とある推測
結果から言えば、およそ五十人ほどまでに一団は膨れ上がり、魔法使いも複数人合流することができたため、拠点として陣地を張ることとなった。
その間に、どうやら俺達を見つけた騎士達も加わり……昼前の段階となって、勇者も加わり態勢を強固にすることができた。
だが、肝心のセレンを始め、ギルジアや騎士エルマはまだ見つけられていない……彼らは一日でくたばるような鍛え方をしていないはずだし、騎士を捜し回っているのだろうか?
俺は騎士達にセレン達について尋ねると、一人が知っていた。
「英雄ギルジアは、島の外周を調べていると言っていた」
「島の……外周?」
「ああ。どこからか抜け道がないかを探していると」
つまり、島から脱出するためか……今もそれをやっているかどうかは不明だが、調べてみる価値はありそうだな。
やがてさらに騎士が合流し、シェノンが結界を張った城から見て反対側の拠点と遜色ない規模になる。その時点で昼を過ぎたくらいで、俺は次にどうすべきか思案する。
一度反対側へ戻って報告するのもいい。あるいは、まだ足を踏み入れていない領域へ向かうべきか? それとも、今日のところはこの拠点周辺を調べ回るか? 色々と悩んでいる間に、騎士から一つ提案があった。
「ひとまず英雄ギルジアと合流して欲しい」
「ここは大丈夫だと?」
「そうだ。島の外周を調べている面々は、間違いなく魔王との戦いで主戦力になる面々だ。彼や騎士エルマがいなければ魔王討伐は不可能と考えてもいい」
騎士の顔には苦々しいものがある。もしかすると彼は、実力に自信があって十分勝てると考えていたのかもしれない。だが、現状を目の当たりにして、厳しいと判断。より強い騎士エルマなどに託すという腹づもりなのかもしれない。
「ある程度集まった段階で、魔王城へ仕掛けよう」
「……現状ではまだまだ味方の数は少ないように思えますけど」
「全員を集める余裕はない。規模的には……想定の半分も集合できれば御の字だろう」
――騎士としては、半分は命を落としているという解釈なのか。
「正直、現状を維持できる保証はどこにもない。可能な限り早く……数日以内には攻撃できる準備を整えるべきだ」
ずいぶんと性急……まあでも、こんな環境で十日とかは無理か。
拠点さえできれば、長期間居座ることはできる……と最初は考えていたが、この状況ではそれも無理だ。よって騎士の言う通り、早急に主戦力を集めて戦う準備をしなければならない。
俺は騎士の言葉に同意しつつ、情報を元にしてセレンや騎士エルマを探すことを決める。他にもカーナを始めとした勇者はちゃんと拠点へ案内したいところだ。
「反対側の拠点へ、連絡できる手段を確立しよう」
そして騎士は俺へ言う。
「魔王城へ攻撃を仕掛けるにしても、同時にした方がいい」
「ああ、確かに。連絡を取り合って、いつのタイミングで……というのが良さそうですね」
「連絡をとるのも命懸けだが、勇者の存在もある。魔物の強さを考えれば、今のうちに話をした方がいい……私達はそうした行動に移る」
騎士の言葉に頷いた俺は、拠点を去って島の外側へ向かうことにした。
転移直後、俺は島の外側を確認するために動いたわけだが……外周部は相変わらず魔物や悪魔がいて、厳重な警戒網が敷かれていた。
「敵の強さもそれなりだし、数も多い……ん、待てよ……」
もしかして、外周部の警備を集中的にやっているため、魔物が少ないのか? いや、それにしたってここは魔王の本拠だ。それこそ島を埋め尽くすだけの魔物を生み出すことだって可能だろう。
「俺達のことをあの手この手で妨害するのはいいんだが……やり方が回りくどいんだよな」
それについて、何か理由があるのか? それとも、魔王の計画上必要なことなのか?
一つ言えるのは、魔王が策を要して俺達へ攻撃を仕掛けている……俺はひたすら外周の岩壁に沿って走る。敵の意図はいくら推測しても無意味だ。なら体を動かし、少しでも状況をよくするために奮闘した方が建設的だ。
外周を走っていると、さすがに魔物や悪魔が気付いて攻撃を仕掛けてくる。とはいえこちらは一撃で倒せるし、問題はまったくない。
「ただ、敵の強さは島の内側よりも上か……」
魔王城周辺はさすがに警備も厳重だと思うし、敵も強いだろうけど……ここでまたも疑問が生まれる。なぜ敵は搦め手を用いて仕掛けてきているのか?
「例えば魔王が身動きを取れないから……とか? いや、それにしたってわざわざこんな風にする必要はないよな」
仮にそうだとしたら俺達をここに入れる理由がない。転移魔法を阻害すればいいだけの話だ。それに対し俺達は魔王の島周辺にある島々で右往左往することになる。
「人間の技術……そして裏切り者の魔族の技術があるから、あえて引き込んだというのも考えられるけど……」
だとしたら、俺達をこの島に閉じ込めるのが目的……? そんな風に考えた時、俺は一つの推測に辿り着く。
「まさか、あえて主戦力をここに閉じ込め、他ならぬ魔王が外に出ようとしているのなら……」
この展開はあり得る。いや、その可能性がもしかして高いんじゃないか?
そして騎士エルマやギルジアなんかは、そういう状況をいち早く察して外へ出られる場所を探しているんじゃないか? もしそうなら、今頃魔王は外に出て攻撃を仕掛けている可能性もあるのか?
「魔王がいないのなら、俺達がここに留まる理由はゼロだ……ただ、もしそうだとしたらここへ派遣されてくる騎士が情報を持ってくるはずだ」
俺は昼に話していた騎士の中で、今日送り込まれた騎士とも会話した。外側に特に動きはないと。なおかつ、魔王のような存在が外に出た形跡もないと。
転移魔法を使われたら、察知もできるらしいから……どちらにせよ、おそらく俺達を閉じ込めるという意図があるのは間違いなさそうだ。そういう結論に達しつつ、俺は魔物を倒しひたすら走り続けた。




