平穏な時間
以降、ギルジアの仲介によって俺は勇者達から話を聞いた。
その目的については様々だった。例えばオムトは年齢から最後の仕事として、命を失う覚悟で戦いに赴いているけど、他にも金のためだとか、あるいは名声のためとか、そういうケースもあった。
中には品行方正みたいな見た目をしているのに、
「いや、その。借金が多くて……」
なんて理由もあった。カーナよりもひどい……ちなみに原因はギャンブルらしい。なんというか、本当に色々な種類が勇者にはいるな。
で、接してみてわかったことは俺に対する見解は共通していたことだ。エルディアト王国で行った決闘……圧倒的な力を見せて勝利したことや、レドとの決戦でもたった一人で打ち破ったことなど、色々な要因が重なって俺の実力から信頼しているとのことだった。
そこについては非常に嬉しく思ったし、なおさら頑張らなければ、という強い考えも生まれた。
そんな風に色々と話をしている間に日が暮れ始める。拠点を盤石なものとし、なおかつ決戦準備が整うまで数日は掛かるらしいので、とりあえず明日以降も警戒はするけど暇な時間が生まれそうだ。
「ま、今のうちに英気を養えばいいさ」
と、夕食の時間になってギルジアが俺へと言う……食事については小屋があるしそちらで食べてもいいのだが、なんとなく火を囲んでキャンプみたく食べることにした。ちなみに俺と一緒に火を囲んでいるのはセレンとギルジア、シェノンに騎士エルマだ。
「ここに来てあくせくする必要はないだろ。腕が鈍らない程度に剣を振り、決戦に備えていればいい」
「ずいぶんと悠長だな……」
「もちろん警戒はするさ。ただ、疲労は完全に抜いておかないと大変なことになるぞ? 何せ、魔王のいる島へ踏み込んだら……どうなるかわからないからな」
――場合によっては、休みなく戦い続ける可能性もあるって話か。
「そこが、一番の懸念ですね」
と、騎士エルマは語り出す。
「魔族ブルーから、島内の地図については把握していますし、明日以降に皆さんにも頭に叩き込んでもらいます。ただ、裏切り者がいるとわかっている以上、さすがに地図が完全に役立つとは思えません。力があるのなら、地形を変えることすら可能でしょうし」
「だろうな」
ギルジアは同意。そしてセレンもまた頷いた。
「一番の問題は、安全な場所を確保できるのかどうか……」
「持久戦となれば……それこそ、休むこともできない長期戦となれば、私達人間は不利でしょう。ましてや敵の居城へ踏み込むわけですから、最悪の想定も考慮しなければならない」
「何か対策は、あるのか?」
俺が問い掛けるとエルマは難しい表情をして、
「安全、と断定することはできませんが、結界などを用いて休める場所を確保することはできます。もっとも、魔王のその配下の実力によって、本当に安全なのか変わりますけど」
……相手の陣地へ踏み込む以上、何が起こってもおかしくないというわけだ。
裏切り者の魔族から情報をもらって色々対策を施しているわけだが、その全てが機能するとは思えない……エルディアト王国側も、色々と懸念しながら決戦準備をしているようだ。
「それと、皆様にご報告が」
と、騎士エルマは俺達へ告げる。
「魔王の島へ攻撃を仕掛ける際ですが、他の拠点と同時攻撃ではなく、少し時間をおいてからの攻撃になります。これは同時攻撃によって敵の反撃を懸念してのことです」
「一斉に侵入して、そこで大規模魔法とか行使されたら終わりって話だな」
「もちろんその辺りの対策もしっかりとした上で攻撃をするため、大丈夫だとは思いますが」
「ま、やれることをしっかりやる、でいいんじゃないか?」
水を飲みながらギルジアが応じる。
「島の中については詳細がわからない。最初に侵入を果たした部隊から情報をもらいつつ、臨機応変に立ち回る……それが今のところベストだろ」
「はい、そうですね」
「今のうちに、色々な想定とかやっておくべきか?」
俺の質問に対し、騎士エルマは首を左右に振る。
「いえ、それはこちらでやりますので。皆様はご自身の体調を万全にすることだけを考えてください」
「……わかった」
ここに来て騎士達の負担が増えているみたいだが……いや、この戦いにおいて騎士達も分担しているということか。後方支援に徹するタイプと前線で戦うタイプ。騎士エルマについては後者だと思うが、それでも指揮官として役目を全うしている。
心労なども大きいはずだが、少なくとも今の姿を見てそれを感じさせることはない……何かできればと思う自分がいるけれど、エルディアト王国の騎士達がやると言っている以上、俺が無理に手伝うのはかえって迷惑になるだろう。
ただ、決戦が近いため気持ちは逸っている……と、そんな俺の様子を見て、ギルジアが一つ発言した。
「何かやりたいって気持ちみたいだな」
「そりゃあ、決戦直前だからな」
「恐怖で身を竦ませているよりはずっといいが……と、そうだ。何かやりたいのであれば、一つ提案があるんだが」
「提案?」
「ああ。俺とシェノンで魔王や魔王軍幹部の敵と戦うための対策は立てているんだが、それについてそちらにも教えようとか考えてだな」
「俺に? 具体的に何をするんだ?」
「といっても剣を振り続けるとか激しい鍛錬じゃない。精神訓練といった方がいいな」
精神、か……二千年の修行でそういったことはあまりやってこなかったな。
元々異常な空間であったため、精神的に変化がなかったことも大きいけど。確かに、何かしら有用なことがあるかもしれない。
「疲労とかは大丈夫なのか?」
「肉体的に疲れることはないさ。ま、敵に囲まれても平静でいられるように……という精神制御みたいなものだから、たぶん役に立つとは思うぜ」
「あ、私も参加する」
と、セレンが小さく手を上げた。それにギルジアは「いいぜ」と応じ、
「それじゃあ明日、早速やるとしよう。時間は……そうだな、朝食後に集まるとするか――」




