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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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気配皆無

 シェノンが結界の準備を進める間に、俺とカーナとヴィオンの三人で話し合う。カーナは騎士達を探している途中、何か違和感があって戻ってきたらしい。その正体を俺が解説すると、彼女はしてやられた、という風な顔をした。


「たぶん、結構な見落としがあるね」

「それを再度確認するために動くか?」

「そうしたいけど……問題は魔物だね」

「魔物?」

「気付いてないのかい? 昨日と比べて魔物の質が上がっているんだよ」


 そういう感触はなかったけど……いや、待てよ。


「昨日いた魔物と今日生成された魔物とで違いがある可能性も?」

「かもしれないねえ」


 なるほど……俺が遭遇したのは昨日の残りってことか。


「魔物と遭遇する頻度が上がっている気もするし、おそらく今日になって魔物を投入したんじゃないかい?」

「だとしたら、もっと数が多くてもよさそうなものだけど」

「そこは魔王がどういう風に動いているのかわからない以上、言及のしようがないね」


 まあ確かに……ただ、現時点で得た情報を統合すると、魔王側も何かしらしているといったところか。


「魔王の動きについてはわからない点も多いし、現時点で言及は控えるとして……今俺達にできることは、とにかく合流することだけだな」

「外の様子は確認できないのか?」


 ヴィオンが尋ねる。そこで俺は、


「……さっき、騎士と話をしたら今日転移してきた人員がいるって言っていた。だから外側から内部の情報が確認できないにしろ、外側にいる面々が攻撃されているというわけではないみたいだ」

「少なくとも、魔王の島周辺にある拠点は無事ってことか」

「話によると、本国からも後続の援軍が来ているみたいだし……」

「外側に問題はないと」


 俺は頷く。さて、どうやって対策するかだが……、


「援軍を待つというのも一つの手ではあるけど」

「第一陣として昨日入った面々のこともある。あまり長期戦は難しいと思うぞ」

「やっぱりそうだよな……そもそも、こうして島の中を動き回れる状況がいつまで続くかもわからない」

「とりあえず、今日の計画は引き続き続行ってことでいいんじゃないかい?」


 と、カーナは俺へ向け言及した。


「現状の戦力では魔王の城へ突撃するには足らない。まずは騎士エルマとかギルジアとか、そういった主戦力になれる面々を探さないと」

「そうだな……この周辺は見て回ったし、拠点も大規模になったら気付くはずだ。だとすれば、魔王の城の向こう側……反対側にいる可能性が高いと思っているんだけど」


 俺の言葉にカーナやヴィオンは同意するのか小さく頷いた。


「で、こちらは引き続き周囲にいる騎士達を見つけ出して拠点へ連れてくる。あ、勇者ヴィオンなんかはここの防衛をやってもらいたいねえ」

「構わないが……カーナは騎士を探すのか?」

「役割は分担した方がいい。で、ここに来るようにして、ある程度守りが盤石になったら、改めてどうするか方針を決め直せばいい」


 カーナの言葉に俺は「そうだな」と同意し……早速、活動を再開した。


 拠点にヴィオンとシェノンを残し、俺とカーナはひた走る。で、俺は一切確認していない魔王の城の向こう側へと一気に足を向けることにする。道中にも味方はいると思うのだが、それは帰り道などに探索してもいい。とにかく、反対側の状況を確認したい。


 魔王の島の中を、俺は無人の野を駆けるように進んでいく……いや、実際動物の気配すら皆無だ。この島の中では木々が生え、さらに言えば実りなんかも存在しているのだが、そうした物を餌とするような動物がいない。皆無、というのが不気味であり、また同時にそうした存在がいなければ植物なんかも子孫を残せないと思うのだが……まあ実際のところは木々なども偽物なんて可能性も否定できないけど。


 俺は道中に遭遇する魔物を片っ端から切り伏せつつ、とにかく突っ走る。周囲に目を配り、騎士の姿などがないか確認しつつ……魔王の妨害による効果も、意識すれば確実に抑制できているし、とりあえず動き回ることに問題はなさそうだ。


「とにかく、動けるだけ動くしかないな」


 新たな魔物が出現しているということは、戦闘もどこかで始まっているはずだ。音を聞いてそちらへ足を向けるのもいいし、あるいはわざと音を立てて――


 色々と思考を巡らせながら、俺は魔王の城を横目に見つつ反対側へ回っていく。セレンを始めとして騎士エルマやギルジアなんかは、こちら側にいる……と思いたいが、果たしてそうなのかどうか。

 疑問は多々あるが、今はとにかく動くことが何より重要……拠点を出発してそれほど経たずして、反対側まで到達。そこで、戦闘音が耳に入った。


 即座に足を向け、複数人の騎士が交戦しているのを確認。連携で対処しているが、カーナも言った通り敵が強くなっているのか、騎士達は苦戦していた。

 そこに、俺は横から割って入って魔物を瞬殺する。俺の登場に騎士は驚きつつも、状況を確認するために問い掛けてきた。


 そして俺も事情を説明……さすがに元いた拠点へ向かってもらうのは遠いため、俺は一つ尋ねる。


「この周辺で騎士達の姿を見たりはしていませんか?」


 俺達と同じように拠点を作成している……と思ったが故の発言。それに対し騎士は首を左右に振りつつも、


「ただ、あちらこちらから戦闘の音が聞こえている。おそらくだが、複数人の騎士が集って戦っているのかもしれない」

「その方角は?」


 ――聞いてみると、結構あちらこちらに点在している。こちらは拠点を作成していないのか? あるいは、それだけの数が集まれなかったのか?

 疑問を抱きつつ、俺は周囲を探ってまずは他の騎士と合流しようと提案。彼らも了承し、少人数ではあるが複数人で行動を開始した。


 こちら側でも同じように拠点を作成し……というのが、おそらく良いだろうと俺は感じた。ただ、一日目に固まって行動していない以上、疲労の度合いも大きいはず。実際、後ろに突いてくる騎士も疲労の色があった。

 よって、あまり時間は掛けられない。ひとまず十数人単位で騎士が集まれたら、改めて勇者捜しを始める……という結論に達しつつ、俺は騎士と共に島の中を歩き続けた。


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