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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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不利な情報

 俺は再び騎士を救援し、状況を確認。助け出した複数の隊が合流を果たし、五十人ほどの規模に膨れ上がっていた。

 そして代表の騎士に対し、山の上で見たことを伝える。


「なるほど、島そのものの規模を大きくしたのか」


 苦々しい口調で、騎士は呟く。


「であれば、地図も転移場所へ向かうという行為も意味を成さないな」

「どうしますか?」

「とにかく拠点を確保しなければならない。ただ、魔王の勢力圏が島全体に行き渡っていると考えるなら、拠点を作成しても外部との連絡を行うのは困難だろう」


 騎士が言うには、魔王の勢力圏は島全体を覆っている。それが拡張しているなら、島の端にでも行かなければ難しいと。


「おそらく今も内部の状況がわからないまま、騎士達がこの島へ入り込んでいるだろう……問題はどうやって彼らと合流するか」


 騎士は悩み始める。俺もまた、どうやって対処すべきなのか考え始める。

 転移当初、彼らは南へ進路を向けて魔王の城から逃れる形で動いていた。太陽の動きから方角はわかるため、そういう風にしたわけだが……例えば城の北側に転移したらどうだろうか? 方角がおかしいことに気付いて、状況を看破する可能性はある。


 ただ、そうだとしても魔王城から逃げるように動きのは確かだろう。とすると、本来の合流地点へ向かうか、とにかく味方を探すかのどちらかを選択して動くことになる――


「……まずいかもしれないな」


 思考する過程で俺は一つ、考えついたことがあった。


「どうした?」


 騎士からの問い掛け。そこで俺は、考察を行う。


「バラバラに転移したら、まず仲間を集めるでしょう?」

「単独では危険だからむしろ当然だな」

「そして、俺達がやるべきことは……外部との連絡をとれる手段の構築と、拠点を作成すること」

「ああ、それは間違いない」

「例えば魔王城の北側に転移させられた場合だって、同じように動こうとしますよね?」

「そうだな。太陽の方角からおかしいことには気付くだろう。とはいえ、さすがに魔王城へ足を向けるわけにはいかない――」


 と、そこまで言って騎士は気付いたようだった。


「……どういう状況になっても、まずは魔王城から距離をとって島の端を目指すだろうな」

「なら、それを倒すために島の外周部に戦力を集めていたら……」

「一網打尽にされる可能性は十分ある。この推測が正しければ、私達は自ら死地へ向かうことになる」


 俺は騎士達が進もうとしていた方角を見る。気配はないが、魔王の島の中であるため当てにはならない。


「しかし、島の端にでもいかなければ外部と連絡をすることは難しいだろう」

「二者択一ですね。連絡をとるためにそちらへ進む。ただし、強力な魔物や魔族がいる可能性がある」

「そしてもう一つは、この周辺で拠点を構え、仲間と合流する」

「魔王の城からは遠いにしても、危険であることに変わりがない。どちらが果たしてマシな選択肢なのか……」


 決断に迫られる。その中で俺がとれる行動は――


「なら、俺が南側の様子を窺います」


 その言葉に対し、騎士は驚き目を見張った。


「君が?」

「南側の様子を確認し、俺達の考えが正解なのかどうかを確認してきます」

「君一人で行くのか? それこそ私達が……」

「あくまで調査ですから。それに、島の大きさなどを検証する必要性もありますし、なおかつ俺一人の方が動きやすい」


 ――場合によっては敵を倒そうという腹づもりなのだが。騎士はこちらの発言に黙考し始める。


 状況的に、そう時間をとることも難しい。判断は早めにしなければ取り返しのつかないことになる……周囲に魔物はいないが、ここは敵の本拠地である以上、何が起きてもおかしくない。果たして――


「……わかった。私達は他に味方がないか、周辺を調べよう」

「わかりました。ここをお願いします」


 そう告げ、俺は全速力で進路を南へ向けたのだった。






 島は想定以上に広く、俺が全速力で駆け抜けても島の端まで辿り着かないくらいに広がっている。


「無茶苦茶だな……」


 騎士達が随伴していたら、一日二日で到達できるような状況ではないぞ、これは……道中には魔物がいることも厄介な要素だった。俺はその全てを倒していくのだが、正直言ってキリがない。なおかつ、魔物は結構強い。島の外周部に戦力を集めている……というのは、どうやら正解らしい。


「俺達を絶対に逃がさないようにするため……という思惑もありそうだな」


 いや、そもそもこの調子だと島の端に辿り着いたからといって外と連絡がとれるかどうかも怪しいぞ……そうだとしたら、俺達は戦力を結集させ魔王に挑むくらいしか、打てる手がないのではないか。


「不利な情報ばかりが増えていくな……わかっていたこととはいえ、正直それでも想定外のことが多い」


 ここは魔王の策略が上回っていたか……向こうは裏切りの魔族から情報をもらっていることがわかった上で対策をとったということ。なおかつ、絶対に逃がさないという気概が確実にある。

 これでは魔王との戦いに勝つというレベルには至っていない。果たして戦える状態にまで到達できるのか……そのレベルの話になってくる。


「セレンは無事だろうか……」


 その中で気になるのは、セレンやギルジア……他の勇者達。この状況下では、様々な戦いを経験してきた勇者達の力は大きくなるだろう。特にギルジアなんかは――


「待てよ……もし彼の近くにシェノンさんがいなかったら……」


 この状況は二人にとってかなりまずいのでは……もし分断していたら、それだけで大きく戦力ダウンだ。


「二人を探すことが急務だな……」


 とはいえ、今はまず目先のことを片付けなければいけない……ひたすら南へ向け進路を向けているが、一向に端まで辿り着かない。時間的に夕刻まではまだ余裕があるけれど、太陽の傾き具合からするとあまりに距離があれば帰ったら夜になっている可能性がある。


 せめて夕刻までには戻らないと……そんな風に考えていた時、俺はあるものを見つけた。


「これは……」


 それを確認すると同時、魔王グラーギウスの陰湿さを、如実に理解した。


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