する』


 ――俺達をわざわざ取り込む理由はないが、いつかここへ来てそれをやると。最後まで刃向かった者達だから、ということか。


「それまでは見逃してやるということか?」

『その通りだ……そもそも、島から出られるとしてもお前達はどうやって国へ帰る? 既に転移魔法についても引き払っている状況だ。奇跡の連続によって結界を突破できたとしても、貴様らはその領域から抜け出す手段もない』

「結界さえ出れば、いくらでもやりようはあるさ」


 それこそ、転移魔法を無理矢理起動させることだって……こちらの言葉に『なるほど』と魔王は応じ、


『確かに、その程度の障害はクリアできるか……ならばなおさら、結界が破壊できないのが悔やまれるだろう』

「お前は破壊できないと言った。だが、俺達は――」

『本当に、できると思うか?』


 問い掛けに俺は押し黙った。制作者だからこそわかる……結界の破壊がいかに困難なのか。


『その時が来るまで、抵抗を続ければいい。残したメッセージでは数ヶ月後などと言っていたが、実際はもう少々時間が掛かる……貴様らの所に向かうのは、年単位の歳月が必要だろう。その時まで、楽園という名の監獄でつかの間の平和を享受するがいい。その方が、よっぽど建設的だと思わないか?』

「絶対に、ここを出てお前を倒す」


 魔王は一時沈黙し、笑い始める。


『ならば、示すがいい……とはいえ、だ。人間を取り込まずとも私は既に相当な力を有している。それでも勝てると考えるのなら、来るがいい』

「力……?」

『その島に魔族がいなかっただろう? 私が引き連れたというのもあるが……島に存在していた同胞達は、全て糧となったからな』

「まさか、お前は仲間も――」

『配下だ。私が支配者となるのならと、喜んで命を捧げてくれた』


 ――たった一つの存在となって、それで支配者のつもりなのか。


 世界を統べたといっても、人も魔族もいない世界で意味があるのか。疑問はあったがどうやらそれが魔王グラーギウスの目的らしい……こちらが沈黙していると、魔王は最後の一言告げた。


『いずれにしろ、顔を合わせる日がやってくる。その時まで、楽しみにしているがいい――』


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