シェアハピ?
あれから数日。入学式やら教科書販売やらの高校生活におけるチュートリアルを通過し、各科目の授業が始まった。まだ折り目もついていない教科書を開いて授業を聞きながら横の席をチラ見する。
「(普通に授業を受けてるな……いや生徒なんだし当然なんだが)」
板書が遅れない程度に様子を見ているが、しっかりと先端を黒板に向けて時折フンフンとうなずいてはノートにメモを取る。細い触手でぐるぐる巻きにしたシャープペンシルはポリポリと小気味よく音を立てて文字を書く。
「(……待て。なんだ今の擬音は)」
よく耳を澄まさないと聞こえないが、たしかにポリポリ聞こえる。シャーペンの芯が折れる音じゃない。一体何かと思うと。
「(こ、こいつ! 机の下でペッキー食べてやがる!)」
国民的知名度を誇る棒状チョコレート菓子を宣伝と同じように食している。それも別に生やした触手の先端に開いた小さな穴にチビチビと吸い込まれていく。よもやあれが口だとでもいうのか。
しかしここで問題が発生する。
「(僕は授業中の飲食を突っ込むべきかその珍妙な食し方について突っ込むべきか……!)」
そんな二択で迷っているとチャイムが鳴る。書ききれていない部分を消される前に急いで板書した。
授業の合間の短い休み時間。この間にどう話しかけたものかと考えようとしたが。
「ねぇねぇ淵神くん。見てたでしょ」
「おぅ? あ、あぁそうだな。うん。見てしまった、な?」
間髪入れず向こうから話しかけてきた。構えてなかったせいで妙に素直な返しになる。これはあれか、見られたからには生かしてはおかんとかそういうことか? ついにその触手が猛威を振るうのか!? 丸呑みか? 丸呑みだろ定番と言えば!
「よせ、俺はペッキーより格下の存在だ。無論、食するに値しない味だと思っている」
「ペッキーより下って結構自虐強くない? いやそうじゃなくて私が授業中にペッキー食べてたこと」
「いや、目撃はしたが別に教師にチクったりとかそんなことしな――」
「い、いつもそんなことしてるわけじゃないんだからね!? 今日はちょっと寝相して朝ごはん食べ損ねてお腹空いて授業中にお腹鳴ったら恥ずかしいから小腹を埋めてただけなんだよ! 決して! 決して授業中にまで隠れてご飯食べるハラペコちゃんじゃないからね!」
「わ、わかった。勘違いしない。元からそんなことさえ考えてなかったけど、むぐっ!」
理解を伝えていると急に口に何かをねじ込まれた。触手か!? 胃袋に媚で薬な液体を流し込もうってか!?
「もぐぐ、ん? 甘い……ちょこ?」
「その一本には口封じと賄賂、それに共犯者の意味が込められているのです! おいしい? 春限定の桜味だって」
「…………春の訪れを感じるな」
「ちょ! それは大袈裟だよwww あ、先生来た。じゃそういうことで!」
口に桜ペッキーを咥えながら次の授業の教科書を出す。巻月はもうなくなったのか間食せず真面目に授業を受けている。
こうして普通に高校生らしい会話をしてしまうと、驚くことにボディのことが気にならなくなっていた。年頃の、普通のJKである。
「(人げ……触手も、見た目で判断するもんじゃないってことか)」
「はいじゃあこの問題を……巻月さん。解いてくれますか?」
「はーい!」
彼女は手を挙げた勢いで触手を黒板まで伸ばし、器用にチョークをもって数式を書き連ねて回答する。
「はい正解です。よくできました」
「へへん! ブイ!(^^)v」
こちらにおそらくドヤ顔でブイサインを見せてきたのでひきつった笑顔でグッドを返しておく。
……やっぱりもう少し様子を見たほうがよさそうだ。