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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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魔王の島

 俺が援護した第二陣の騎士達もまた、本来の転移場所へ向かうらしく南へ進路を向けた。俺は他の味方を助けるためなお動くつもりだったのだが、ここで一つ質問した。


「騎士エルマや勇者達は?」

「わかりません。連絡を取り合うことも難しく」


 渋い顔をする男性騎士。俺もなんとか魔法で呼び掛けられないかと思ったのだが、魔王の島ではやはり妨害されるらしい。


「特に連絡系の魔法はかなりキツい妨害魔法が掛かっています。攻撃魔法は通常通り使用できるというのに」


 ……よほど、俺達を合流させないというわけか。とりあえず南へ進路を向ければ合流することができるのは間違いないが、ここまで徹底していると、まだ何か策があるのかと疑ってしまう。

 ただそれを看破しなければ……そして妨害魔法をなんとか解除しなければ、勝つのは厳しいだろうな。俺はそう判断し、味方救出と共に情報集めをしようと考える。


 騎士達と別れ、俺は動き出す……戦いは始まったばかりだがここが間違いなく正念場だ。

 俺は全速力で動き続ける。途中に幾度となく魔物と交戦する騎士と合流し、その都度助けたが……セレンを含め仲間の情報がまったくない。


「これは、まずいか……?」


 俺は周囲を見回す。魔王の島……その広さなどについてもちゃんと確認しているはずなのだが、少なくとも転移した場所が似通っているのなら、戦闘音などで見つけることができそうなくらいの規模である。けれど、騎士は見つかれど勇者や仲間は見つけられない。

 俺はここで、一つ思いついたことがあって辺りの地形を確認する。少し距離はあるが、小高い山を発見。俺はそこを目指すべく、走り出した。


「もしかして、島が……」


 地図を頭の中に思い浮かべる。現在位置が上手く把握できないため、不明瞭な部分はあるが……俺は全速力で走った。道中にいる魔物を倒しつつ、山へ向かってひた走る。

 そちらに戦闘音などはないため、味方がいる可能性は低いのだが……やがて麓に辿り着いて、俺は速度を変えないままひたすら進み続けた。そうしてあっという間に山の頂点に差し掛かり、確認すると、


「これは……」


 俺は思わず呻いた。三百六十度、見渡す限り……地平線が広がっている。

 魔王の島について規模も地図からある程度把握している。とはいえそれは決して地平線が見えるほど大きくはない。


 俺達が転移した場所が島の中心である、ということ差し引いたとしても、どうやらこの島は俺達の想像以上に大きい……というより、魔法か何かによって拡張していると考えるべきだ。


「いくらなんでも無茶苦茶だな……」


 魔族ブルーの地図は、あくまで本来ある島の規模に準じた枠組みでしかない。それを超えるだけ魔法で拡張されていると考えたら……。


「俺達が持っている地図は、大きくなった島の一部分ってわけだ。ということは、地図は一切当てにならないな」


 ただこれだともう一つ問題が出てくる。騎士達は本来の転移場所へ向かって進んでいるわけだが、地図を頼りにしていては辿り着くまでに時間が掛かる……俺が幾度となく助けたことでそうした騎士達が合流し、固まって行動していたとしたら、拠点とはいかなくとも結界魔法を利用して休憩場所でも確保できそうだが、それができなかったら――


「とにかく、この情報は共有した方がいいな……けど、騎士にどうやって伝える?」


 俺は山の上から人がいないかを確認する。だが、隠れているのかそれともこの周辺にいる騎士達は全て助けたか、人の姿はない。

 ここで俺は漆黒の城を観察。距離はあるが、威圧感は相当なもので……なおかつ、城の向こうにも平野や山が広がっているところを見ると、城の位置は島の中央付近にかもしれない。


「魔族ブルーの地図では、魔王の城は島の端の方だったけど……想像できないくらいに広がっているな」


 例えばの話、城の向こう側で転移したとしたら……そこで俺はまずいと気付く。


「転移した場所がわからなければ、あの城を警戒して動くはずだ。ということは、城から逃れる形で移動する……これではいつまで経っても合流できないな」


 バラバラに転移してしまった騎士達をどうにか合流させる。それが俺のやるべきことみたいだが、どうやって――


「……ん、待てよ」


 一つ、思いついたことがあった。とはいえそれは諸刃の剣……かなり危険がつきまとうし、思惑通りになるかどうかもわからない。

 それは、魔法などを使ってあえて俺がいる場所を知らせること。これで味方が来ればいいし、敵が来ても迎撃できる……が、敵の罠だと警戒される可能性もある。ただ魔物と戦う羽目になるだけならマシで、俺の場所がわかった途端、合流しようとして魔物と遭遇したなんて展開にもなりかねない。


「まだ、やるべきじゃないか……? だとすると、他に方法は――」


 なおも山の上から見回していると……俺は、遠くで爆発音を耳にした。


「距離はあるな……」


 誰かが戦闘しているけど、今から駆けつけて間に合う距離じゃないな。


「とりあえず、周辺については問題なさそうだから……まずは先ほど助けた騎士達と合流するか」


 そして事情を説明しよう。加え、先ほど聞こえた音の方角へ向かって様子を窺う……大変ではあるが、二千年の修行によりこんな現状でも耐えうるだけの能力は持っている。今がそれの使いどころだ。

 俺は山を駆け下りて、助けた騎士達を追うことに。その道中で幾度となく魔物と交戦するが、その全てを一撃で倒す。


 魔物の能力については決して低くはないが、その全てが最高クラスというわけでもない。この場所へ来た騎士達ならば、連携で対処できるくらいだろう。


「でも、魔族が出たら一気に状況が変わるな……」


 俺は気配を探ってみるが、上手いこと機能しない。敵の勢力圏のまっただ中にいることから仕方がないとはいえ、かなりキツいハンデを背負っているな。


「勢力圏の確保……それが何より重要か」


 しかし、現状ではどこに敵がいるのかわからない以上、果たして満足のいく拠点を築けるのか……疑問に思いつつも、足を動かし続ける。そして、俺は騎士達が戦う戦闘音をはっきりと耳にした。


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