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最奥の悪魔

 国の情報であれば、国家の安全と人々を守るため、ダンジョン攻略に必要な情報は全て集めるだろう。実際、冒険者ギルドで聞き込みをしている兵士の姿を見たことがある。彼女、セレはそうした所から情報を得たのだとしたら……さらに小さい頃から入隊なんてことも十分あるため、彼女のような存在が出てくる可能性はある。


 そうなると、俺の知識ではどういう人なのかわからない……というのも、冒険者稼業はやっていて、幾度か仕事で騎士と関わったこともあるのだが、さすがに騎士の名前まではわからない。この国……ウィンベル王国で有名な騎士は異名持っているのだが、名称くらいしか知らない。


 ただ仮に騎士なら、彼女の年齢だと士官学校とかにいるはずだが……その技量を認められて早期に卒業したか、あるいは剣の腕を見込まれてスカウトされたか……どちらにせよ、相当な経歴を所持していることになるが――


「どうしたの?」


 キョトンとした表情で俺へ尋ねてくるセレ。いけない、考え事に集中しすぎた。


 ま、俺の見立てが正しければ、少なくとも彼女が怪しい人物という可能性は低い。少なくとも国に認められている……はず。ただ彼女がもし有名な勇者だとしたら、少し反省すべきか。冒険者稼業をやっていた知識を吸収し続けてきたけど、人物についてとか世情などに疎くなっていたかもしれない。


「いや、何でもないよ……さて」


 俺は暗闇を見据える。ずいぶんと下層へ来た。このダンジョンがどこまで続いているのかわからないが……そろそろ終着点が来てもおかしくはない。

 俺とセレは隣に立つ形で歩んでいく。双方とも魔物が横から飛び出さないか気を張ってはいるけど、単なる魔物ならば問題はない。懸念は悪魔の類いだけど、今のところ遭遇はしていない。


 もし悪魔と出会ったらどうすべきか。さすがにセレも辛いと思うのだが……瞬殺するのも怪しまれるか? いや、俺の実力をある程度認識しているわけだし、今更悪魔を倒せたからといって驚くようなことはないかも――


「アシル」


 セレからの呼び掛け。俺は立ち止まり、真正面を見据える。距離はあるが……通路の先に、巨大な扉があった。

 自然洞窟ではあり得ない人工物。間違いない、あそこがゴールだ。ただあれがダンジョンの支配者がいる場所なのか、それとも宝物庫の類いなのかは外観だけではわからない。


「ここまで来たはいいけど……問題はどうやって中を調べるか、だな」

「堂々と入らないの?」


 セレが尋ねてくる……いや、さすがに「正面突破しよう」などと言えば怪しまれるかな、と思いわざわざどうしようか悩むような言動をしたのに……。


「ダンジョン支配者に勝てる自信があるのか?」

「勝てるかどうかはわからないけれど、どんな存在なのか見てみたい気持ちはあるよ」


 好奇心が旺盛というよりは……その瞳の奥には、勝てるという強い確信を抱いているようにも思える。

 ともあれ、どうするかは様子を見なければ始まらない。俺は足を前に出し、セレもそれに同調し歩き出す――


 その時、ズシンという重い音が洞窟内に響き渡った。音はどうやら扉の奥……こちらに気付いているという意思表示か。


「今から引き返しても逃げられないみたいな感じか?」

「そうだと思う」


 俺の言葉にセレは首肯。直後、大きな扉がゆっくりと開き始めた。

 敵側もやる気らしい……俺達は少しずつ歩んでいく。扉の先も暗闇だったのだが……突如、明かりが発生。室内をはっきりと照らす。


 そこには、筋骨隆々とした黒い悪魔の姿……しかも先ほど交戦したゴーレム以上の巨体を持った悪魔が十数体。もうそれだけで逃げられないと悟るに十分過ぎるほどの威圧感ではあるのだが、そいつらはあくまで支配者を守る親衛隊のようなもの。

 本命は、部屋の奥にいた。王城の玉座の間を模した部屋なのか、真っ直ぐ進めば三段ほどの階段がある。その先にある玉座に、人間と同程度の体格を持った悪魔がいた。そちらの色もまた漆黒。ただ武装しているのか、鎧のようなものを着ている。


