表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/152

小さな違和感

 俺はまず、昨夜騎士達が作成した地図を下に、勇者がいると思しき一団へと走る。他にも騎士達が集まっている場所もあるのだが、そちらはカーナが受け持つことになっている。とにかく俺は、魔王と戦える……最重要戦力を集めることを優先するわけだ。


 日が出てそれほど経たずして、俺は地図に記された場所の一つ目へと辿り着いた。そこで勇者の一人と顔を合わせ、話を通した。結果、彼らは俺やカーナがいた騎士団と合流することに決めた。

 彼らも手をこまねいてはいられないと考えた様子。すぐさま移動を始め……とりあえず幸先はよさそうだ。


「次は……」


 そちらへ駆ける。情報は昨夜時点のものであることに加え、それほど数も多くない。判明しているのは残り二ヶ所であるため、そこへ赴いたら後は勘で動く必要性がある。

 俺なら縦横無尽に駆け回って……という手法もとれるため、カーナは俺にこの役目を任せたわけだが……俺は可能な限り急ぎつつ魔物を倒す。遭遇する敵は昨日とそれほど変わらない。カーナは色々と懸念していたが、杞憂……いや、何が起こるかわからない。昼頃どころか一時間後環境が激変している可能性もある。

 だから少しでも早く、状況を改善すべく……二ヶ所目に到達。そこにも勇者がいたはずなのだが、明朝立ち去ったらしい。


「よその状況を確認すると」


 その場にいた騎士は言う。ここは少人数で、ほとんど寝ていないのか全員疲労の色がある。

 俺は状況を説明し、騎士達は動き始める。やや歩みが緩慢であったため護衛しようかと提案したが、彼らは首を左右に振り早く騎士を集めるようこちらへ頼んだ。


 騎士達は理解している。まず集まらなければどうにもならないと……そして、三ヶ所目についたのだが、既に移動した後なのか誰もいなかった。


「いた形跡はあるし、血痕とかもないから魔物に襲われたわけではないみたいだが……」


 魔力などについては感じ取れないため、俺がここに来るよりだいぶ前に離れた……深夜帯の時間だろうか?


「ここにいた人は気になるけど、もう周囲にはいないだろうし、後はひたすら駆け回るしかなさそうだな」


 今日中に、セレンや騎士エルマ、あるいはギルジアと再会する……それが第一目標だろう。

 俺は全速力で走り、とにかく五感を研ぎ澄ませて味方がいないかを探し始める。道中で幾度となく魔物と交戦し、その全てを一撃で倒す。ひとまず難敵がいないことは救いだ。


 ただ、俺みたいに派手に動き回っている人間がいる以上は、十中八九何かしら対策は立ててくるはずだ……もし魔王が次の策に打って出たら、その時こそ危機が訪れると考えていい。

 それまでに、俺はセレン達を見つけ出さないと……そう思いながらひたすら走るのだが、出会うのは魔物ばかり。日が昇り動き始めたという可能性もあるが、それにしたって様子がおかしい。


「もしかして、転移していない……とか?」


 その可能性は十分考えられる。転移に失敗したか、あるいは他に……。


 俺はそうした可能性に対し首を振って振り払いつつ、走る。あり得る話だが、今は仲間がいるという前提で、見つけるために尽力するのみだ。

 そして道中で魔物を倒し続け、少しでも仲間達の負担を減らす……無意識に強く剣を握りしめる手を抑えつつ、俺はひたすら走り続けた。






 日が昇って数時間後……鳥の鳴き声が聞こえてきそうなほど清々しい朝。残念ながら魔王の島で動物の声は聞こえないのだが……地図で見つけた一団以降、人と出会うことはなかった。


「おかしいな……」


 俺はここに至り、違和感を覚えた。いくらなんでも人と会わない。それだけ島がでかいという可能性はもちろんあるのだが、それ以上に気配をつかんだと思っても煙に巻かれるように発見できない。


「もしかして、何かあるのか……?」

 感覚を研ぎ澄ませ、人の居所を探ろうとしてみるが……いそうな雰囲気はある。俺は試しにそちらへ向かってみるのだが、結局人の影すら見えない。


「勘ぐっているだけで、実際に人がいない可能性はあるけど……」


 そう思いながら、俺は別の場所へ向かうべく足を向けようとして――ふと気付いた。

 反射的に周囲を見回す。俺は先ほどまで立っていた場所を見てから、


「……違うな」


 元来た道へと戻る。そこは明確に目標があったので、ちゃんと戻ってこれるのだが、今度は別に目標地点を決めて走り始める。すると、


「こいつは……!」


 急ブレーキ。俺は明確に目標へ向け進んでいる……はずだった。けれど、どうやら少しずつ方角がズレている。


「戦闘面については問題ないから、意識していないと自然と進みたい方向とは別に行ってしまう、というわけか?」


 疑問を口にしてから、俺は今まで進んできた道を見据える。俺はくまなく探したつまりだったが、実際は探していない場所がたくさんある、ということなのだろう。


「どういう理屈かわからないけど……昨日は真っ直ぐ進んで島の壁に到達したよな。もしかして、今日発動した魔法なのか?」


 疑問はあったが、とにかく今はこの解決策を見いださなければならない。というより、これはもしかするとまずいかもしれない。

 というのも、俺は二ヶ所回って顔を合わせた騎士達に、進むべき方角などを伝えただけで目印とかは何もない。太陽の位置と照らし合わせれば到達できると思っていたが、この魔法の影響で騎士達が合流できていない可能性もある。


 加え、カーナの方も心配だ。地図で明確に記されている場所はいいとしても、それ以外の場所を見つけられているだろうか……俺と同じで、まったく騎士と出会わないなんて可能性もある。


「知らせに戻るか? それとも……」


 距離はそれなりに進んでいるが、全速力で戻れば短時間で帰れるはずだ。カーナが戻ってきたら状況を伝えて……ただ、この状況からさらに悪化する可能性もある。俺が戻った段階で変化していたら、情報を伝達しても無意味になる可能性が――


「魔王は俺達のことを見ているはずだ。であれば、さらなる対策も……それに、急いで戻ってもやっぱりタイムロスにはなる」


 進むか、戻るか。俺は突如岐路に立たされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