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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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唯一の手段

 翌日からも俺自身やることは変わりなく、ひたすら結界へ向けて剣を振るい続けた。一太刀ごとに少しずつ魔力を変え、何度も何度も斬ってみるが……やはり、成果は上がらない。

 とはいえ、こうして剣を振り始めてからわかっていたことなので、俺としては苛立ったりとかはしていない……もしかするとこれは、二千年という歳月の修行によるものかもしれない。


 異空間に捕らわれて、俺はいつ来るかわからない終わりのために修行を続けた。最終的に次元の悪魔が構築した領域を破壊し、元の世界へ戻って来れたわけだが……果てのない試みを千年も続けていたからこそ、俺は今こうして剣を振り続けることができているし、魔王の魔力に抵抗できていると言えるかもしれない。

 そして、昼を過ぎても当然のように変化はなく、俺は昼食でもとるかと思い、木陰に近寄る。弁当を持参しており、それを食べてから改めて作業を再開するのだが――


「……ん?」


 弁当を手に取ろうとしたら、木陰にいつのまにかセレンが立っていた。


「どうしたんだ? 今日は確か――」

「全員」


 と、俺の言葉を遮るようにセレンは言う。


「全員、昼前に解散した」

「……解散?」

 そう聞いた直後、一つの結論に達する。つまり、


「もう限界だった、ということか」

「昨日、方針を変更したけど、それが呼び水となって……」

「それが理由かはわからないけど……いや、もう理由なんて何でも良いのかもしれないな」


 今までとは違う何かがあった。よって、シェノン達も糸が切れてしまった。


「それでセレンはどうしてここに?」

「散り散りになる中で、どうにかならないかと思ってアシルの所に」

「そっか……でもセレンだって限界じゃないか?」


 少し前から様子がおかしかったこともあるし……と、こちらの言及にセレンは神妙な顔つきで頷いた。


「ごめん、その……」

「いいさ。ヴィオンやカイムなんかがギリギリ抵抗できていたことを踏まえると、俺の力によって押し留められていた感じだろ。でも、抗えなくなっている……今思えば、この島に踏み込んだ時点で魔王の計略からは抜け出せなくなったということなんだろうな」


 俺達を倒すのでなく、閉じ込め骨抜きにする……まさか戦うことを放棄した上で、こんな手法をとってくるとは想定外だ。

 ただ、それだけ魔王を本気にさせたということなのかもしれない。ここまでの檻を作り上げて俺達を閉じ込めたということは、それだけ魔王が俺達を脅威と見なしていることに他ならないわけで――


「……もし、突入した時点での能力を維持できれば、魔王とも戦えるかもしれない」


 俺はそんな風に言う。何が言いたいのかはセレンも理解できたようだ。


「でも、今の俺達にはそんな力もない……蹂躙されて終わりだろうな」

「アシルは……」

「俺一人で魔王に勝てるとは思ってないよ。もっとも、可能な限りあがいてみせるけど」


 ただ――もうエルディアト王国へ戻るということは難しくなった。騎士エルマなんかは早く戻らなければ、という意思があるから耐えているけど、それもいつまでもつのか。


「……セレン、俺は弁当食べたら作業の続きをするけど、どうする?」

「ここにいてもいい?」

「ああ、構わないけど……つまらないだろ?」

「ううん、それでいい。もし島の中を散策し始めたら、たぶん城に戻らなくなる」


 そんな風に言う。セレンの瞳の奥には、少なからず申し訳なさそうな雰囲気がある。それと同時に、


「……感情がせめぎ合っている感じか」


 俺の言及にセレンは目を丸くする。


「楽になりたいという気持ちと、早く外へ出て魔王を倒さなければ……そんな感情が胸の内にある」

「うん、間違いない」

「……正直、俺が気持ちをよくすることはできない。なら、セレンの思うようにすればいいんじゃないか」

「そう、だね」

「まあ、俺のことを見ているのならそれでもいいさ。正直、面白みはないと思うけど」


 ――そんな風に会話をした後、俺は作業を再開する。剣を振っている間はセレンのことも意識の外となり、ひたすら剣を繰り出し続けた。






 それでも結局成果が出ることはなく……夕刻前になって城へと戻る。とはいえ、シェノンは帰ってこなかった。いたのはオムトただ一人。


「他の人は――」

「さすがに限界だったようじゃ」


 淡々とオムトは語る。そこで城の奥から騎士エルマの姿が。


「おかえりなさい……それで一つ報告が」


 エルマによると、ギルジアはいなくなったシェノン達を探して森へ入ったらしいが、戻ってきていないらしい。


「もしかすると、って感じだな」

「かも、しれません」

「残ったのは四人か……とはいえもう調査もままならない状態だな」

「それについて一つ提案がある」


 と、語ったのはオムトだ。


「現状、結界を破壊する手段は実質失った。しかし、まだ外と連絡がつくかもしれん」

「え、本当か?」

「とはいえ、それはエルディアト王国と話ができるというわけではない」


 と、オムトはやれやれといった様子で語り続ける。


「状況を変化させる材料にはなるが、事態が好転する可能性は低い」

「……何をするんだ?」

「魔王が残したと思しきメッセージがあったじゃろう? あの部屋について調べたところ、外部と繋がりが存在している……もしかすると儂らにメッセージを残した魔法。あれは島の外から遠隔で起動するようにしていたのかもしれん」

「城に踏み込んだ時点で発動、とかじゃないのか……」

「魔王がどういう意図でそういう仕組みにしたのかは不明じゃが、あの部屋に残っている魔法ならば、まだ外と繋がりがある。ただし」

「それを利用して外部と連絡をとろうにも、魔王にしか繋がらない可能性が高いと」

「ギルジア殿などとも相談したが、使うのはリスクがあるとして使用しなかった。じゃが、今の状況……もはや他に打開する術がないのだとしたら、使ってみるのも良いかもしれん」


 事態がより悪化する可能性もある……が、もはや残された選択肢はほぼない。


「……やってみよう」


 俺の言葉に、エルマやセレンは頷く。そして俺達は夕食後、試すことにしたのだった。


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