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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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魔王の檻

『ここへ来たということは、既に島のカラクリについては理解できているはずだ』


 一方的な語り始める影……目の前の存在が魔王なのかはわからない。なおかつ、俺達と会話ができるわけでもない……これは、この城へ訪れた俺達に残したメッセージということだろう。


『どのように推測したのかわからないが、おそらく正解に近いものだろう……この場所は、檻だ。既に魔王も、我が同胞の姿もない。わずかな瘴気と魔物に悪魔を残すのみ。しかしそれも有限であり、尽きれば魔物すら出現しなくなる程度のもの』


 ――魔物は瘴気を喰らい強力になった個体もいた。カーナなんかは敵が強くなったと言った。それはある意味正解だったようだが、実際は魔王が残した残滓といったものらしい。


『そして、なぜ私がここまでしたのか回答を示そう。それはいずれ、お前達が脅威になると考えたからだ……いや、違うな。今の状態の私では、万が一にも負ける可能性がある』


 ――それはつまり、俺達の能力を分析した結果というわけだ。


『エルディアト王国に部隊を派遣したのは、威力偵察の意味もあったわけだ。あれだけの戦力を投入すれば、警戒せざるを得ない……動き出し、攻撃しようという展開は想定通りだった。そのまま首都を攻め落とせれば所詮それまでだったが、お前達は予想外の戦いぶりを見せた……奇襲であったにしろ、人的被害はゼロ……その中で複数人、私にとって脅威になるであろう存在も観測した』


 例えばそれは、俺ってことか……。


『故に、私は作戦を決行した。外へは絶対に出られない檻……この場所はそれを主眼に作られている。例えどれだけの強さを持っていようとも、強さにより破壊できるものでなければ、隔離することはできるというわけだ』

「それは見事に、実証されたわけだ」


 ギルジアが言う。その顔は、ずいぶんと深刻な雰囲気だ。


『では、私がお前達を隔離して何をするのか解説してやろう……せめてもの手向けだ』


 それはどういう意味だ――俺やセレンもまた表情を険しくした時、影は言った。


『お前達が攻撃を開始してから、数ヶ月後……エルディアト王国へ攻撃を開始する』

「なっ……!?」


 その言葉に、騎士エルマが声を上げた。


『いずれ、ここへ救援が来ることはなくなるだろう。その時が来たら、国を蹂躙するべく動き始める。まずはエルディアト王国。そこから、大陸各地へ戦果を広げる……魔族が、世界を支配する時が来た』


 ――俺やセレンの故郷もまた、その戦火に巻き込まれるだろう。


『お前達はここで、全てが終わるのを待てばいい……世界全てを掌握した時、この私が直々に相手をしてやろう』

「魔王……!」


 エルマが声を荒げ、影をにらむ。だが、どうにもならない……少なくとも、島の結界を解除しない限りは。


『もっとも、お前達を始末することなく放置する可能性もあるがな。人間の身では到底突破できない結界……例えどれだけ分析しようとも、まともな道具すらないこの場所で何ができる? まあ、最後の楽園としてこの島を満喫すればいい。瘴気さえ消えれば、ここにはいくらでも生活のしようがある……いずれ来る終わりまで、剣を置き好きに生きろ……魔王に諭されるのも、癪だろうがな』


 そこで、影が消えた。残ったのは沈黙する俺達。


「……絶対に、突破できない結界か」


 やがてギルジアが言う。その目は、ずいぶんと眼光が鋭い。


「それだけ言う以上、俺達が想定しているより遙かに強固なものだろうな」

「……何か、考えがあるのか?」

「いや、現時点では検証もしていないからな。確かにヤツの言う通り、ロクに道具もないこの場所で検証は難しいかもしれない。外から人間はやってくるが、俺達は連絡もとれないからな」

「それじゃあ……」

「だが、こちらにはシェノンがいる」


 と、ギルジアは彼女へ視線を向けながら語る。


「他にも、魔法を分析できる人間はいるからな。まずはその辺りの面子で調べてみて、検証をしようじゃないか」

「……敵は数ヶ月後に動くと言っていたな」

「何かしら準備があるんだろう」


 ギルジアがさらに告げると、それに同調するようにエルマは話す。


「ここに魔族がいないことは、島を離れ別所で戦力を結集させている……しかし、ここが本拠であったことは間違いないはず。つまり、移動したばかりで動ける態勢にはなっていない」

「なおかつ、延々と派兵を続けている状況だし……」

「おそらくどこかで騎士や兵士の派遣は止まるはずです。一ヶ月も経過すれば、魔王討伐は失敗に終わったと見なされることでしょう」


 誰も戻ってこないのだから、当然と言えば当然か。


「その段階で私達は死んだものとされる……エルディアト王国としては、さらに攻撃を仕掛けるのか一度態勢を立て直すのか選択に迫られる」


「……どちらになると思う?」

「おそらく後者になるかと。ここに来たのは文字通りの精鋭である以上、それでも勝てなかったと判断すれば、派兵を中断し力を蓄えることを優先するはずです」

「ま、賢明な判断だな」


 と、ギルジアが続ける。


「だが、戦力を投入し続けた結果、戦力的に弱くなるのは事実……そこへ魔王が攻撃を仕掛けるってわけだ」

「つまり、それまでの間に俺達はこの島を脱出しなければならない」

「まあ脱出できたとしても、魔王の居所もわからないし、どう動けばいいのかという疑問もあるが……とにかく、今は脱出方法を探ることを優先しよう」

「そうだな……あ、魔族ブルーは? 彼の力があればもしかしたら――」

「動かないと思います」


 と、騎士エルマは応じた。


「エルディアト王国側としても、今回の作戦が失敗に終わった……とすれば、さらなる策が必要となる。そもそも戦力を強化する必要性がありますから、魔王の攻撃に備えて魔族ブルーに協力を求めるでしょう」

「だとすれば、ここに来る可能性はないか」

「そうですね」

「ま、何にせよ俺達はものの見事に魔王の策にはまってしまったわけだ」


 と、ギルジアは息をつく。


「ただ敵が魔物や悪魔くらいしかいないとわかれば、まずはその掃討から始めようか」

「島の外周部には敵が残っている……それを倒すと」

「そうだ。敵がいたら検証もロクにできないからな」


 そこでギルジアは周囲を見回した……いや、この城を一瞥した。


「ここを拠点として、動くとしよう。他にも色々問題は山積みだが……少しずつ片付けていこうじゃないか――」


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