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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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勇者の合流

 俺は魔王の城を基準にして、とにかく耳に意識を集中させながら走り続けた。気配探知も上手くできない状況かつ、そう経たずして夜になる……それを踏まえると、一番頼りになるのが聴覚であるためだ。

 実際、それは功を奏して俺は魔物と戦う騎士と遭遇した。即座に敵を倒し……騎士は一人で負傷していた。とりあえず治療を施して、


「ありがとう、助かった」

「他の人は……?」

「付近にいた騎士や勇者は別所へ移動してしまった。私は魔物から逃げる内に孤立してしまったんだ」


 俺は先ほどまで騎士達が拠点としようとしている場所を教える。ただここからだと少し距離はあるけど。


「そうか、状況的にどこかで合流しないとまずいのだろうね」

「どうしますか?」

「……私は、別に心当たりがあるからそちらへ向かうよ」

「ついていきますけど。もしそこに騎士がいるというなら、情報交換をしなければいけませんし」

「ふむ、そうだね……なら、先行して向かってもらえないか?」


 騎士はそう提案し、俺は場所を教えてもらう。騎士のことが少し心配だったが、彼は「後から行く」と告げ、俺は走り始めた。

 その間にいよいよ日が沈み始める。夜になれば動くのもかなりキツいだろう。どこかで体を休める場所があればいいのだが……。


「敵の本拠地だからな。さすがに期待薄か……」


 そんなことを呟きながら、俺は騎士から教えられた場所へ辿り着く。するとそこには、二十名ほどの騎士がいた。

 で、その中の一人が俺のことを見つけて声を掛けてくる。しかもその人物は、俺達と共に踏み込んだ第二陣のメンバーだった。


「巡り会えたか……」

「他の人は?」

「転移直後から、バラバラになってしまった。どうにか他に仲間を見つけて対処できたんだが」


 苦々しい表情で告げる騎士。俺はここで周囲を見回す。騎士はいるが、勇者はいない。


「ここに勇者は?」

「ああ、さっきまで勇者カーナがいたんだが、戦闘音がしてそちらへ向かった」


 カーナが……ひとまず彼女も無事みたいだな。

 ここで俺はカーナを待つべきか、それとも伝言だけ頼むか迷ったのだが……ひとまず隊をまとめるリーダー格の騎士に俺が得た情報を伝える。


「――ということなんですが」

「由々しき事態だな。その状況下では外部へ連絡をすることは難しい」


 難しい表情を伴い、騎士は語る。


「転移術式もまともに作動しないため、退却することもままならない……方針としては二つの一つだ。すなわち、魔王を倒すか倒さないか」

「現段階では魔王に挑むことも難しいでしょうね」

「これだけ分散してしまうと、さすがにな……」

「この周辺にいた騎士はこれだけですか?」

「おおよそ、だな。ただここから魔王の城を避けるようにして北へ向かうと、別な一団がいるという話もある」

「別な一団……?」

「勇者カーナの言葉だ。どうやらここから北にも同じような集まりがあるらしい」


 なるほど、カーナはそこを離れてこっちの援護に来たというわけか。


「もう日が暮れる以上、移動もかなり厳しい。本音を言えばもう少し人員を集めたかったが――」

「おーい!」


 ふいに声がした。何事かと思って視線を向けると、十数人の騎士を引き連れて勇者カーナが手を振っていた。


「お、英雄様じゃないか! そっちも元気そうだね!」


 そして彼女は、転移前とまったく変わることなく快活に笑って見せたのだった。






 その後、俺にここの拠点の場所を教えた騎士も複数人の騎士を伴って合流した。これでおよそ四十人ほどの拠点となり、とりあえず見張りをしながら誰かが休めるくらいにはなったようだ。


「いやあ、まさしく修羅場だね」


 そうした状況を見てカーナは感想を述べた。


「あたしの方も色々と予想はしていたけど、まさか転移した時点でここまで罠を張るというのは、想定していなかった」

「俺もだ」


 同意の言葉を告げると共に、俺は小さく肩をすくめる。


「転移そのものは上手くいっている……いや、バラバラになっているんだからこちらの思惑から外れているけど、とにかく魔王の島へ上陸はしている。妨害といってもこのくらいが限界で、直接危害を加えることはできなかったみたいだけど」

「さすがに転移そのものを完璧に妨害できるんなら、あたし達が島の中で右往左往しているはずがないからねえ。しかし、本当に厄介だよ。色々とヤバい仕事は引き受けてきたけど、今回のは輪を掛けて危険だ」


 カーナは一瞬、鋭い視線を見せる。笑いながらも、周囲の警戒は怠っていないか。


「さすが魔王の本拠地……ってわけだけど、さすがにこの状況はすぐにでも改善しないとヤバそうだね」

「俺も同意見だ……とはいえ、できることは騎士を集めて対抗できるだけの戦力を揃えることくらいか……」

「この夜が、鬼門だろうね」


 カーナはさらに言う……彼女の言いたいことはわかる。もし単独で隠れながら夜を迎えていたら、朝が来るまでにやられてしまう可能性は極めて高い。

 セレンやギルジアのように戦闘能力の高い人物なら、大丈夫だとは思うが……いや、魔王の島である以上、何が起きてもおかしくない。本当ならすぐにでも合流するべく探したいところだけど――


「カーナは……」


 俺はふと、彼女へ言葉を向ける。


「別な勇者と合流していたんだろ? 離れてなぜここに?」

「南の方で奮闘している騎士がいるって聞いてね。北側の勇者達はたぶん騎士と一緒に拠点を作れるような場所に移動しているだろうから、戻っても意味ないだろうね」

「そこにいた勇者は?」


 カーナから名前を聞くが、セレンやギルジアではなかった。


「とにかく、島の中だけでも騎士達がやりとりできる環境を作らないとまずいね」

「だと思うけど……何か案はあるか?」

「正直、あたしにはさっぱりだ……まあ、魔王と戦うための道筋は、ひとまず明日の朝まで生き残ってから考えようじゃないか」


 日が沈み、空が暗くなっていく。夜を迎え、魔王はどう動くのか。今までは明確に魔物や魔族を仕向けていたわけではないが……騎士達は不安を押し殺すように作業に没頭する中で、俺は暗闇の中に消えゆく魔王の城を眺め続けた。


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