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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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数値解析

 まず、この島に滞在する問題について……食料や水はどうすればということだったのだが、城の周辺には井戸が複数存在し、なおかつ周囲の森には果実が成っていて、持ち込んだ食料と合わせて当面はしのげそうな雰囲気だ。


「井戸は問題なく、森を調査したところ食料にできそうなものが結構ありましたね」


 と、エルマの部下である騎士が報告する。


「肉類などは持ち込んだ食料にしかありませんが……」

「いや、俺は動物を見たぞ」


 と、ギルジアが発言した。それに俺は驚き、


「え、本当か? 俺は走り回って一度も見かけなかったけど」

「瘴気があるからだろう。どうやら森の中にはそういう瘴気がないポイントもあるらしい……アシル君も、森の中をくまなく調べたわけじゃないだろう?」


 まあ確かに……とりあえず、食料になりそうなものは豊富にあるってことらしい。


「城を拠点にして、外周部の魔物を全て倒すところから始めるか」

「可能な限り急いだ方がいい……よな?」

「それは間違いない。島は広いため、魔物を全て駆除するというのは難しいかもしれないが……いや、魔王の魔力が薄まっていくとしたら、こちらの魔法で調べられるか?」


 ギルジアは色々呟きながら考える。それに対し俺は、


「こちらはどうすればいい?」

「……とりあえず、魔物の掃討だな」


 彼の言葉により、俺は動き出す。セレンと組んで魔物の討伐を開始する。一方でカーナを始め勇者達は城の周辺調査と、騎士達との連絡を行い拠点を盤石なものにする。

 城を拠点にできれば、例え魔物がいても俺達としては安全に動き回ることができる……食糧の確保などをしっかりできれば、この島に長期間滞在することだってできるだろう。ただそれをやるのであれば、魔王の策に乗っかることを意味するため、俺達としては一日も早く外へ出るべく尽力する必要がある。


 そうして俺とセレンや、騎士エルマなどは外周部の魔物と戦い始める……結果から言えば、一日で結構な敵を倒せた。悪魔などはどこかで生成されるわけでもなく、倒せばそれだけ数が減っていく……セレンや騎士エルマが索敵をしつつ、俺は自分の能力を生かして敵を倒し続ける……それを繰り返すことで、敵の数は予想以上の速度で減り続けた。


 一方でシェノンは索敵魔法を作成し、島内全域を捕捉することに成功する。二日目には騎士達が率先して動いたことで城が拠点として機能を果たすようになり、植物などについても早期に調査が進み食料確保には困らない状況だと断定できた。まだ持ち込んだ食料があるし、当面はそれでしのぐ形だが、援軍がこなくなり、食料が外部から供給されなくなっても入り込んだ人数くらいの生命を維持できるくらいはなんとかなりそうだった。


「長期戦のことを考慮して、穀物栽培くらいはしておいた方がいいな」


 さらにギルジアはそんなことを言い出す……本来出るために全力を尽くすわけだが、かといって出られない場合の想定もしなくてはならない。魔王の策略に乗っかるのは業腹ではあるが、それも進めておいた方が無難なのは間違いない。

 そして……シェノンの手でこの島を檻とする結界の解析を始めた。魔法使い系の人物を総動員して、結界を破壊できないか、あるいは解除できないかを検討し始める。


「さて、ここからはやることもないな」

 と、ギルジアはシェノン達が岩壁を前に作業している姿を眺め、俺に言う。

「そちらは色々試したのか?」

「ああ……でも、さすがに魔王が全力で構築した結界を破ることは厳しそうだ」


 ――二千年の修行による技法も、魔王グラーギウスが放った渾身の結界を前にしては意味がなかった。感覚的に、今の俺の力を有効に使えれば破壊はできそうな気配はあるのだが、どうすれば結界に通用する技法になるのか……それがまったくわからないため、今の俺には壊せない。


「シェノンが数値的に結界を解析できれば、そこからどんな風にやればいいのか道筋が立つ」


 と、ギルジアは俺へと語る。


「その数値化した情報を基に、アシル君が攻撃する……で、いけそうだが」

「数値化してもそれをどうやって活用すればいいんだ?」

「シェノンが解説してくれるさ。君の技法が感覚的なものであっても、シェノンならばどうにか説明できる」


 ……その言葉は、彼女のことを信頼しているが故のものだった。よって俺はそれ以上の言及は避ける。


「よし、それじゃあ俺達は島を巡るか」


 そしてギルジアは言う。近くにいたセレンや騎士エルマが近寄ってきて、


「残る魔物を倒しますか?」


 問い掛けたのはエルマ。それにギルジアは頷きつつ、


「後は、そうだな……初日二日の間に倒れた騎士がいるだろう。生き残った騎士の人数を考えると。そういう人を見つけて弔ってやらないと」

「……そう、ですね」


 重い声音でエルマは応じる……彼女としては、大変不本意な展開のはずだ。なおかつ、いつ何時祖国が攻撃されるかわからない。とはいえ、慌てても仕方がない。今は自分にできることを――そういう考えにより、感情を押し殺しているようだ。


「よし、動くとしよう……心配するな、シェノン達はちゃんとやりきる。何せ、この俺の相棒なんだからな」


 自信を覗かせる笑みに、俺達の頬も緩む……無茶苦茶な状況ではあるが、この場にいるのは紛れもなく英雄達だ。できないことはない――そう信じさせるだけの力がある。

 今はひとまず、足場を固めることに終始する……俺達は森の中を調べ始める。よくよく調べると多数の動物が見つかった。それらを狩って食料にすることも可能だが、今はひとまずやめておく。


 索敵魔法を使用して、俺達は魔力の塊を発見する。そこを調べると、もう動かない騎士が……肉体がある状態なら、体に魔力が残っている。それによって、俺達は亡くなった騎士達を見つけることができる。

 この島へ踏み込んだ騎士の人数を考えると、結構な人が初日と二日で亡くなっている……無念そうに目を細める騎士エルマの表情を見ながら、俺は淡々と作業を進めることとなった。


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