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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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肩透かし

 外周部を走り始め、およそ一時間が経過した時だろうか……俺はついに、戦闘音を耳にした。

 そこへ急行すると、そこに複数の騎士と、勇者……さらに――


「セレン!」

「……アシル!?」


 ようやく、共に戦うセレンに加え、ギルジアを見つけることができた。

 即座に戦闘に参加して、魔物を撃破。それで周囲に敵がいなくなって一息つけることとなった。


「良かった、無事だったんだね」

「まあ、な。セレン達を探して俺も走り回っていたんだが……」

「単独で?」

「ずいぶんと無茶をする」


 ギルジアが言う。それに俺は肩をすくめ、


「でも、俺が無茶しないと他に誰がやるんだ、って状況ではあるだろ?」

「まあ、確かにそうだな」

「それでセレン、状況は?」


 ――彼女から現況を聞く。セレン達が外周部を移動していたのは、外へと繋がる道がないか確認してのことらしい。


「ギルジアさんが、この島が自分達を閉じ込める檻なんじゃないかと言い出して……」

「ああ、俺もその推測をしたよ。味方は来るけど、絶対に外へ出さないようにする態勢……仮に外へ出さないようすべくリソースを使っているのなら、魔物の大軍勢なんてものがないのもなんとなく理解はできる」

「時間稼ぎ、って可能性もあるな」


 と、ギルジアは考察を語り出した。


「外は継続して援軍を送っている……そちらの話によると、国から転移してきた騎士もいるらしいな?」

「ああ。だからエルディアト王国側に何かあるってわけではない……と思うんだが」

「その見解は正解だろう。もし外で何か起きていたら、その情報を俺達に伝えに来るはずだから……魔王は、エルディアト王国以外を標的にした可能性もある。そうであれば、こちらが察知するのは困難になる」


 俺やセレンは表情を硬くする。もし、ギルジアの仮定が正解で、その狙いが俺達の国であったのなら――


「ともあれ、今俺達ができることは外と連絡を取り合える場所を探すことだ」


 と、ギルジアは続ける。


「現状を改善することこそ、俺達にできる最善の手段……というわけで色々と動き回っているわけだが、成果が上がらなかった」

「俺も一度島の端へ行ってみたけど、結界の破壊は困難だと思って引き下がったよ」

「そちらの能力でも、か……ま、そろそろ無理だと考えて次の手を打とうか相談していたところだ。君が来たことも一つのきっかけとして……動くとしようか」

「どうするんだ?」


 こちらの問い掛けにギルジアは笑みを浮かべ、


「戦力を集めているんだろ? なら、やることは一つ……すなわち、魔王城へ攻撃を仕掛ける、だ」






 セレン達と合流した後、俺は夜を明かした拠点へと戻ってきた。そこにはシェノンもいたし、二人を合流させることも非常に大切だと考えていたためだ。


「さて、反撃開始といくか」


 ギルジアが言う。するとここでシェノンが何やら魔法を使用した。それは結界ではなく――


「繋がった」

「お、悪いな」


 ギルジアが進み出る。何事かと思い目を向けると、空間が歪んで何かが見えていた。


「これは――」

「君が訪れた拠点……その中にいる騎士に、シェノンが開発した道具を持たせた。有り体言えば、こんな状況でも遠隔で会話ができる道具だ」

「……こうなることを見越していたのか?」

「さすがに連絡を取り合うことが難しくなる、という想定はしていたからな。ま、備えが役に立って何よりだ……おーい、そっちは聞こえるか?」


 ――そこからギルジアは会話を始め、二つの拠点の状況をやりとりする。そこで新たな事実として、俺が訪れた後に仲間の一人であるカイムが反対側の拠点に辿り着いたことがわかった。

 さらに、他の勇者も……色々と聞き取った限り、俺達が交流した勇者のほとんどは拠点に集結したらしい。


「ふむ、反対側の方が勇者の数としては多いな」

「ただし、こちらには俺達がいる」


 と、こちらが告げるとギルジアはニヤリとなる。


「そうだな……さて、残るは騎士エルマについてだが――」

「呼びましたか?」


 と、声が。見れば、こちらに近寄ってくるエルマと帯同する騎士の姿があった。


「ずいぶんと心配を掛けました」

「そっちは大丈夫なのか?」


 ギルジアの問い掛けにエルマは頷き、


「ええ、騎士を集めていて時間が掛かってしまいました……」


 ――そこから情報交換を行う。現状を見てエルマも小さく頷き、


「ならば、二つの拠点から同時に魔王城を……」

「そうだな。仕掛けるタイミングは……さすがに今日は無理そうだ」


 日が傾き始めている。明日の状況がどうなっているかはわからないが……今日ここへ来た騎士も多いし、動ける人員は決して多くない。


「とはいえ、いつ何時今の状況が変化してもおかしくない。可能であれば明日にでも攻撃をしたいところだな」

「私も賛成です」


 エルマは同意し、他の騎士達も賛同の意を示す……いよいよ決戦が間近に迫ってきた。とはいえ、


「魔王城へ踏み込めば、自ずと敵の目論見がわかるな」


 俺の言葉にギルジアは小さく頷く。


「ああ、そうだな。俺の推測では、あの城に魔王はいないと思うのだが……」

「もしいなかったら……どうする?」

「そのまま城を制圧して、脱出方法を探る。まあ結界の維持だって相当な魔力を消費している以上、あの城に仕掛けがあると考えていい。城へ赴けば、どういう形にしろこの島での戦いは終わるだろうな」

「……まだ、戦いは続くだろうけどな」


 さらなる俺の言葉にギルジアですら沈黙する。

 俺達は決戦のためにここへ踏み込んだ。けれど敵の計略によって、閉じ込められている……それだけならまだしも、魔王がいない可能性すらあるとくれば、とんだ肩透かしだ。ただ、


「エルディアト王国側に報告すれば即座に魔王を見つけてくれるはずだ」

「まあ、そうだな……とはいえ、今回の決戦に相当なリソースをつぎ込んでいる。果たして二度目の出陣はあるのか」

「――おそらく、やるでしょう」


 と、騎士エルマが発言する。


「陛下は決着をつけると仰っていました。苦しい状況ではありますが、作戦を続けるかと」

「ならそれを信じて……明日、頑張ろうじゃないか」


 そう告げたギルジアに対し、周囲の騎士や勇者は深々と頷いたのだった。


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