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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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流れる月日

 そしてさらに一ヶ月が経過した。俺は相変わらず結界へ向け剣を振り続けていたのだが……成果を出すことはできず、城へと戻る。

 騎士の姿などはほとんどない。いてもすぐまた外へ出ていくか……唯一、騎士エルマは残っていたが、彼女もほとんど城から出ていない。


「……帰ってきたか」


 ギルジアが出迎えてくれた。その顔つきからどういう状況なのかは理解できた。


「今日も成果はなしか」

「そちらも同じだな」

「ああ……正直、この状況で結界を破壊できても、戦う力は残っていないんじゃないか?」

「かもしれないな」


 ギルジアは同意する……最初は一ヶ月前に決めた方針に基づいて活動していたが、俺やシェノンがどれだけ言っても騎士や勇者は聞き入れてくれなかったので、そこはギルジアに任せて俺はひたすら結界と向き合い続けていた。シェノンの方も同じように作業を進めている……が、進捗はほぼない。それでもギルジアが放り出しているわけではないため、どうにか作業を続けることができている。


 しかし彼女と共に行動している人物は、オムト――老齢の魔法使いだけとなってしまった。彼は年齢的な影響からなのか魔力の影響は少なく、彼の存在によりシェノンが踏みとどまっていると言ってもいいくらい、助けられている。


「現状、所在を捕捉できる人間も少なくなっているからな」

「……再び戦えるようになるまでに、どれだけの歳月が必要だろうな」

「あるいは、もう無理かもしれないな」


 ギルジアはため息をつく。正直、気持ちはわかる。


「外は、もう攻撃を開始しているかな?」

「微妙なところだな。とはいえ、エルディアト王国は守る力もないだろう……俺達が消えた穴を埋めるのは至難だからな」


 もう既に、国が……そんな最悪の可能性を危惧しているからこそ、騎士エルマはどうにか踏みとどまっている。彼女もまた城内で騎士達をつなぎ止める方策を考えているのだが、成果は上がっていないようだ。


「ところでセレンは?」

「彼女も城の中だ。アシル君の身近にいる人間であるためか、まだ大丈夫そうだな」

「ヴィオンやカイムもまだなんとか……他に残っているのはカーナくらいか」

「呼んだかい?」


 噂をすれば、とカーナが近寄ってくる。


「こちらも今日は終わったよ。まあ、成果はないね」

「いっそのこと、まだ使命を放棄していない人間だけを集め、他は見捨てた方が良いかもしれないな」


 そんなコメントをギルジアは告げるが、カーナは小さく肩をすくめつつ、


「エルマさんがそれを許さないだろ?」

「……まあ、な」

「――帰ってきていましたか」


 今度はエルマの声。見れば、暗い顔をする彼女の姿が。


「食事のしましょうか。今日は私が」

「ああ、手伝うよ」


 カーナがエルマと共に食堂へ向かう。俺とギルジアはどうするかと視線を重ねた時、城の入口にシェノン達が。


「お、そっちも終わりか?」

「はい」


 シェノンのもまた暗い顔だが、オムトは彼女の様子を見て「落ち込むな」と告げる。


「少しずつでも進んでいると思うぞ?」

「はい、そうですね……」

「とはいえ、調査初日と比べても作業ペースは雲泥の差だが」


 と、ギルジアは言うが……、


「ただまあ、現状を考えれば進められるだけマシだろ。シェノン、明日も頼むぞ」

「はい」


 返事と共にギルジア達は食堂へ。俺もその後に続こうとした時、さらに入口に人影が。


「ヴィオンとカイムか」

「どうにか今日も、戻ってこられたな」


 笑みを浮かべ俺へと語るヴィオン。


「どうにか全てを投げ出さずに済んでいる……一ヶ月前の段階で危なかったが」


 活動時間そのものは俺やシェノンと比べれば少ないが、それでもどにか踏みとどまっているのが二人。一ヶ月前と比べても状況があまり変わっていないのは、もしかすると魔王の魔力に慣れたからかもしれない。


「でも、明日はわからない……もし戻ってこなかったら――」

「ぶん殴ってでも連れ戻せ、だろ? この一ヶ月の間に散々聞いたよ」


 ヴィオンは笑い、カイムは苦笑。やがて二人もまた食堂へ。

 そして……城の上階から、セレンが下りてきた。


「アシル……」

「そっちはまだ平気そうだな」

「どうにか、ね。でも、外を出歩けば危ないかも」


 ――俺と共に剣を振るような時もあった。しかし、彼女は魔王の魔力による影響が仲間の中で大きく、下手に出歩けば戻ってこられないかもしれない――そう判断して城の中にいる。

 騎士エルマと共に、騎士達を連れ戻す方策を考えているのだが……成果は上がっていない。ギルジアとエルマとセレン……この三人でどうにかと動いているのだが、結局作業に復帰できた人間はいない。一度全てを放り出せば、それで終わりだ。


「食堂へ行こう」

「うん……」


 セレンは頷き、俺と共に並んで向かう。道中で会話は少なかった。彼女としては思うところがあるみたいだけど、結局口にすることはなかった。

 そして、いまだ諦めず作業を進めるメンバーが全員食堂に集まった。この二週間ほどは、こうして夕食だけ全員で集まるようにしている。まだこれだけの人数抵抗している……それを示すことで、現状を維持しようというギルジアからの発案だった。


「さて、色々と作業を進めてきたが状況は改善の兆しがない」


 食事を進めつつ、ギルジアは語り出す。


「そこで、少し方針を変えようと思う」

「連れ戻すのをあきらめるのか?」


 問い掛けたのはヴィオン。しかしギルジアは首を左右に振り、


「そういうわけじゃない。説得はもちろん続けていくが、他のことを優先する……結界破壊を優先するという話だ。俺とエルマ、そしてアシル君以外のメンバーは、明日からシェノン達と共に同行してくれ」


 指示に全員が頷く――現在、ギルジアがリーダーとして作戦の指揮をしている。こうした人物がいないと、現状維持も難しいと判断してのことだ。


「俺とエルマの二人で騎士達の説得を行い、アシル君は今まで通り作業を頼む」

「わかった」


 俺は頷く。この一ヶ月、ほとんど変化がなかったためギルジアが変えようとしているのだと判断した……が、この作戦は、予想外の方向へ転がっていくことになる――


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