転移先
転移の光が、一時俺を包む……浮遊感を抱いた直後、俺は体に力を入れ……数秒後、地面に着地した。
「ひとまず問題なく着いた――」
そう言いかけた時、俺はすぐ異変に気付いた。転移先は草原だったはずだ。魔族ブルーの地図を見ればそれで間違いない。
だが、転移した足下は瓦礫……そればかりではない。周囲は廃墟になった建物が存在する……。
「転移魔法が妨害されて……というわけか」
俺はすぐに状況を把握し――なおかつ、セレンがいないことに気付いた。どうやら孤立しているらしい。
状況は、よろしくない……というより、何が起こったのかわからないと言うべきか。
「早速、精神訓練が役に立ちそうだな……」
どこかで休める場所を探した方がいいだろうか……と、遠くから爆音が聞こえてくる。誰かが戦っていると考えるところではあるが……いや、これが罠である可能性もあるのか?
「どうする……?」
選択肢はいくつもあるが……まずは仲間を見つけるところから――
そこまで考えた時、俺は見つけた。島の奥……そこに、天を衝くような漆黒の城がそびえ立っていることを。
「あれが、魔王の城か……」
見ているだけでも威圧されそうな、巨大な建造物。島の外からでも見れそうだけど、少なくとも騎士エルマなどから報告がなかった。ということは、島の外側からは幻術などで見えないようにしている、というわけだ。
俺は逆方向へ目を向ける。そちらには建造物らしきものが一切なく、爆音もそちらから聞こえてくる。
「島の中央部に誘い込んで、本来の転移ポイントへ向かう騎士や勇者を倒しているってことか……」
俺は状況をある程度理解し、さらに周辺を見回す。瓦礫が大量にある場所で、遮蔽物も少ない。そもそも家の外壁などが残されているが、ボロボロで隠れるには適さない。
「まずは拠点を作成しないとまずいよな……けど、俺一人ではどうにもできない」
ならば、人を集めること……俺は走り出す。まずは爆音のする方角へ。そこで騎士や勇者と合流し、人を集めて拠点を作る。
とはいえ、本来転移を予定していた場所へ向かうのが筋か……考える間にも音が聞こえてくる。明らかに戦闘音であり、近づくと人の声が聞こえてくる。
この調子だと、俺達に続く騎士達も……とはいえ外と連絡をとることができないため、完全に敵の策略にはまってしまっている。
「俺達を孤立させて各個撃破するってやり方か……」
敵の目論見を理解し、俺は魔王の島を駆ける。やがて辿り着いた戦場は……騎士達が奮戦していた。
「魔物を倒せ! ここで退けば負けるぞ!」
そう指示を飛ばす男性騎士。他にも魔法使いや複数の騎士がいて、魔物と交戦していた。
相手は多数の骸骨騎士。魔力だけを見ても、どうやら普通の魔物とは違う。味方も精鋭ではあるが、それでも互角に渡り合うのがやっと……いや、数が多いことも起因しているだろう。ならば、まずは数を減らす!
俺は決断して戦場へと飛び出す。そして味方がこちらに気付くと、歓声が上がった。
そうした中で俺は、剣を振り手近にいた魔物を斬った。手応えは十分、俺なら一撃で倒せる……そう判断して、俺は続けざまに魔物を斬る。
数体まとめて倒した直後、呼応するように騎士達も応戦する。士気を取り戻し、魔法と剣による連携によって、どうにか魔物を倒していく。
俺が参戦しておよそ五分後、周辺に魔物がいなくなる。短い戦闘ではあったが、これが延々と続くのであれば……危険な状況であるのは間違いない。
「ありがとうございます」
礼を述べる騎士。先ほど指揮していた男性騎士だ。
「あなた方は、第一陣ですか?」
見覚えのある人がいなかったため問い掛けると、男性騎士は頷いた。
「はい、突然孤立した状態で転移し、近くにいた人を集めて態勢を整えようと動いていました」
その中で、俺が近くに転移したと……辺りを見回すが、少なくとも他に仲間は見受けられない。
遠くで戦闘音らしきものが聞こえてくるけど……救援に向かうべきか、それとも彼らと連携するべきか?
「私達は、本来の転移場所へ戻ります」
と、男性騎士は告げる。
「漆黒の城……あちらとは逆方向に進めば魔王由来の魔力も弱いですので、そちらを目指そうかと」
「……魔力の薄い方角を目指すと?」
「はい。地図を確認すれば、城から逆……そちらへ歩めば、所定の位置に到達します」
なるほど……俺は彼らが進むであろう方角を見た。魔物と交戦していたわけだが、他に気配は見当たらない。
ただ、正直気配を探っても当てにならないかもしれない……そんな予感を抱きつつ、俺は男性騎士へ問い掛けた。
「俺はどうすれば?」
「あなたは遊撃という扱いだったはず。であれば――」
それ以上は言わなかった。自由に動けというわけだ。
彼らのことは心配ではあるけれど、俺がやるべきことは、とにかく味方を助けることであると判断。よって、
「では、他の場所で戦っている騎士や勇者の援護に向かいます」
「はい、ご武運を」
俺が頷くと彼らは移動を開始。そして俺は……音のする方角へと駆け出す。
走りながら記憶した地図を頭の中で浮かべて思考する。先ほど男性騎士が言っていたように、本来転移する場所は魔王の城とは反対側。方角的に言えば魔王の城が北で、転移場所が南。
俺は太陽を見て方角を確認する。目指すべきは南……とにかく方角については逐一チェックしないと迷いそうだ。
そこに気をつけ、仲間を助けていこう……そう考えていると、爆音がいよいよ近くなっていた。
「おおお!」
そして声が聞こえてくる。接近すると、騎士と魔法使いが骸骨騎士と交戦しているという、先ほどと同じ状況。ただ騎士の顔に見覚えがあるため、第二陣のメンバーだ。
そこに俺が割って入って魔物を倒す。騎士は驚きつつ「感謝する」と述べ、俺と連携して魔物を撃破することに成功した。
「合流したのは、これだけですか?」
こちらの質問に騎士は頷く。第二陣だって結構な人数いたはずだが、ずいぶんとバラバラになっている。
相当手の込んだ策略だな……そう思いつつ、遊撃として立ち回っていかないと、と剣を強く握りしめた。




