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修行の成果

 玉座にいた悪魔は、ゆっくりと……歩み寄るように進んでくる。距離もあるからまさかその速度でこちらへ来ようなどとは思っていないだろう。


「……どうやって戦う?」

「攻め寄せて来た際に反撃でどうにか」


 アバウトなセレの指示。まあ俺はノープランだから従うけど。


 それに……彼女の能力について、少なからず興味を持ったのも事実。巨体を持つ悪魔でさえ一蹴したのだ。この迷宮の支配者と思しき敵に対し、どこまで戦えるのか。後は、そうだな……彼女の剣筋を見て、場合によっては技術的に利用できないだろうか。それには、彼女の剣さばきをもう少し観察したい。


 そんな戦いとは別の欲求が生まれた矢先、悪魔の体がゆらりと傾いた。助走だ――そう感じた直後、悪魔の姿が、消えた。

 いや、それは消えるほどの速さでこちらへ突撃したということ。瞬きする程度の短い時間で、悪魔は俺達の眼前へと到達した。


 だが、俺とセレは即座に動けていた。彼女は右、俺は左で放たれた悪魔の腕をまずは受けるべく剣を構える。

 そして、彼女の指示通り反撃を――そこまでは良かった。ただここで一つ誤算が生じた。


 というのも悪魔の攻撃速度が、俺の予想よりも幾分早かった。魔力の多寡から食らっても無傷で済んだに違いないのだが、二千年の修行によるものか、攻撃が届くと体が判断した瞬間、勝手に動き出した。



 そして直感する――あ、加減を間違えた。



 剣を振り抜いた瞬間、白い魔力が迸って視界を包む。次いで見えた先にあったのは、斬撃によって右腕が消し飛んだ悪魔の姿。

 対するセレは、放たれた拳を剣戟に跳ね上げ、肩口へ一閃した。両断とまでいかなかったが、悪魔の左腕が動きを止め、反撃によって敵は硬直する。


 で、当の彼女は俺がもたらした結果に少し驚いているのが気配でわかる……が、言及はせず悪魔へ追撃した。俺はそれに合わせて足を前に出す。


『――はあああっ!』


 俺とセレの声が洞窟内に響き渡る。そして放たれた渾身の一撃――俺達の刃がしかと悪魔の身に入り、悲鳴のようなくぐもった音が聞こえた。

 それは紛れもなく断末魔。俺達の攻撃に耐えきれず、とうとう悪魔は崩れ落ち、やがて塵と化した。


「……倒した、か」


 呟きつつ、俺は改めて確信する。このダンジョンの悪魔……というか支配者の実力は相当なものだった。そもそも今まで誰も踏破できなかったのだから、当然だ。だがそれを俺は一蹴した……セレの力もあるだろうけど、単独だとしても倒せたはずだ。

 俺の力は現実世界でも通用する……もしかすると、魔王だって――そこで、一つ気付いた。


「……どうした?」


 セレへ問い掛かる。なんだかこちらへ目を向けているのだけど……まあ悪魔の腕を吹っ飛ばしたのはやり過ぎだったか?


「ううん、何でもない」


 しかし彼女はそう応じた。気になるが、尋ねるようなことはしない……か。

 ま、これは自分の身の上もあまり語っていないし、答えが返ってくるとは考えていないが故の判断だろう……さて、俺は支配者のいた部屋を見やる。明かりが煌々と存在しており、ひとまず消える気配はない。調べるには十分だな。


「お宝があるか、確認しないといけないな」


 俺は歩き始める。一方のセレは、やや遅れて俺に追随することになった。






 このダンジョンの支配者は、宝を持っている……などという噂が存在していたわけだが、その真実は、


「おお……」

「これはすごいね」


 俺は感嘆の声を発し、セレは目を見開いた。玉座のある部屋からさらに一つ奥へ進んだ部屋の中に、貴金属を中心とした、文字通りお宝の山が存在していた。

 さすがに金貨が山になっているレベルではないにしろ、大小様々な物品が床に埋め尽くすように置かれている。もしこのダンジョンがこれからも存続していたのだとしたら、部屋の天井に届くくらいの宝が詰め込まれることになっただろう。


 さて、物色させてもらうか……と思いつつ部屋の中を進む。床に宝石なんかが転がっているので、非常に歩きにくいことこの上ないのだが……ここで俺は、金貨の袋を見つけた。


「お、これは……」


 中を確認すると、古めかしい金貨が出てきた。トレジャーハンターとかとも交流があったので記憶にある。確か、


「古代王国ブラスの金貨だな」


 美術的価値、コレクター的価値、さらに金貨そのものの価値……なんでもただの金ではなく、魔法の触媒などにも利用できる超強力な道具らしい。そういうわけで、とんでもない価値がある。一枚売り払うだけで、下手すると人が一年は食べていける額になる。

 それが金貨の袋一杯に……宝石とかは床に置かれっぱなしなのに、これだけ棚へわかるように置かれているところを見ると、迷宮支配者のお気に入りだったのか?


 うん、かさばらないし報酬としてはこれだけ受け取っておこう。十分過ぎるくらいだ。


「……それを持っていくの?」


 セレが尋ねる。俺は「ああ」と返事をして、


「この部屋の全てを持っていくことはできないし、それに……」


 俺は床に落ちているペンダントの一つを拾い上げる。


「これたぶん、略奪品だろ? それを持って帰るのもなあ……でも、この金貨は発掘品っぽいし、それなら良いかな、と」

「他の物は置いていくと?」

「というより、君に任せようかと」


 セレはキョトンとなった。ここで俺は間髪入れず、


「単なる冒険者でないことは最初からわかりきっていたし、どういうことなのか首を傾げていたが……強力な剣を持っている以上、騎士か何かなんだろ?」


 彼女の肩が跳ねた。図星らしい。嘘はつけない性格のようだ。


 ただ騎士にしても、普通とは違う……俺は話でしか聞いたことがなかったけれど、そうだと断言できる。ウィンベル王国の領土から北に位置する場所……そこを根城とする魔王に対抗するために結集された騎士団。そこに所属する人達は、魔族に対抗するために強力な武具を所持している。その名は、


「つまり、魔族や悪魔を狩る『太陽騎士団』の人間だと俺は考えたんだけど、合っているか?」

「……さすがに、あんな武器まで出したら言い訳もできないよね」


 と、苦笑しながらセレは降参のポーズをした。


「そうだね。私は『太陽騎士団』に所属する騎士」

「……ここに一人で来たのには、理由があるのか?」


 疑問にセレは誤魔化すように笑った。ん、どうした?


「あー、えっと、そうだね……」


 言葉も歯切れが悪い。どうしたんだと思っていると、


「ダンジョンに潜ったのは……その、周辺の人達が被害に遭っているという理由からだけど」

「だったら討伐隊とか編成すればいいはずだけど……格好を変えて身分を隠す必要性もないだろ」


 セレは再び誤魔化すように笑う……なんだろう、騎士であることは間違いなさそうだけど、何か問題があるのか?


「……秘密にしてくれる?」

「つまり、騎士に出会っても喋らないでくれるか、ってことか?」


 コクコクと頷くセレ。俺は即座に、


「いいよ。というか、騎士と関わることなんてないだろうけどな」

「なら話すよ……その、私は各地あるダンジョンからの被害報告を聞いて、魔物を倒しているんだけど……」

「各地ってことは、普段からこういうことをやっているのか?」

「そうだね。で、この活動自体は……無断でやってるんだけど」

「はい?」


 耳を疑うような単語が飛んできて、俺は思わず聞き返した。


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