 そしてその悪魔は玉座に鎮座して、俺達を見下ろしている……次の瞬間、周囲の悪魔達が吠えた。俺達を敵と見定め、攻撃しようとしている。


「……どうする?」


 問い掛けた時、彼女は意味深な表情をしていた。何事かを考え、俺を一瞥。そして、


「……さすがにこれは、使うしかないか」


 急にどうした――と言おうとした矢先、彼女は握っていた鉄の剣を鞘に収め、もう一本の、魔力が発露する方の柄に手を掛けた。

 それをゆっくりと引き抜く――途端、彼女の気配が変わったのではないか、と思うほどに魔力が生じた。


「それは……」


 魔力を少し発露していたが、よくそれだけで済んだな思うくらいの魔力だった。質も量も凡百の剣とは違う。どこかに由来のある――それこそ、伝説の剣かと思ってしまうほどの魔力だった。加え、刀身は青く光り輝き、洞窟の壁面などを照らす。

 直後、悪魔は反応し雄叫びを上げた。さすがに剣から発する魔力が尋常じゃないため、警戒した様子。


「切り札か?」


 答えてくれるのか疑問に思いながら尋ねると、


「あんまり使いたくないけどね……見ての通りすごい力だけど、反面隠れることもできなくなるし」


 確かにこんな場所だったら魔物を引き寄せてしまうよな……と、考えると同時に玉座にいる悪魔以外の巨体が突撃を開始した。


「アシルはそこで見ていて」


 このくらい、さっさと倒すから――そんな心の声を確かに聞いた。彼女は足に力を入れ、駆ける。それは今までとは比べものにならない速度で、巨大な悪魔へ肉薄した。

 彼女が持つ剣は確かに強力だが、図体のでかい悪魔を前にしてどこまでやれるのか。先頭にいた悪魔と彼女が交戦する。悪魔は拳を振りかざし、迫り来るセレへ向かって振り下ろす……それは拳で殴るというより、木っ端微塵に叩きつぶすという気概の攻撃だった。


 だが彼女は臆すことなく、放たれた拳に対し剣を薙いだ。青き剣と拳が激突する。普通ならば、セレが吹き飛ばされて終わり――のはずだ。

 しかし彼女の剣がさらに輝いた――直後、爆発した。いや、それは衝撃波……光を伴った衝撃波を剣先から放ったのだろう。突如爆発したとしか思えない轟音が洞窟内に響き、魔力が拡散。洞窟内に音が反響し、悪魔の体が吹き飛ばされる。


 そればかりではない。光が剣と打ち合った拳を浸食していく。まるで毒が体中に駆け巡るように光が悪魔の全身を包み、パアンという破裂音と共に悪魔が塵と化して消え去った。

 セレへ二体目の悪魔が迫る。だが彼女は先ほどと同様振りかざされた拳に対して光の剣を薙いで――今度は、腕をまるごと両断した。


 その戦いぶりは神話上で語られる、神の守護者である戦乙女のようだった。彼女の一振りで悪魔が消し飛んでいく。戦いぶりから、俺の出番はなさそうではあったのだが……別の個体が横からセレへ迫ってくる。

 あの様子から彼女は対処できるだろうけど……俺は剣を抜いた。魔力の刃が収束し、弧を描き刀身から放たれる。それは三体目と交戦しようとする横から攻撃しようとした悪魔の頭部へ直撃。ドン、と重い音を上げて首から上を吹き飛ばした。


「……あ」

「少しは活躍させてくれよ」


 俺の言葉にセレは三体目を倒しながら振り向いた。ちょっと驚いた様子を見せた後……笑顔を見せた。


「ありがとう、背中は任せていい?」

「ああ」


 承諾と共に、俺も戦線へ参加する。近づく悪魔を俺は斬撃で一蹴する――このダンジョンで出会ったばかりではあったが、息の合った戦いを披露することができた。悪魔を例外なく一撃で倒し、数を一気に減らしていく。

 すると悪魔が俺達を囲むよう動くが、こちらは互いを守るように背中合わせとなった。その瞬間、こんな相手にしかもとんでもない剣士と戦えていることに、興奮を覚えた。


 その感情を抑えつつ、俺は悪魔へ斬り込んでいく。全てを一撃で倒し続け……残るは玉座にいる悪魔だけとなる。

 俺達は周囲に敵がいなくなったのを見計らって玉座へ体を向ける。どう動くのか……悪魔はしばし俺達を見据えていた様子で……やがて、ゆっくりと玉座から立ち上がった。


 遠目から見ても、相当な力を保有している……気配を探ってみると、身の内にとんでもない魔力を抱えていることだけはわかったが……俺なら対処できるだろうレベルだった。

 ともあれ、油断はせずに構える……その時、悪魔がとうとう動き始めた。


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