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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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魔王の策略

 俺が見たのは、山……それはまるで壁のように存在する、岩山。とてもじゃないが登頂することなどできそうもない、文字通りの壁があった。


「……俺単独なら、いけそうか?」


 ただ――俺は茂みに隠れて周囲の状況を確認。多数の悪魔が岩山の上を巡回している。もし近づいたらたちまち悪魔達に集中攻撃を受けるだろう。

 俺一人なら問題なく対処はできるけど……結構な数の悪魔を巡回させているということは、あの岩壁を越えれば島の外が見えるだろうか?


「調べてみる価値はあるな……ただ、俺が見つかって標的にされれば、戻った時に騎士にまで攻撃が……」


 そこまで思案して、首を振った。そもそも俺達は敵陣にいる。こちらの動きなど、魔王は全て捕捉していることだろう。

 今はひとまず悪魔に見つかっていないけど、時間の問題……そこまで考え踏ん切りがついた。まずは島の外へ出られるか、確かめなければ。


 俺は周囲を見て他に魔物などがいないことを確認してから……走った。そして足に魔力を込め、岩壁を、駆けるように昇り始めた。

 それを悪魔達は瞬時に気付き、俺へ向け飛来する。だがこちらは握りしめる剣で一撃……薙ぎ払うような攻撃で片付けることができた。


 これなら問題なく、確認ができる……かなりの高さがあるため、悪魔を迎撃しながらなこともあり到達には時間を要したが――俺は、一気に岩壁の頂上へと辿り着いた。

 そして目の前にあったのは……海。


「島をたぶん、こうした岩壁で出られないようにしているわけだ」


 俺みたいに駆け上ることができれば脱出できるけど、そんなことができるのは俺やギルジア、セレンなど少数だろうな……なおも悪魔がしつこく攻撃してくるが、それを倒しつつ俺は外に脱して状況を報告できないかと海の方へ足を向けようとした。

 だが……コツン、とつま先が透明な壁に当たった。


「結界の類いか」


 なら、それを壊せれば……そう思いながら剣を振った。刹那、透明な壁に剣戟が叩き込まれたが、破壊はできない。

 単純な力押しでは通用しない。ならばと俺は『次元の悪魔』が構成した空間を出た際に使用した『次元一閃』を振り抜いた。単純な攻撃ではない、特殊な技だが……それでも壁を破壊することはできない。


「魔力を分析して、どういう構造なのかを把握しないと難しそうだな……」


 それこそ次元を斬るくらいの難易度があるだろう。時間を掛ければいけるかもしれないが、さすがに相手が結界を壊すのを悠長に見えているとは思えない。


「脱出は、少なくとも結界を解析してからだな。ただ、外側から内側には入れる……どうにかして外とやりとりしないと、延々と孤立する援軍が送られ続けるだけで、各個撃破されるな」


 敵としてはそれが狙いで間違いないわけだが……俺は岩壁を降りる。ひとまず状況は理解できた。ならば次はどうするのか。


「脱出は厳しいみたいだから、とにかく拠点……戦える状態にまで戦力を集結させないと魔王に挑むなんてのも無理だな」


 外とやりとりをするために結界を破壊するのも、見張りをしてる悪魔を全て倒し尽くして、分析を進めなければいけない……果たしてそれをやるだけの余裕があるのかと言うと――


「どういう風に戦おうとも、茨の道だな」


 魔王との決戦である以上、苦戦するだろうと予想はついていた。しかし、思わぬ形で……いや、魔王グラーギウスは相当入念に準備をして迎え撃ったという話だろうな。

 とにかく、一度戻らなければ……俺は来た道を全速力で引き返す。その途中に多数の魔物と遭遇したが、全て一蹴しつつ……俺は、急いで騎士の下へ急いだ。






 そうして戻ってきたのが夕刻前。俺が偵察に行ってからさらに騎士が増えたようで、拠点を築くために準備をしているところだった。

 俺が報告をすると、騎士は沈鬱な表情を浮かべ、


「魔王の策略か……非常に厳しい状況だな」

「どうしますか?」


 こちらが問い掛けると騎士は渋い顔をしたまま、


「外と連絡をとるのが難しいのであれば、拠点を無理にでも作成して戦える状態にするしかない……ただ、夜になればどうなってしまうのかわからない」


 騎士は天幕を見据える。瓦礫のある場所から少し離れた位置にいくつかの天幕を設置し、さらに魔法使いが結界を使おうとしているのだが……魔王の支配領域にある中でどこまで維持できるのか。


「結界そのものは行使できた。そのため、安全圏……とまで言えるかはわからないが、体を休める場所は作成できるだろう。ただ、昼夜問わず見張りを設置して、常に警戒しなければならない」


 ――そういうことを防ぐために、当初は魔王の支配権を脱するための手法を用いようとしていた。しかし今は結界は張れるにしろ、どこまでもつのかわからないような不安定な状況下で休むことになる。今回ここにいる騎士は精鋭部隊だとしても、連日このような状況が続けばさすがにまずいだろう。

 常に敵襲の警戒を強いられ、肉体的にも精神的にも追い詰められる……なおかつ、これを打開する手段がない。


「……どうしますか?」


 俺は問い掛ける。遊撃という役割であるし、二千年の修行でまだまだ余裕があるため、俺が見張りを受け持とうと考えたのだが、


「あなたは、他の騎士や勇者を探してくれ」


 騎士はそう俺へ告げた。


「正直、私達に関わり続けて他が危ないという状況では……」

「でも……」

「実はこの場にいないが、他にも周辺を捜索している騎士がいる。集まればそれなりの数になるはずだ。人数が多ければ見張りをするにしても交代できるし、多少なりとも余裕が生まれる……不安はあるが、私達はどうにか対処できる。よって、あなたには他の状況を確認して欲しい」


 なるほど……それに、日数が経てば疲労も溜まり余裕もなくなる。今は少し無茶をしてでも仲間や騎士を集め、勢力圏を確保しなければまずい。

 俺は騎士の言葉に承諾する。それと共に騎士の言葉通り、探索をしていた人が戻ってくる。他に孤立していた騎士を見つけ出すことに成功し……規模からどうにかなるだろうという結論に達する。


「では、俺は動きます」

「ああ、頼む」


 騎士は頷き、俺は……日が少しずつ傾いていく中で、魔王の島を疾駆した。


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