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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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士気の維持

 ――そうして三日後、シェノン達による調査の中間報告が行われた。その結果は、俺達にとって芳しくないものだった。


「破壊が、できない?」


 島の中央にある城の会議室。調査報告を聞いて、俺はシェノンへ聞き返した。


「数値化して、破壊が難しいと?」

「……単純に、力押しで破壊できないのは誰もがわかっているはずです」


 やや間を置いて、シェノンは解説を始める。


「検証したところ、単純に魔法の出力を上げるといったものでは破壊できない……極めて特殊な性質であり、抜本的に結界の詳細を紐解かなければ破壊は難しいでしょう」

「それにはどの程度掛かる?」


 ギルジアが問い掛ける。それにシェノンは難しい顔をして、


「現時点では、何とも……」

「そうか」


 空気が重くなる。現状、外へ出る公算はゼロのようだ。


「ま、数日で解決できる問題じゃないってことだな……魔王は数ヶ月後にエルディアト王国へ攻撃をすると言っていたが、それまでにどうにかして外へ出る算段を立てないといけない」

「それと平行して、生活基盤を確保しないとまずいよね」


 と、セレンが口を開く。既に多数の騎士が城を中心に色々と動き回っているのだが……、


「ま、その辺りは魔法でなんとかなる」


 と、ギルジアは楽観的に告げる。


「シェノン、植物育成を促進させる魔法とかあったよな?」

「あるけど、数日で植物を生長させるの?」

「そこまで急進的ではないが、ここは魔王の島で、土地にも魔力が染みついている。それを利用すれば、種を植えて魔法を使えば驚くほどの速度で成長できるんじゃないかと思うんだが」

「……まあ、やってみるけど」

「不本意ではあるが、長期間ここに滞在できる目処は立ちそうだな」


 俺が指摘するとギルジアは首肯し、


「魔物の掃討も順調に進んでいるところを考えると、あと数日もあれば結界の解析と生活基盤の構築は完了するだろ。その後は……」


 ギルジアは言葉を止めた。何かあるのかと問い掛けようとしたが、彼はかぶりを振って、


「ま、俺達次第だな……さて、結界の解析作業はまだ続くが、何か助力は必要か?」

「今のところは……」


 シェノンは首を左右に振る。それで会議は終了し、俺は城を出る。

 役目としては魔物の討伐と、犠牲になってしまった騎士の収容。近くを見れば、そうした人の墓標がある。


 騎士エルマが人数を確認したところによると、ここに入り込んだ面子についてはおおよそ把握できたとのことで、犠牲になった人についても認識できたとのこと。亡くなった人を全員見つけ出すのはかなり難しいが、ほとんどが確認できたので俺の役目は魔物の討伐に絞られたと考えていい。

 ただ、その魔物についても……俺は外周部へと移動して残る悪魔や魔物を倒す。この島へ突入した当初は、強い敵もいたのだが今は彼らに利する魔力が薄くなっていることで、だいぶもろくなっている。俺でなくても瞬殺できる人間だっているだろう。


 そしてこの日、俺はかなりの数の悪魔を倒して、外周部を一周したのを認識する。


「終わった……かな」


 ひとまず、目立った魔物についても片付いた。森の中にまだいるだろうけど、魔王の影響が薄れたことによって魔物自体も弱くなっている。それを踏まえれば、注意を払えば犠牲者が出ることはないだろう。

 そして……翌日以降はシェノン達が別所で作業をし始めたわけだが、とうとう俺は暇になってしまった。


「鍛錬でもするか」


 そう思い剣を振り始める。時折騎士などに呼ばれて仕事を手伝ったり、他の人の訓練に混ざったりしつつ……食料面も問題なければ、城という拠点だってあるため、快適に過ごせていると言っていい。島へ突入した時とは雲泥の差だ。


「……あるいは、そういうのが狙いかもしれないねえ」


 と、何気なく雑談に興じていた時、勇者カーナがそのような発言をした。


「魔物もいない、外へも出られない。後はこの島の中で生活するための基盤が揃い……食料だって魔法か何かで確保できれば、怠惰に生活する者だって現れるだろう」

「士気の維持は大変そうだな」

「というより無理だろうねえ。鍛錬などをしてどうにかやる気を維持させるにしても、敵がいないような状況じゃあ」

「魔王がいつ何時現れるかもしれない……それでも?」

「現にそっちだって、気が抜けるような時があるだろ?」


 確かに……悪魔を倒し、魔物を倒し、後に残ったのは暇になった自分だけ。シェノン達の手伝いをすることも難しく、生活基盤だって他の人がやったため、もう俺の出番はない。

 となれば、毎日鍛錬しているだけではどうしたって気が抜けてしまう……そういうことも魔王の狙いなのだろうが――


「城を訪れた時に魔王らしき存在が言っていた。ここは最後の楽園だと。確かに、ここには何もない……唯一、自由がある。食べるものに困らなくなった今は、好き勝手に生きて良いとさえ言える」

「……楽園、か。それが魔王の手で作られたというのは、皮肉もいいところだな」

「まったくだね」


 肩をすくめるカーナ。その雰囲気は魔物と戦っている時と比べてずいぶんと柔らかいものに変わっている


「そういうカーナも、気を張っているのが大変そうだな」

「まあねえ。騎士よりも勇者達の誰かがいち早くぐーたらしそうだね」

「ああ、それは間違いないな」


 ――そうした予感は現実のものとなる。島へ滞在を開始して十日。シェノン達の進捗が遅々として進まない状況で、勇者の一人は島の中を好き勝手に歩き回り仕事もしなくなってしまった。


「食料は勝手に採る。心配するな、魔王が来たら戦うさ」


 そんな陽気な言葉を告げて彼は姿を消した……そんな人が現れれば、後を追うように城から離れる人間が出てきてしまう。


「魔王が現れれば、一瞬で戦いは終わるでしょうね」


 騎士エルマはそんな風に呟く。騎士達はまだ規律を維持しているが、彼らが背筋を伸ばしているのも時間の問題だった。


「とにかく、騎士達に影響が出始める前に、結界を突破できる術を見つけるしかありませんね――」


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