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万の異名を持つ英雄~追放され、見捨てられた冒険者は、世界を救う剣士になる~  作者: 陽山純樹
第三章

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勢力圏

 そうして――いよいよ魔王の島へ踏み込む日を迎える。転移術式は既に組み上がっており、他の島にいる騎士や勇者にも連絡はしたらしい。


「私達は第二陣です」


 騎士エルマが言う。まずは他の島にいる騎士達が踏み込み、それに少し遅れて俺達が転移する形のようだ。

 周囲にいる騎士や勇者達は既に臨戦態勢。天気もよく、攻撃を仕掛けるには絶好のタイミングだ。


 それに対し魔王の動きはまったくない。結局攻撃当日になっても敵はこちらに仕掛ける気配がなかった。不気味を通り越して奇っ怪な状況になりつつあるが……それを警戒しても仕方がないし、あるいは膠着状態が敵の狙いかもしれない。よって、俺達は予定通り攻撃を行う。


「敵陣の中に踏み込んでどうなるかについてはわからないですが、可能な限り第一陣と連絡を取り合います。それに応じて立ち回りを変える……島へ踏み込んだ時点で連絡が途絶する可能性が高いのですが、転移により踏み込む時間に関しては予定通りに」


 着々と準備が進んでいく。近くにいるヴィオンやカイムの表情は明るい。

 そこで俺はセレンへ顔を向ける。


「大丈夫そうだな」

「うん。高揚感があるくらいだね」

「……どんな状況に陥るかわからない。俺達は遊撃という立場だが、離れないようにしよう」

「わかってる……敵陣の中で孤立したらどうなるか、予想できないわけじゃないし」


 少なくとも単独行動なんてことはやるべきじゃないな……さすがにセレンとしても、今回の敵の強さを理解している以上、無理なことはしないようだ。


 ただ、もし仲間が危機的状況になっていたとしたら……尋ねようか迷ったが、それもまた状況次第としか言いようがないため、俺は何も言わなかった。

 遊撃という立場である以上、場に合わせて動く必要がある……どこまで上手く立ち回れるのかまったくわからない。不安要素の一つであるが、覚悟を決めるしかない。


 その時、騎士エルマが魔法を使って会話を始めた。それと共に指示を出し、魔法使いが転移魔法を起動させる。地面に描かれた魔法陣が発光し、そこへ踏み込めば……という形式だ。


「第一陣、攻撃を開始しました」


 俺達の間に緊張が走る。


「踏み込んだ先で連絡を取り合えるか試しているのですが、やはり妨害されているようです」

「情報についてはさすがに制限されるというわけだ」


 ギルジアが言う。やはり魔王のいる本拠地で、情報のやりとりは厳しいか。


「問題は、ちゃんと転移できているかどうかだが」


 結構怖いことを言う。まあ確かに、転移に失敗とかしていたら……というか妨害されていたら、戦いどころではないのだが。

 不安に思っていると……魔王の島から炸裂音みたいな音が聞こえてきた。今まで何もなかった島に……どうやら転移した騎士達が動き出している。


「転移は成されているようですね」


 騎士エルマが言う。ギルジアも納得したか幾度かうんうんと頷いた。そしてエルマが、


「おそらくですが、魔王の島へ転移したら陣地の取り合いになるでしょう」


 陣地……騎士エルマの言葉を俺は黙って聞き続ける。


「皆様には転移直後、敵と交戦して安全圏の確保に動いてもらいます。まずは休める場所、外部と連絡を取り合える場所……この島に待機する人間と連絡できるようにする。また自由に外部と行き来ができる状況を作成する」


 さすがにここを空にするわけにはいかない。加え、敵側がこの拠点へ攻撃を仕掛ける可能性もある。それらを考慮し、ここに待機する騎士もいるわけだが……突入後、まずはここに戻れるよう足場固めをするというわけだ。


「陣地の取り合いというのは、より正確に言えば魔力圏の確保です。島内へ踏み込んだ部隊との連絡がつかないということは、魔王か島の魔力によって情報を阻害されている。しかしそれを解消すれば、連絡できる……」

「人間の魔力圏を確保することが、優先ってことか」


 俺の言葉に騎士エルマはそう頷いた。


「はい。もし短期決戦による攻略が難しいとわかれば、当然腰を据えた戦いをする必要が出てきます。その場合、精神的な疲弊や食料の問題など、様々な課題に直面するわけですが、それは外部と連絡がつき、自由に転移できるようになれば解消されるわけです」


 物資と人のやりとりができれば、長期間戦い続けることができる……うん、自分達の勢力圏を手に入れる。それが優先事項であるのはわかる。


「魔族ブルーから得た地図を、頭に叩き込んだはずです」


 エルマの言葉に俺は頷く。ギルジアから訓練を受ける間に、地図についても見て憶えた。俺達が今から転移するのは、魔王の島の端……周囲は草っ原で、左右に森が広がり、真正面を進めば魔王の城へ行けるという地形だ。


「その周辺で魔力圏を確保します。それさえできれば、魔王との戦い……その第一関門はクリアしたと考えて良いでしょう」

「最初が何より肝心だな」


 発言したのはヴィオン。俺も同意し、小さく頷いた。

 そこから騎士エルマは魔法により先行部隊とやりとりをする……が、やはり転移した者達から連絡は来ないらしい。


 やがて第一陣の部隊が全員転移を終える……いよいよ俺達の番だ。


「転移先での動きを言います」


 騎士エルマは現状と照らし合わせ、新たに指示を出す。


「こちらが移動中に第一陣の部隊が魔力圏を確保できたのなら、魔力圏を守るために動いてください。まずは自分達の陣地を、退路を確保することが優先です」


 勇者達も首肯する。最初の目標は、何より魔王の島で勢力圏を得ること


「その後のことは、敵の状況などを見ながらでなければ厳しいため、追って指示を出します」


 そして騎士達が魔法陣へ歩み寄る。いよいよ始まるか。


「では、第二陣……攻撃を開始します」


 騎士エルマの言葉と共に、騎士が転移魔法陣に踏み込んだ。次の瞬間、光が生まれその中に騎士が消える……そして光がなくなった時、彼らの姿はなかった。

 その後も次々と魔法陣の中へ騎士が入る……やがて勇者達の出番となり、俺とセレンが前に出た。


「頼むぜ」


 ギルジアが言う。気付けば他の勇者達も俺とセレンに視線を送っている。

 どこまで戦えるかわからない……が、これまでの功績を振り返り、少なくとも魔族や魔物を討つ力がある。それを胸に刻み、作戦を成功させよう……そう心に誓いながら、俺はセレンと共に、魔法陣へ足を踏み出した。


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