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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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人的面、物資面

 日が沈み完全に夜を迎えた段階で、周辺を警戒しつつ俺は付近を見て回った。それなりの人数で結界を張っている以上は敵に気付かれているのは至極当然のはずなのだが……魔物が来る気配はない。


「まだ一日目だから、とか?」

「あえて攻撃はしないってことかもしれないねえ」


 と、カーナは空を見上げながら言及する。


「一日目よりも二日目の方が、果ては五日目より十日目の方が、こちらを仕留めやすいだろ?」

「つまり、俺達が精神的にも肉体的にも疲れ果てるのを待っている?」

「散発的に魔物が来るだけでもこちらとしてはかなり面倒だ。しかも、騎士達はバラバラで、どうにか集まった者達はここみたいに結界とか張れるけど、そうじゃなければ……」

「まずは安全圏を確保できなかった騎士達を、ってことか……」


 俺は内心で苦い思いを抱く。これは戦争であり、なおかつ敵の本拠地である以上は犠牲をゼロにして勝利なんてものは夢物語だ。けれど、逃げ惑う中で果てるとなれば、騎士としても後悔するしかない。


「……夜になればメリットもある」


 と、近くにいたリーダー格の騎士が呟いた。


「魔力探知の能力が高い者なら、ある程度目を凝らせばどこに結界を張っている人間がいるか視認できるな」


 その言葉に俺は少し意識して魔力を探ってみると……確かに騎士の言う通り、おおよその方角に気配を感じ取ることができる。


「味方の場所がわかるなら、どうにか連絡をつけられないかな……」

「夜の内は動かない方がよさそうだけどねえ」


 と、カーナは言う。ただ彼女は肩をすくめ、


「もっとも、英雄様なら話は別だろうけど」

「俺がそちらへ足を向けて……というのも方法ではあるけど、どうしようか?」

「こちらとしては残って欲しいが……」


 と、リーダー格の騎士が言う。まあこの場の面々を守るためには、そういう答えにならざるを得ないだろう。


「とはいえ、現状では魔王に挑むのも難しい。可能な限り早期に合流するためには、情報を伝達してもらう他ないか」

「良いんですか?」

「とはいえ、だ。今日のところは待って欲しい。現在、昼間に判明した島内の状況などを記した地図を作成している。そこに味方の魔力を探知できる場所など、情報を集約している」


 あ、それは助かるな……というわけで作業の間に、俺とカーナは食事をすることに。とはいえ簡易的なものであり、俺は携帯食を口に入れながら彼女へ言及する。


「食料の問題もあるよな」

「ここにいる騎士の中に、後方支援担当の人間がいて、食料などについてはどうにか確保できたけど、さすがにこの状況だと島の中から木の実を見つけるなんてのは難しそうだからね」


 ……長期戦も想定して、可能な限り物資を転移で持ち込む形だった。勢力圏を確保したら人ではなく物だけ輸送する……というのを想定していたけど、これが厳しい状況。

 外にいる味方は連絡がつかないことで、第二陣以降はどうやら騎士に物資を持たせて転移させたみたいであり、ここにいる騎士の中にそういった者がいたため、ひとまず食料面についてはどうにかなかった。


 俺も一応携帯食料くらいは持っているけど、さすがに物資がまったくない状態で、とは想定していなかったので、正直長期戦となったら心許ないのは事実……人的な面に加えて、物資面でもどうにかしなければいけない。


「人が集めれば当然、物資も必要になってくるよな」

「明日はその辺りの調査から始めるべきか」

「どうしてだ?」

「外側からすれば、島内の情報がまったくないわけだ。とすると、非常にまずい状況に陥っていると解釈する。となれば当然、明日以降も援軍はやってくるはずだ」

「物資もそれに付随してってことか……」

「ああ。ただもし、転移が阻害されてしまった場合は……」


 さらに苦しくなるな……カーナの言う通り、明日は外から味方がやってくるのか、それとも来ないのか。もし来なければ、俺達は転移してきた人員と物資を集結させて、魔王に挑まなければならない。


「一日目にして、なんだか極まった感があるね」


 と、カーナはどこか陽気に語る……ただこれは、努めてそういう風に発しているのだとわかる。


「正直、状況が良くなる予想ができない」

「そうだな……最大の問題は、こちらの戦力が結集してなお、魔王に挑めるのかってところだけど」


 俺の疑問に対しカーナは沈黙した。

 現状はとにかく拠点……つまり安全圏の確保を全力で行う方針というわけだが、それだけでは当然魔王には勝てない。それどころか挑める状況になるかどうかもわからない。


 今はとにかく、現状を打破することだけに集中しなければならないけど……物資も決して多くはないし、魔王が結界を構築して外部とのやりとりを遮断しているような状況では、大規模な援軍も望めない。負の要素がてんこ盛りで、こちらに有利な要素は当たり前だがどこにもない。


「……セレンは無事かな」


 この戦いにおいて、彼女も主戦力の一人であることは間違いないし、現状から考えると相当動いているようにも思える。彼女はそもそも騎士としての矜持があるだろうから。

 俺の呟きに対し、カーナは言葉を向けてくる。


「パートナーが心配かい?」

「……魔物の強さを考えれば、単独行動でもしていない限り対処はできていると思う。ただ、他の勇者とは違い彼女は騎士だ。味方を守るために無茶をしていそうな雰囲気ではあるし」

「なるほどねえ。ま、魔物は現段階で強くない。一日目くらいは無理もできるだろうから、明日探せばいいんじゃないかい?」

「……現段階?」


 俺は引っかかった単語を口にする。まるで明日以降強くなるような口ぶりだが――


「たぶんだけど、明日以降魔王は魔物を強くしてくるんじゃないかとあたしは思ってる」

「根拠はあるのか?」

「勘の部分が大きいけど、このままあたし達にとって対処が難しくはない魔物を使って攻撃し続けるとは考えにくい。現状だと大変ではあるけど、犠牲も少なくしながらバラバラになった味方と合流できるからね。それを阻むべく、明日以降敵が強くなる危険性はある」


 初日である今からそれをやる方が魔王にとってよさそうだけど……いや、できない理由があるのか? 色々と考察しながら、夜は更けていった。


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