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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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変化していく心情

 魔王の島に滞在して、一ヶ月が経過した。援軍はもうやってこないし、俺達は外では死んだものとして扱われているだろう。

 エルディアト王国側はどうしているのか……早く帰らなければと考えるところだが、どれだけ剣を振っても結果がまったく出ない。


「今日は終わるか……」


 幾度となく剣を振り続け、俺は夕刻を迎えて城へ戻ることにした。今日もまた延々と斬撃を叩き込み続けたが、結局破壊はできなかった。

 物理的な手法では通用しない……そんな予感はしていたが、それでも俺にはこれしかない。毎日少しずつやり方を変えているわけだが……それでも、まったく突破できる気がしない。


 やはり物理的に破壊することは無理だろうか。そもそも、結界を壊したからといってすぐに抜け出せるとも限らない。一度壊したがすぐに修復されてしまえば俺はお手上げだ。というより、そんな可能性が高い。

 そうしないためには、シェノンの解析がきちんと果たされなければならないのだが……現時点で解明はできていない。さすがに一ヶ月前より進展はあったが、それも牛歩だ。正直、魔王がエルディアト王国を攻撃する方が圧倒的に早いだろう。


 俺は城へと戻る。そこに、最初緊張感を伴い島を駆け巡っていた騎士の姿はなかった。シェノンの生育系の魔法によって作物すら育っており、食料も困らない状態。そして城の中でゆっくり眠ることができる……騎士や勇者は怠惰の極みだ。今はもう、敵に備え剣を振る人間はほとんどいない。


「……お疲れ様です」


 シェノンの声だ。見れば、ギルジアと共に歩み寄ってくる彼女の姿。


「そっちはどうだった?」


 彼女は無言のまま首を振る。まあ当然だよな。


「俺の方も成果なしだ。正直、一ヶ月前にこの城に入った時からあまり進展していないな」

「それは私も同感です。けれど、やらなければ前には進めない」


 俺は小さく頷く。とにかく、少しずつ進捗していると考えて動くしかない……が、これは願望に近いような状況になってしまっている。

 傍らにいるギルジアも、無言に徹しつつどこか憮然とした表情をしている。現在シェノンは彼と共に結界へ赴いて調べているのだが……他の人達はどうしたかというと、たぶん森のどこかをうろついている。騎士や勇者と同じように、もう真面目に作業をすることもないわけだ。


「……食事にしようか」


 俺が言うとシェノンは頷く。そこから無言で城の中へと入り、食堂へ。

 誰かが調理してくれるわけではないので、採ってきた野菜とか獲物とかをここで勝手に料理するのだが……人はいなかった。最初の頃はある程度集まって食事をしていたのだが、いつしか好き勝手に食べるようになっていた。


「今日は俺が作るか」

「私にさせてください」


 シェノンが提案してくる。疲れているだろうと言おうとすると、


「大丈夫ですから」


 そう言って彼女は厨房へ向かってしまった。


「……たぶん、作業をしていないと心が持って行かれるんだろうな」


 と、ギルジアが言う。俺はそれに対し、


「彼女も、魔力を受けていると」

「そうだ。今では作業をしている間も油断できなくなっている。魔力解析の途中でしきりに視線を変えたりしている。学者であるため、この島にある植物などを調査したいみたいだが、一度それをやったらおそらくもう戻ってこないな」

「……ギルジアの方は大丈夫か?」

「俺の方はどうにか……いや、日に日にもういいんじゃないかという気持ちが増している。一ヶ月くらいなら平気だろうが、この島に滞在する時間が長くなればいずれ、騎士や勇者の仲間入りをするだろうな」


 ギルジアですら……俺の方はとりあえず大丈夫だけど、逆に言うと俺くらいの力を持っていなければ抵抗できないのかもしれない。


「そちらは気にせず仕事をしてくれればいいさ」

「……なら、俺だけでも頑張るさ」


 とはいえ、一人ではやれることも限界がある。それに、結界を壊せる保証はどこにもない以上――


「アシル」


 ふいに名を呼ばれた。見れば食堂にセレンが入ってきた。


「ああ、どうした?」

「今日は終わり?」

「ああ、そうだな」


 返事をすると彼女はなんだか申し訳なさそうな顔をする……彼女はまだ抵抗できている方の人間であり、怠惰に過ごしている騎士や勇者に声を掛けて鍛錬をするよう呼び掛けているような形だ。彼女に加えカイムやヴィオン、騎士エルマなどもそうで、俺の影響を受けている人間は現段階で魔力の影響を受けても踏みとどまっている。

 とはいえ、カイム達は日に日に活動時間が減っているし、騎士エルマだって逆に部下から説得をされているような有様だ……もっとも、彼女はそれを糾弾したりはしないけど。


「騎士達に変化はなしか?」


 ギルジアが問うとセレンは小さく頷いた。


「何も、変わらないね。もうそんな必要もないだろうって……」

「魔王の魔力による影響を受けているとはいえ、ああまで骨抜きにするとはさすがといったところか」

「……俺達だって時間の問題だけどな」

「まあな」


 俺の言葉にギルジアはあっさりと肯定する。例えばの話、明日からやる気をなくしてゴロゴロしていてもおかしくない。


「ただ、可能な限りやれることはやる……まあ終わりが見えないため、もういいだろうと好き勝ってやるのも納得はいく」

「あるいは、虚無主義的にもう死んだものと見なされている以上、仕方がないって考えの人もいるだろうな」

「それを説得するのは至難の業だ……まあ、今はやれることを粛々と進めよう。とはいえ、もっと時間が経てばより状況はひどくなるだろう」

「魔王の魔力……それを解消する方法も模索するべきか?」

「シェノンがやっている。しかし、解決しない」


 八方塞がりか……。


「とにかく、まだ外に出ようと動いている面々にはケアをしつつ、根気よく他の人に呼び掛けよう。それで少しでもリタイアする人間を抑えつつ、なおかつ現場に復帰させる。アシル君はいつものように結界を壊せるか試していてくれ。騎士や勇者については、俺がなんとかする」


 その言葉に俺は小さく頷く……今はやれることを……そんな風に考えながら、俺は決意を新たにした。


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