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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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仲間集め

 深夜を迎えても、結局敵が来ることはなかった……もちろん警戒は続けるし、俺は見張りを行い神経を研ぎ澄ませる。

 物音を聞けばそちらに意識を集中させて……相当疲労が溜まる活動であるのは間違いない。騎士達も交代で休んでいるわけだが、戦場のど真ん中であるためか、思うように眠れない人が続出している。


 俺も交代を言い渡されて一度目をつむったのだが、物音などに気がいって結局数時間くらいしか休めなかった。それも浅い眠りだし、魔力はともかく疲労感を完璧に取り除くというのはできなかった。

 俺の方は二、三日くらいなら休まず活動できるくらいの余裕はあるし、とりあえず魔力によって集中力は維持できているのだが……騎士達はそうもいかないだろう。


 空が白くなり始めた段階で、明らかに疲労の色が窺えた。このままではさすがにまずい……のだが、これを打開するような策も見当たらない。


「より強力な結界が必要だな」


 そう結論を述べる間に、休憩中のカーナが起床して俺の隣へやってきた。


「あー、よく寝た」

「図太いな……」

「修羅場だけど、このくらいのことで眠れないようじゃ、まだまだだね」

「俺もあんまり眠れてないけど……」

「英雄様は例外でいいんじゃないかい?」


 なんだかなあ……そう思いつつ、俺は彼女に一つ提案を行った。


「もっと戦力を結集させた方がいいんじゃないかと思うんだが、どうだ?」

「んー、確かに百人、二百人規模なら結界の構築もさらに強固になるねえ」


 と、カーナは目線を下にやる。


「今の規模で構築した結界でも、魔王の影響を取り除くことはできている……なら規模を拡大すれば、ある程度勢力圏を確保はできるかもねえ。それと」


 カーナの視線が騎士達へ向けられる。その中にいて結界を維持している魔法使いも、疲労の色があった。


「複数人が後退して結界を維持するにしても、この人数じゃあいずれ限界も来る」

「騎士達の疲労がピークになるよりも、魔法使い達が力尽きる方が早いかもしれないな……」

「それは防ぎたいね」

「なら、俺が昨日いた騎士達の拠点へ向かい、こちらと合流できないか話をしてみようか」

「ああ、それじゃあはあたしはここのリーダーに話してくるよ」


 ――カーナが説明を施すと、騎士は快諾。よって、俺は元いた場所へ足を向けることに。太陽はまだ出ていないが、ひとまず視界が確保できるようにはなったので、移動に問題はないだろう。

 というわけで、全速力で向かうことにする……それと共に思う。魔王との決戦二日目だが、既に限界が見え始めていると――





 移動を重ねた結果、騎士達はどうにか拠点を維持して夜を耐え忍んだらしく、怪我人などもゼロ。ただ、やはり疲労の色はあった。

 俺が戻ってくるとリーダー格が話し掛けてきた。今後どうするかについて説明を施すと、相手は即座に頷き、


「確かに、より人数を集めて態勢を整えるしかなさそうだな。ただ、まだ周辺に仲間がいるかもしれないが……いや、すぐにでも向かうべきだな」


 騎士は他の者達の様子を見ながら呟く。一夜をどうにか過ごせたが、それでも限界を感じているのだろう。


「わかった。すぐに移動準備を始める」

「はい。道中の護衛は請け負います」

「頼む」


 ――そこから準備を済ませて騎士達は移動を開始した。ここにいる人員が合流すれば百人くらいの規模になる。それでどうにか、結界の維持などはほぼ問題なくできるようになるだろう。

 道中に魔物が襲撃してきたら……という懸念はあったが、何体か近寄ってきた程度で問題なく倒すことができた。結果、日が出た直後くらいに合流に成功。即座に拠点を再編成して、結界をより強固なものにする。


 天幕も作成し、魔王の影響下を完全に排除することに成功……とはいえ、百人規模でも拠点の維持が精一杯という感じだ。


「攻めに転じるためには、さらに人が必要か」

「ま、今の倍くらいにはならないと難しいだろうね」


 と、カーナは俺へ述べる。


「とはいえ、食料なんかも無限じゃない。ある程度人数が集まったところで見切りを付け、仕掛けないとあたし達がもたない」

「問題はどこで攻めるかだな……今日一日は、その準備に費やしそうだ」


 俺の言葉にカーナも同意するかのように小さく頷いた。


「それと、あたしや英雄様以外に勇者がいないのは不安要素だね」

「騎士エルマなんかも気になるしな……」

「そうだねえ……と、なら少し作戦会議をしようじゃないか」


 カーナが提案した。俺はそれに同意して、リーダー格の騎士と話をすることに。


「あたしが他の騎士……つまり、島の中で点在している騎士達を集める。それに対して英雄アシルは騎士エルマを始め、魔王との戦いにおいて主戦力となる人物を探す」


 ギルジアやセレンを見つけ出して……ってところだろう。


「そういう方針を提案したいんだが、どうだい?」

「……現状ではそれがベストだろうな」


 騎士は同意する。


「騎士エルマを始め、魔王へ挑む際に主軸となる騎士はここにいない。よって、我らが一丸となって攻めるにしても、どうしても苦しい。騎士エルマがいるだけでも、大きく違うはずだ」

「決まりだね」

「カーナ、当てはあるのか?」

「夜の内に、目を凝らして観察はしていたよ。相手が移動していなければ、合流は果たせるはずさ」

「むしろ島の中を動き回らなければいけないのは、俺の方か……まあ、今日一日くらいは無茶してもなんとかなるだろ」


 俺は強固になった結界を見据え、告げる。


「ここの拠点は是が非でも守ってもらわないといけないけど……」

「何かあればすぐに駆けつけられる手はずも整えましょうか」


 ――そうした騎士の提案を受けつつ、俺達は準備を進める。一日目はとにかく状況を確認するだけで右往左往していたわけだが、二日目にしてどうにか、落ち着き始めた。そして反撃するための準備を始める。

 ただ、戦力を集める余裕もあまりないのは確かだろう。魔王はこちらに苛烈な攻撃を仕掛けてはいない。何か理由があるのかわからないが……正直、今の状況がいつまでも続くとは思えない。よって、今日一日で可能な限り駒を進める……気合いを入れ直し、俺とカーナは騎士や仲間を集めるべく、動き始めた。


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