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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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迫る時

 そうして、魔王の島に滞在して十五日目。シェノン達が苦闘している中で、とうとう騎士達の中にも好き勝手に動く人間が現れ始めた。そうなったらもう規律は崩壊し、外へ出るために動く人間の方が少数になってしまった。


「もしかすると、意識をそう仕向けるような魔力が存在しているのかもしれん」


 と、ギルジアは俺に考察を語り始める。


「騎士エルマによると、普段真面目なヤツも抜けたらしいからな。何かしら漂う魔力に違和感もあるし」

「魔王の魔力は消えたけど、結界を構成する魔力による影響か?」

「その可能性が高そうだ。で、結界を破壊できない以上はその魔力も除去はできない」


 ……俺達は否が応でもその影響下に晒されるわけだ。


「とはいえ、俺やアシル君のように影響がない人間もいる。勇者カーナや、シェノンを始めとして分析に終始している人間もそうだ」

「何か条件があるのか?」

「というより、元々魔力制御に優れている人間もしくは、魔力の多い人間には通用しにくいのかもしれない。だが、その能力に影響を受けていないわけじゃない。実際、何か引っかかりを感じる時もあるだろ?」


 指摘され、俺は小さく頷いた……というのも、時折感じることがある……城を離れて動き回る騎士のようになりたいと。


「怠惰になるというより、使命を忘れて自由になりたいっていう衝動に駆られるのかもしれないな」


 さらにギルジアが解説を進める。確かに、そういう表現が正解かもしれない。


「さて、いつ何時魔王がここに来るのかわからない状態で……俺達のことを精神的に骨抜きにして、仕留めるつもりなのかもしれない。ま、そもそも残っていたメッセージからすると、ここを訪れた時、世界は魔王の手に収まっているんだろうけどな」

「……なんとかして、出ないといけないよな」

「ああ、そうだ」


 とはいえ、俺にできることはない……わずかな可能性に賭けて結界を破壊するべく剣を振ることだけだ。


「……やることもない以上、俺も結界と向かい合ってみるよ」

「そうだな、俺も自分なりに何かできないか探ってみよう」


 ――それぞれ行動を開始する。ただ、俺もギルジアも頭の隅でわかっていた……頭の中で、少しずつ自由になりたいという考えが浸食してきているのを。

 いくら魔力が高くとも、この島の中にいる以上は影響を受け続ける……というわけだ。それを忘れるように結界を破壊する作業に没頭する……わけだが、果たしてそれがどこまで続けられるのか?


 俺はひとまず単独で島の外壁へと向かう。既に悪魔や魔物は倒しており、何の障害もなく辿り着くことができた。


「次元の悪魔……あれを破壊できたことを考えると、魔王が作成した結界といえど何かしらとっかかりがあるはずだけど……」


 ただ、俺は次元の悪魔が構築した空間を千年という歳月を掛けて破壊した。その経験は間違いなく俺の体の内に存在しているが、それを応用するからあっさりと破壊できるものでもない。


「まあ、やれるだけやってみるか……!」


 俺は手始めに『次元一閃』を応用した技術で剣を振る。結界に触れると硬い金属に激突するような感触が生まれ……それにも構わず俺はさらに剣を繰り出す。

 自らの力で剣を生み出している以上、どれだけ振っても問題はない。だから俺はひたすら剣を振り続ける。


 さすがに昼夜問わず剣を振るなんて真似はしないが、休憩を挟みつつ剣をひたすら結界へと叩き込む……魔力を少しずつ変えて試してみるのだが、百回斬っても何一つ手応えがない。


「……魔物みたいに襲ってくるわけじゃない。でも、間違いなく最強の相手だな……」


 俺はそんな風に思う。それと同時に魔王グラーギウスのことを考える。

 俺達に残したメッセージの中で、エルディアト王国へ攻撃した部隊について言及していた。その中で俺みたいな存在がいたことで、今回の策を用いた……どういう意図であれ、戦わず骨抜きにして勝つ、という思惑がある以上は俺達のことを脅威に思ったのは間違いない。


 もし真正面から戦ったら、どうなるのか……魔王の実力がわからない以上は断定できないが、もしかして俺達が勝つ未来があったのか――


「って、何言っているんだ。ここを抜け出して。勝つ……それでいいだろ」


 俺はひたすら剣を振る。それは傍から見れば徒労にしか見えないことかもしれないが、今の俺にはこれしかできなかった。

 少しずつ忍び寄ってくる感情に目を背けながら、俺はどこまでも剣を振り続ける。けれど、いずれ――そんな予感を抱きながら、それを忘れるように剣を結界へと入れ続けた。






 やがて、一人、また一人と勇者でさえもこの島に馴染むようになった。俺やギルジア、そして結界を解析する面々はまだ健在ではあったし、カイムやヴィオンなんかは俺やセレン、さらに言えば騎士エルマなどが結界を突破するために腐心していることからまだ戦意はあったが、誰もが感じていた……いずれ限界が来るかもしれないと。


「まったく、食料にさえ困らなければここは楽園って言えるかもしれないな」


 そんなことをヴィオンは呟いた……確かに、魔王討伐という目標がなくなり、命の危機が去ってしまえば、世のしがらみから解き放たれた……そんな風に感じてしまうかもしれない。

 とはいえ、作業をする俺達を邪魔するような人はいない。あくまで島に馴染んでしまった人はこちらに干渉してこない……が、お前も自由になれよと、手招きしているようにも感じられた。


 魔力を受け続け、自然と思考がそちらへ傾くようになる……どれだけ剣を振っても成果がない。シェノン達だって、解析を進めているが全て徒労に終わっている。早く、少しでも早くここから出なければならない。だが焦燥感が募り、一時全てを忘れて休もうかなどと思うことがある。

 けれど、その一歩を踏み出してしまえば……間違いなく戻れなくなる。そんな予感が俺にはあったし、ギルジアもセレンも騎士エルマも同意見だった。


 だから、俺達はどこまでも抵抗し続ける……しかし、その時は確実に迫りつつあった。


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